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第二話「幹部会議、カオス」

第二話です。


今回は、裏切った翌日の話。

つまり「勢いで裏切ったあと、どうなるか」です。


魔王軍幹部との顔合わせ回でもあり、

この作品の空気感がだいたい決まる回でもあります。


だいたいカオスです。


 第二話「幹部会議、カオス」


 朝が来た。


 魔界の朝は、暗紫色の空がほんの少しだけ明るくなる。光源が増えるわけじゃなくて、全体がうっすら白みがかる感じだ。


 私はそれを、玉座の間の窓から見ていた。


 隣にリリスがいた。


 膝の上で眠ってた。ずっと。


 移動できなかった。


「……かわいい」


 思わず言った。


 誰もいないから許してほしい。


 ✦


 リリスが目を覚ましたのは、空が完全に明るくなってからだった。


 ぱちっと目を開けて、私の顔を見て、三秒固まって。


「……だれ」


「カノンです。昨日会いました」


「……かのん」


「はい」


「……ここにいる」


「います」


 リリスはしばらくぼーっとしてた。


 起きたばかりで頭が動いてないのか、それとも夢と現実の区別がついてないのか。


 ゆっくりまばたきを繰り返して、それからまた私を見た。


「……いて、いいって、言った?」


「言いました」


「……うそじゃない?」


「うそじゃないです」


 リリスはまたしばらく考えて。


「……おはよう」


 小さい声で言った。


 私の心臓が少しやばかった。


「おはよう、リリス」


「……ねむい」


「そっか」


「……でも、おきる」


「なんで?」


 リリスが少し考えた。


「……かのんが、いるから」


 私の心臓がまたやばかった。


 朝から2回やばい。


 ✦


 その直後、扉が開いた。


 全員いた。


 幹部四人が、全員、朝から扉の前にいた。


「「「「おはようございます(ございます)(ます)(〜)」」」」


 声がばらばらだった。


「…………おはよう」


 リリスが言った。


 四人が一斉にほっとした顔をした。


 昨日から待機してたんだろうな、と思った。


 そして四人が、私を見た。


 ベルフェゴール——だるい頭脳派、昨日椅子を引きずってた人——がため息をついた。


「……まだいる」


「います」


「昨日の宣言は本気か」


「本気です」


「……理由を聞いていいか」


「魔王がかわいかったので」


 ベルフェゴールが目を閉じた。


 長い沈黙があった。


「……もう一回聞く。本当にそれだけか」


「それだけです」


「…………」


「かわいかったんです」


「…………わかった」


 わかったのか。


 ✦


 正式な顔合わせ、ということで、食堂に移動することになった。


 魔王城に食堂があるのは知らなかった。


 広かった。長いテーブルが並んでて、朝早いのにすでに魔物が何人かいた。


 私が入った瞬間、全員が固まった。


「人間だ」という声がどこかから聞こえた。


「魔法少女だ」という声も聞こえた。


「最強の、じゃないか?」という声も聞こえた。


 リリスが私の隣を歩いてた。


 それを見て、みんな固まったまま何も言わなかった。


 ベルゼバブ——お茶を出してくれた世話係の人——が「まあまあ、座りましょう」と全員をなだめながら、リリスの椅子を引いた。


 私は隣に座った。


 ベルフェゴールが向かいに座って、腕を組んで、また私を見た。


「改めて確認する。お前はIMIを裏切り、魔王軍に来た」


「はい」


「目的は」


「リリスのそばにいること」


「戦力として使えるか」


「たぶん最強なので」


「謙遜しろ」


「事実なので」


 ベルフェゴールがまたため息をついた。


 この人、ため息が多い。でも目が離れないくらい鋭い。頭の中で何かをずっと計算してる感じがする。


「……戦力として歓迎する。ただし」


「ただし?」


「IMIのスパイの可能性がある。当面は監視付きだ」


「わかりました」


「……あっさり承諾するな」


「スパイじゃないので問題ないです」


