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第二十五話「全面戦争」

第二十五話「全面戦争」


 今度は、全軍だった。


 夜明け前に来た。数が違った。先遣隊の比じゃなかった。魔界の地平線の向こうから、光が並んでいた。変身体の光だった。数えられなかった。


「どのくらいいますか」と私が言った。


「見える範囲で五十は超える」とアスタロトさんが言った。


「……全部、魔法少女ですか」


「魔法少女と、IMIの一般部隊だ。魔法少女は二十前後だと思う」


 二十。


 私たちは四人だった。


「行きます」と私が言った。


「無理だ」とベルフェゴールさんが言った。


「でも」


「魔王軍が動く。お前たちは中枢を守れ。城の正門から中に入れさせるな」


 わかりました、と言いたかった。でも足が動いていた。


 ✦


 戦いが始まった。


 魔王軍の兵士たちが前に出た。アスタロトさんが先頭だった。槍を構えて、躊躇なく動いた。


 私たちは正門の前に立った。ほのか、レイ、リナ、私。


 最初の波が来た。


 ほのかが炎を出した。壁みたいな炎だった。前列が止まった。


 レイが地面に氷を張った。足元が滑って、隊列が崩れた。


 私が前に出た。杖を振った。弾き飛ばした。また来た。また弾いた。


 リナが両脇をカバーした。銃を撃たなかった。体で捌いていた。


「リナ、銃使っていいですよ」とほのかが言った。


「……まだいいです」とリナが言った。


「なんで」


「……当てたくない相手が混じってるので」


 ほのかが少し間を置いた。


「……わかった」


 ✦


 長かった。


 波が何度も来た。一度引いて、また来た。また引いて、また来た。


 腕が重くなってきた。魔力が減ってきた。


「……きついですね」とレイが言った。


「そうですね」


「……でも、止まれない」


「止まれないですね」


 ほのかが「誰かやばい人いる?」と言った。


「かすり傷くらいです」と私が言った。


「リナは」


「……問題ないです」とリナが言った。


「レイは」


「……動けます」


「よし。もう少しだけ」


 ✦


 日が高くなってきた頃、波が少し弱まった。


 向こうの陣形が変わった。前列が下がって、別の何かが出てきた。


「……何かが変わりました」とレイが言った。


「見えますか」


「……人が一人、前に出てきました。変身していない」


 変身していない人間。


 見た。


 白髪だった。老婆だった。IMIの制服を着ていた。杖も武器も持っていなかった。ただ、歩いてきた。


「……誰ですか」とほのかが言った。


「わかりません」


 でも、何かが嫌だった。勘だった。


「下がってください」と私が言った。


「え」


「なんか、やばい気がします」


「カノンの勘か」とほのかが言った。


「そうです」


「……わかった」


 全員が少し下がった。


 老婆が止まった。こちらを見た。遠くからでも、目が合った気がした。


 それから老婆が何かを出した。小さかった。手のひらに乗るくらいの、小さな装置だった。


「何ですか、あれ」


 老婆が装置を操作した。


 その瞬間。


 ✦


 体が、動かなくなった。


 一瞬だった。


 何も感じなかった。感覚が、全部消えた。


 ほのかが「カノン!?」と叫んでいた。


 レイが何か言っていた。


 リナが私の方に走ってきていた。


 でも、体が動かなかった。立ったままだった。倒れることもできなかった。


 老婆が近づいてきた。足音が聞こえた。


 止めてほしかった。でも声が出なかった。


 老婆が私の顔を見た。近くで見ると、目が深かった。悲しいとも怒っているとも違う、もっと別の何かがある目だった。


「……やっと会えた」


 老婆がそう言った。


 それから、意識が遠くなった。


 ✦


 ほのかは走った。


 カノンに向かって走った。でも間に合わなかった。


 IMIの部隊がカノンを囲んだ。老婆がその中に入った。


「カノンを返せ!」


 ほのかが叫んだ。炎を出した。でもIMIの部隊がそれを受けた。盾を構えていた。


 レイが氷を張った。前列が滑った。でも後列が前に出た。数が多すぎた。


 リナが走った。銃を出した。撃った。でも老婆はもう囲まれていた。


「……動くな」


 老婆が言った。


 声が静かだった。でも、全員が止まった。


「この子に何かされたくなければ」


 カノンが、老婆の横に立っていた。立っているだけだった。でも動けなかった。


 ほのかが「……っ」と言った。


「神無カノン」と老婆が言った。「一緒に来てもらう」


 カノンは何も言えなかった。


 聞こえていた。全部聞こえていた。


 でも声が出なかった。


 ✦


 転移魔法だった。


 一瞬だった。


 気づいたら、知らない場所にいた。


 白い部屋だった。天井が高かった。窓がなかった。


 老婆が隣に立っていた。


「気分はどうだ」


 体が動いた。声が出るようになっていた。


「……動けます」


「そうか」


「スイッチ、というのがあるんですか」とI言った。


「そうだ」


「私専用の」


「そうだ」と老婆が言った。「お前専用の」


 それだけ言って、老婆が部屋の奥に歩いていった。


「……話があると思います」


「ある」と老婆が言った。振り返らなかった。「時間はたっぷりある。順番に話す」


 白い部屋が静かだった。


 ほのかたちの声が、もう聞こえなかった。


✦ ✦ ✦


次回「明かされる真実」


 ——お前が何者か、教えてやろう。

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