第二十四話「静かな日の終わり」
第二十四話「静かな日の終わり」
空が赤かった。
城の正門の前に出た。変身していた。ほのかもレイも変身していた。リナも変身していた。レナは城の中でリリスについていた。
IMIの部隊が来ていた。
数が多かった。でも今夜来たのは先遣隊だった。全軍じゃない。ベルフェゴールさんがそう判断した。
「押し返せ。長引かせるな」
アスタロトさんが前に出た。魔王軍の兵士たちが動いた。
戦いが始まった。
✦
長かった。
IMIの魔法少女が何人か来た。変身体。武器を構えていた。でも、どこかぎこちなかった。サクラさんの部下たちとは違う、別の種類のぎこちなさだった。
「……戦いたくない子たちも混じってますね」とほのかが言った。
「わかります」と私が言った。
「どうしますか」
「できるだけ傷つけない方向で」
「わかった」
ほのかが炎を出した。牽制だった。相手が下がった。
レイが氷で足元を封じた。動きを止めるだけで、傷はつけなかった。
リナが動いた。銃を出さなかった。素手で相手の武器を弾いた。それだけだった。
長い戦いだった。でも、夜明け前に先遣隊が引いた。
✦
「退いた」とアスタロトさんが言った。
「はい」
「次が来る前に立て直す。全員中に入れ」
城の中に戻った。
リリスが正門のところで待っていた。レナと一緒に。
「……かえってきた」
「帰ってきました」
「……けがは」
「かすり傷くらいです」
リリスがほっとした顔をした。
「……よかった」
リナがリリスを見た。リリスがリナを見た。
「りな、だいじょうぶ?」
「……大丈夫です」
「よかった」
リリスが満足そうに城の中に戻っていった。
ほのかが「あの子、本当に強いな」と言った。
「そうですね」と私が言った。
「戦力じゃなくて、別の意味で」
「そうですね」
✦
それから数日、城の周辺の復興作業が続いた。
戦いで壊れた外壁を直した。正門の修繕をした。魔王軍の兵士たちが動いていた。私たちも手伝った。
「魔法少女が壁を直してる」とほのかが言った。
「おかしいですか」
「おかしくはないけど、IMIにいた頃じゃ考えられない」
「そうですね」
レイが黙って石を運んでいた。リナも黙って手伝っていた。
「リナ、石運び得意なんですね」と私が言った。
「……身体能力は残ってるので」
「そうですか」
「……訓練の記憶は、なぜかあります」
「他のは」
「……断片的に。人の顔とか、声とか。でも繋がらない」
リナが石を置いた。
「……レナの声は、覚えてました」
「そうですか」
「……あの時、届いていました。一瞬だけ」
私は少し間を置いた。
「届いてましたよ。目が、一瞬変わったので」
リナが黙った。
「……そうですか」
それだけ言って、また石を運び始めた。
✦
夜、全員で食堂に集まった。
ベルゼバブさんが夕飯を作っていた。品数がいつもより多かった。
「今日は何かありましたか」とほのかが聞いた。
「とくにないですが」とベルゼバブさんが言った。「みなさん揃っているので」
リリスが「……みんないる」と言った。
「います」
「……よかった」
リリスが満足そうにご飯を食べ始めた。
リナが隣のレナに「あの子、いつもああなんですか」と小声で聞いた。
「いつも」とレナが答えた。
「……そうですか」
「慣れると、落ち着く」
「……そうですね」
セキネさんが「こういう夜もあるんだな」と言った。
「悪くないですよ」と私が言った。
「……そうだな」
ほのかが「みんな一人っ子なんだよ」と言った。
「え」とリナが言った。
「カノンも、レイも、私も」
「……私も一人っ子です」
「じゃあ四人とも一人っ子じゃん」
少し間があった。
「……でも」とレイが言った。
「うん」
「……ここにいる」
ほのかが「そうだな」と言った。
リナが少し、口元を動かした。笑顔とまではいかなかったけど、何かが動いた。
私はそれを見ていた。
✦
後から知った話だが、その頃、別の場所で動きがあったらしい。
白髪の老婆が、部下を集めて何かを指示していた。地図が広げられていた。魔界全体を覆うような、大きな地図だった。
それから老婆は一人で別の部屋に入った。
部屋の中央に、大きな水晶があった。
薄く光っていた。中に何かがいるような、そういう光り方をしていた。
老婆が水晶の前に立った。しばらく、黙って見ていた。
「……もう少しだけ、待っていなさい」
水晶は何も答えなかった。
でも老婆は、また何かを言った。
「……あなたが目覚める前に、私が全部終わらせる」
それだけ言って、部屋を出た。
✦ ✦ ✦
次回「全面戦争」
——今度は、全軍だった。