 ベルフェゴールが私をじっと見た。


 かなり長い間、見た。


「……信じた」


「早いですね」


「嘘をついてる顔じゃない。そしてお前みたいな顔の嘘つきは、IMIにはいない」


「どんな顔ですか」


「深く考えてない顔だ」


 褒められてるのかどうかわからなかった。


 ✦


 アスタロト——騎士団長、槍を向けてきた人——は、ずっとこっちを見てた。


 食事中も、話してる間も、ずっと。


 怒ってるわけじゃなくて、警戒してる目だ。


 リリスが私のそばにいる間は特に。


 食事が一段落したところで、直接聞いてきた。


「リリス様を傷つけるつもりがあるなら、今ここで言え」


「ないです」


「もし傷つけたなら」


「わかってます」


「わかってないと思うが」


「殺すんでしょう」


 アスタロトが少し目を見開いた。


「……怖くないのか」


「リリスを傷つけないので関係ないです」


 また沈黙があった。


 アスタロトが、長い息を吐いた。


「……魔王軍の騎士として言う。リリス様をお守りする者を、我々は歓迎する」


「ありがとうございます」


「ただし」


「まだありますか」


「勝手な行動は許さない。リリス様の意思を最優先にしろ」


「それは当然です」


 アスタロトが、少しだけ表情を緩めた。


 怒ってないとこんな顔なんだ、と思った。ちょっとだけ、普通だった。


 ✦


 メフィスト——研究担当、解剖したがってた人——は、食事中ずっとメモを取ってた。


 私を見ながら。


「何書いてるんですか」


「観察記録」


「何を観察してるんですか」


「お前の魔力の流れ、筋肉の動き、反射速度、骨格の推定値……」


「見ただけでわかるんですか」


「おおよそはな。だから解析が必要なんだ。もっと近くで——」


「やめてください」


「痛くはしない」


「やめてください」


「一時間もあれば——」


「やめてください」


 ベルゼバブが「メフィスト様、食事中ですよ」とにこにこ言った。


 メフィストは渋々メモを閉じた。


 でも目線は離さなかった。


「……一つだけ聞いていいか」


「内容によります」


「魔法少女の変身機構は、魔力の自己最適化か、それとも外部からの強制付与か」


 思ってたより普通の質問だった。


「どっちだろう。考えたことなかったです」


「……考えたことがないのか」


「変身したら強くなる、くらいにしか思ってなかったです」


 メフィストが固まった。


 それから、静かに言った。


「……お前は、自分の力の仕組みを何も知らないんだな」


「そうですね」


「IMIは教えなかったのか」


「教えてもらったことないです」


 メフィストはしばらく黙ってた。


 さっきまでの研究者の顔と、少し違う顔をしてた。


「魔法少女の訓練では何を教えられた」


「戦い方と、魔法の使い方と、魔王軍の情報と」


「自分の体の仕組みは」


「……聞いたことないです」


「なぜだと思う」


 なんで、と言われても。


「……戦えればよかったので」


「そうじゃない」とメフィストが言った。


 珍しく、はっきりした声だった。


「教えなかったんじゃない。教えたくなかったんだ。知られると困るから」


 私は少し黙った。


「……何が困るんですか」


「それを調べるのが私の仕事だ」


 メフィストがまたメモを開いた。


 今度は私じゃなくて、自分の書いたものを見てた。


「……後で、一緒に調べてみるか。解析じゃなく、説明として」


「それならいいです」


「解剖はしない」


「その言葉、信じていいですか」


「……今日は」


「今日限定ですか」


「明日以降は交渉する」


 やっぱり油断できなかった。


 でも、さっきの言葉が少し、頭に残った。


 ——教えたくなかったんだ。知られると困るから。


 まあ、後で考えよう。


 ✦


 ベルゼバブは、最初から最後までにこにこしてた。


 食事の配膳も、お茶のおかわりも、全部やってた。


 リリスのほっぺについた食べ物のカスを拭いて、「リリス様、ちゃんと食べてますか」と確認して、「カノン様も、遠慮しなくていいですよ」と言ってきた。


