第二十六話「明かされる真実」
第二十六話「明かされる真実」
白い部屋に、椅子が二つあった。
老婆が一つに座った。私も座るように言われた。座った。
老婆がしばらく私を見ていた。何かを確かめるような目だった。
「名前を聞いていいですか」と私が言った。
「所長だ。それで十分だろう」
「わかりました、所長」
所長が少し目を細めた。
「……お前は本当に、元と似ている」
「元、というのは」
「順番に話す」と所長が言った。「聞け」
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「魔法少女というものが、なぜ存在するか、知っているか」
「知りません」
「そうだろうな」所長が少し間を置いた。「昔、一人の少女がいた」
老婆が話し始めた。
静かな声だった。怒っていない。悲しんでもいない。ただ、話していた。
「その子は、世界中の人に笑顔になってほしいと思っていた。それだけを思って、魔物と戦った。人を救った。どこにでも駆けつけた。疲れても、傷ついても、止まらなかった」
「……それが、最初の魔法少女ですか」
「そうだ」
私は黙って聞いていた。
「私は、その子の親友だった」
所長が言った。
老婆の目が、少し変わった。深いところにある何かが、少しだけ表に出た。
「ずっと隣にいた。戦いには出られなかったが、帰ってくるのを待っていた。笑顔で帰ってくるその子を、ずっと待っていた」
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「だが、大人たちが気づいた」
所長の声が変わった。
「その力が、使えると気づいた。金になると気づいた。支配の道具になると気づいた。魔法少女を組織化して、戦争に使い、利権を守るための兵器にしようとした」
「……それがIMIの始まりですか」
「そうだ」
「その子は」
「嘆いた」所長が静かに言った。「世界中の人に笑顔になってほしかった子が、自分の力が人を傷つけるために使われることを知って、嘆いた」
所長が立ち上がった。部屋の奥に歩いていった。
「その子は、自分を水晶の中に閉じ込めた。眠りについた。もう誰も自分の力を使えないように」
「……今も、眠っているんですか」
「そうだ」
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「だが、私たちは諦めなかった」
所長が振り返った。
「水晶は壊せなかった。でも、その表面を削ることはできた。削れば、魔力のかけらが取れた」
私は少し間を置いた。
「……魔法少女たちの力は」
「そのかけらだ」
部屋が静かになった。
「今いる魔法少女たちは全員、あの子の魔力のかけらを体に埋め込まれている。だが、普通の子供では適合しない。だから」
「だから、孤児を集めた」と私が言った。
「そうだ」
「誘拐もした」
「そうだ」
「脳を調整した。無理やり適合させた」
「そうだ」所長が静かに言った。否定しなかった。「汚いやり方だということは知っている。だが、止められなかった」
「なんで」
「あの子を救いたかったからだ」
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「魔界への攻撃も、そうですか」と私が言った。
「何が」
「資金援助を各国からもらうために、魔界が攻めてきていると印象操作した。そういうことですか」
所長が少し止まった。
「……よく知っているな」
「ベルフェゴールさんに聞きました。ずっとおかしいと思っていたと」
「そうだろうな」所長が言った。「魔界は攻めてきていない。防いでいただけだ。だが、そう見せなければ金が集まらなかった。研究を続けられなかった」
「研究というのは」
「あの子を水晶から救い出す方法だ」所長が静かに言った。「ずっと探している。何十年も探している」
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「お前の話をしよう」
所長が私を見た。
「神無カノン。お前は、あの子のクローンだ」
部屋が静かだった。
知っていた。
どこかで、知っていた気がした。五歳より前の記憶がないことも。アスタロトさんに言われた「訓練とは別の力」も。全部、繋がっていた。
「……そうですか」と私が言った。
「驚かないのか」
「驚いてます。でも、納得もしてます」
所長が少し黙った。
「あの子を模して作った。記憶も、性格も、力も。できる限り再現しようとした」
「でも、失敗作だったんですね」
「……そうだ」
「どこが違ったんですか」
所長が少し間を置いた。
「あの子は、全ての人に笑顔になってほしかった。お前は——」
「リリスがかわいかったから、来た」と私が言った。
「そうだ」所長が言った。「たった一人のために動く。それは、あの子じゃない」
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「だから、消す」
所長が言った。
静かな声だった。感情がなかった。
「失敗作は残しておけない。お前がいると、混乱する。計画が狂う」
「……わかりました」
「抵抗しないのか」
「抵抗しても意味がないですし」と私が言った。「でも、一つだけ聞いていいですか」
「何だ」
「その水晶の中の子は、目が覚めたら、所長のやってきたことを喜ぶと思いますか」
所長が止まった。
私はまっすぐ所長を見た。
「孤児を集めて、脳を調整して、戦わせて。魔界を攻めていると嘘をついて。それを知ったら、その子は笑いますか」
所長が何も言わなかった。
「世界中の人に笑顔になってほしかった子が、そのやり方を見て、笑えますか」
「……黙れ」
「笑えないと思います」
「黙れと言った」
所長の手が動いた。
装置が出てきた。
体が動かなくなる前に、思った。
ほのかたちが来てくれるといい。
リリスが、泣かなければいい。
✦
その時、部屋の壁が揺れた。
外から、何かがぶつかってきた音だった。
所長が振り返った。
また揺れた。
それから、壁が崩れた。
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次回「全員来た」
——帰るぞ、と言った声が、聞こえた。




