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第二十六話「明かされる真実」

第二十六話「明かされる真実」


 白い部屋に、椅子が二つあった。


 老婆が一つに座った。私も座るように言われた。座った。


 老婆がしばらく私を見ていた。何かを確かめるような目だった。


「名前を聞いていいですか」と私が言った。


「所長だ。それで十分だろう」


「わかりました、所長」


 所長が少し目を細めた。


「……お前は本当に、元と似ている」


「元、というのは」


「順番に話す」と所長が言った。「聞け」


 ✦


「魔法少女というものが、なぜ存在するか、知っているか」


「知りません」


「そうだろうな」所長が少し間を置いた。「昔、一人の少女がいた」


 老婆が話し始めた。


 静かな声だった。怒っていない。悲しんでもいない。ただ、話していた。


「その子は、世界中の人に笑顔になってほしいと思っていた。それだけを思って、魔物と戦った。人を救った。どこにでも駆けつけた。疲れても、傷ついても、止まらなかった」


「……それが、最初の魔法少女ですか」


「そうだ」


 私は黙って聞いていた。


「私は、その子の親友だった」


 所長が言った。


 老婆の目が、少し変わった。深いところにある何かが、少しだけ表に出た。


「ずっと隣にいた。戦いには出られなかったが、帰ってくるのを待っていた。笑顔で帰ってくるその子を、ずっと待っていた」


 ✦


「だが、大人たちが気づいた」


 所長の声が変わった。


「その力が、使えると気づいた。金になると気づいた。支配の道具になると気づいた。魔法少女を組織化して、戦争に使い、利権を守るための兵器にしようとした」


「……それがIMIの始まりですか」


「そうだ」


「その子は」


「嘆いた」所長が静かに言った。「世界中の人に笑顔になってほしかった子が、自分の力が人を傷つけるために使われることを知って、嘆いた」


 所長が立ち上がった。部屋の奥に歩いていった。


「その子は、自分を水晶の中に閉じ込めた。眠りについた。もう誰も自分の力を使えないように」


「……今も、眠っているんですか」


「そうだ」


 ✦


「だが、私たちは諦めなかった」


 所長が振り返った。


「水晶は壊せなかった。でも、その表面を削ることはできた。削れば、魔力のかけらが取れた」


 私は少し間を置いた。


「……魔法少女たちの力は」


「そのかけらだ」


 部屋が静かになった。


「今いる魔法少女たちは全員、あの子の魔力のかけらを体に埋め込まれている。だが、普通の子供では適合しない。だから」


「だから、孤児を集めた」と私が言った。


「そうだ」


「誘拐もした」


「そうだ」


「脳を調整した。無理やり適合させた」


「そうだ」所長が静かに言った。否定しなかった。「汚いやり方だということは知っている。だが、止められなかった」


「なんで」


「あの子を救いたかったからだ」


 ✦


「魔界への攻撃も、そうですか」と私が言った。


「何が」


「資金援助を各国からもらうために、魔界が攻めてきていると印象操作した。そういうことですか」


 所長が少し止まった。


「……よく知っているな」


「ベルフェゴールさんに聞きました。ずっとおかしいと思っていたと」


「そうだろうな」所長が言った。「魔界は攻めてきていない。防いでいただけだ。だが、そう見せなければ金が集まらなかった。研究を続けられなかった」


「研究というのは」


「あの子を水晶から救い出す方法だ」所長が静かに言った。「ずっと探している。何十年も探している」


 ✦


「お前の話をしよう」


 所長が私を見た。


「神無カノン。お前は、あの子のクローンだ」


 部屋が静かだった。


 知っていた。


 どこかで、知っていた気がした。五歳より前の記憶がないことも。アスタロトさんに言われた「訓練とは別の力」も。全部、繋がっていた。


「……そうですか」と私が言った。


「驚かないのか」


「驚いてます。でも、納得もしてます」


 所長が少し黙った。


「あの子を模して作った。記憶も、性格も、力も。できる限り再現しようとした」


「でも、失敗作だったんですね」


「……そうだ」


「どこが違ったんですか」


 所長が少し間を置いた。


「あの子は、全ての人に笑顔になってほしかった。お前は——」


「リリスがかわいかったから、来た」と私が言った。


「そうだ」所長が言った。「たった一人のために動く。それは、あの子じゃない」


 ✦


「だから、消す」


 所長が言った。


 静かな声だった。感情がなかった。


「失敗作は残しておけない。お前がいると、混乱する。計画が狂う」


「……わかりました」


「抵抗しないのか」


「抵抗しても意味がないですし」と私が言った。「でも、一つだけ聞いていいですか」


「何だ」


「その水晶の中の子は、目が覚めたら、所長のやってきたことを喜ぶと思いますか」


 所長が止まった。


 私はまっすぐ所長を見た。


「孤児を集めて、脳を調整して、戦わせて。魔界を攻めていると嘘をついて。それを知ったら、その子は笑いますか」


 所長が何も言わなかった。


「世界中の人に笑顔になってほしかった子が、そのやり方を見て、笑えますか」


「……黙れ」


「笑えないと思います」


「黙れと言った」


 所長の手が動いた。


 装置が出てきた。


 体が動かなくなる前に、思った。


 ほのかたちが来てくれるといい。


 リリスが、泣かなければいい。


 ✦


 その時、部屋の壁が揺れた。


 外から、何かがぶつかってきた音だった。


 所長が振り返った。


 また揺れた。


 それから、壁が崩れた。


       ✦ ✦ ✦


次回「全員来た」


 ——帰るぞ、と言った声が、聞こえた。

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