「カノン様って呼ばなくていいです。カノンで」


「では、カノンさん」


「はい」


「ご飯は足りましたか」


「足りました」


「おかわりもできますよ」


「大丈夫です」


「遠慮しなくて」


「してないです」


「ではもう一杯お茶を」


 気づいたら三杯飲んでた。


 なんかこの人、ペースに乗せるのが上手い。


 お茶を四杯目に注いでもらいながら、私は聞いてみた。


「ベルゼバブさんって、リリスの何ですか」


「世話係ですよ」


「昔から?」


「リリス様が生まれた頃からです」


 ベルゼバブがにこにこしたまま言った。


「リリス様が小さかった頃から見ていますから、色々と」


「……即位する前から知ってるんですね」


「ええ。活発なお子さんでしたよ。今は人見知りになってしまいましたが」


 今は人見知り、ということは、前は違ったんだ。


「何かあったんですか」


 ベルゼバブが少し間を置いた。


「……先代が亡くなってから、変わりました」


「先代というのは」


「お父様です」


 静かな声だった。


 にこにこはしてたけど、目が少し遠くを見てた。


「戦で、亡くなりました。リリス様がご覧になっていた」


 私は何も言えなかった。


「それから、ほとんど笑わなくなって。怖がるようになって」


 ベルゼバブがまたお茶を注いだ。


「だから今日、カノンさんに笑ってくださったのを見て、私も嬉しかったです」


「……笑ってましたか」


「ほんの少しですけど。久しぶりに見ました」


 私はお茶を飲んだ。


 四杯目だけど、味がちゃんとした。


 ✦


 食事のあと、ベルフェゴールが「今後の扱いについて」と言い始めた。


「お前は現時点では身元不明の元敵性勢力だ。城内での行動範囲は当面制限する」


「わかりました」


「リリス様の護衛を希望するなら、アスタロトの指揮下に入れ」


「わかりました」


「部屋を用意する。使え」


「ありがとうございます」


「報酬は……何がいる」


 報酬。考えたことなかった。


「特にないです。リリスのそばにいられれば」


 ベルフェゴールが眉を寄せた。


「……本当に何も考えてないな、お前」


「そうですか?」


「普通は条件を出す」


「かわいかったので来ただけなので」


「…………」


「何か問題ですか」


「……問題というより、対処法がわからない」


 ベルフェゴールが珍しく困った顔をした。


 頭が鋭い人が困る顔、というのは少しおかしかった。


 ✦


 話し合いが一段落したとき、リリスが私の袖を引っ張った。


 見ると、リリスが上目遣いで私を見てた。


「……かのん」


「はい」


「……きょうも、いる?」


 全員が一斉にこっちを見た。


 私は迷わず答えた。


「います」


 リリスがほんの少しだけ、表情を緩めた。


 笑ったわけじゃない。でも、さっきよりほんの少しだけ、力が抜けた感じがした。


 アスタロトが小さく息を吐いた。ベルゼバブがにこにこしてた。メフィストはまたメモを開いてた。ベルフェゴールは天井を見てた。


「……ままならないな」とベルフェゴールが言った。


「何がですか」


「全部だ」


 ✦


 ✦


 午後、リリスが私の手を引っ張った。


「……くる」


「どこへですか」


「……みせる」


 城の中を案内してくれるらしかった。


 リリスは私の手を引いたまま、廊下をてくてく歩いた。


 歩幅が小さい。足音も小さい。でも迷わない。城の中は全部覚えてるんだろう。


 最初に連れて行かれたのは、城の北側の小さな部屋だった。


 窓が大きくて、外の景色がよく見える。魔界の街が見えて、その奥に山みたいなものが見えた。


「……ここ、すき」


「きれいですね」


「……まいにち、くる」


「一人で?」


「……うん」


 リリスが窓の外を見た。


 小さな体が、大きな窓の前に立ってる。


「……せんそう、むこうから、くる」


 むこうから、来る。


 魔王軍が攻めてるんじゃなくて、むこうから来る。


 私はその言葉を、もう一回頭の中で繰り返した。


「……こわい」


「怖いね」


「……まいにち、こわい」


「そっか」


「……まほうしょうじょも、くる」


 リリスが私を見た。


「……かのんも、きた」


「来ました」


「……でも、いた」


 私は言った。


「次から来ても、ここにいます」


 リリスがまた窓の外を見た。


 何も言わなかった。


 でも、手の力が少し強くなった。


 ✦


 次に連れて行かれたのは、厨房だった。


 でかい。業務用のかまどがたくさんある。料理担当らしい魔物が何人かいて、私を見て全員固まった。


「……おやつ」


 リリスが言った。


「は、はい! ただいま!」


 魔物が猛ダッシュで奥に消えた。


 しばらくして、小さなクッキーが山盛りになった皿を持って戻ってきた。


「リリス様のお気に入りです!」


「……ありがとう」


 リリスがクッキーを一枚取って、私に差し出した。


「……たべる?」


「いただきます」


 食べた。


 おいしかった。素朴な甘さで、魔界のものなのに味は人間界と大差なかった。


「おいしい」


「……でしょ」


 リリスが少し得意そうな顔をした。


 これも初めて見た表情だ。


 私はまたやばいと思った。


「……友達に持って行っていいですか」


「……ともだち?」


「一緒にいた魔法少女です。甘いものが好きなので」


 リリスがクッキーをじっと見た。


「……もっていく」


 料理担当の魔物が「ただいま包みます!」と飛んでいった。


 これでレイへの言い訳ができた。


 よかった。


 ✦


 城に戻る途中、廊下でアスタロトに会った。


 いつも通りの真剣な顔で、いつも通り槍を持ってた。


「リリス様、お散歩ですか」


「……うん」


「護衛をつけてください」


「……かのんがいる」


「……そうですね」


 アスタロトが私を見た。複雑な顔だった。


「カノン」


「はい」


「昨日より少し信用した」


「ありがとうございます」


「まだ全部じゃない」


「わかってます」


「だが……リリス様が今日、外に出てくださった。それだけで今日はいい日だ」


 私が首をかしげると、アスタロトが続けた。


「リリス様は即位されてから、ほとんど部屋から出られなかった。怖くて」


「……そうだったんですか」


「それが今日、お前を連れて厨房にまで行かれた」


 アスタロトがまた私を見た。


「……礼を言う」


「私は何もしてないです」


「いたんだろう。それだけで十分だ」


 アスタロトが歩き始めた。


 その背中が、昨日より少しだけ普通に見えた。


 ✦


 その日の夜、またIMIから着信が来た。


 セキネさんじゃなかった。


 知らない番号だった。


 出たら、女の声がした。


「神無カノン。回収に来ました」


 落ち着いた声。仕事の声。感情がない。


「誰ですか」


「IMI第三部隊、隊長のサクラです。明日の朝、迎えに行きます」


「行きません」


「選択の余地はありません」


「あります。私は来ません」


 少し間があった。


「……セキネから聞いています。説得は難しいと」


「難しいどころか無理です」


「では実力行使になります」


「どうぞ」


 また間があった。


「……本気で言っていますか」


「本気です。リリスのそばにいると決めたので」


「リリス。魔王のことですか」


「そうです」


「……魔王を守るために、IMIに刃を向けると?」


「刃は向けません。でも来ません。来たら追い返します」


 長い沈黙があった。


「……わかりました。上に報告します」


 電話が切れた。


 明日、誰かが来る。


 まあいいか、と思った。


 追い返せばいいだけだ。


 ✦


 就寝前、廊下でベルフェゴールに会った。


 椅子を持って歩いてた。どこに行くんだろう。


「明日、IMIが来ます」


「知ってる。盗聴してた」


「え」


「城内のセキュリティだ。問題あるか」


「……まあ、いいです」


「対処は?」


「追い返します」


「お前一人で?」


「戦力としては最強なので」


 ベルフェゴールが少し考えた。


「……アスタロトを付ける」


「いいんですか」


「リリス様の護衛の補佐が敵に単独で当たるのは非効率だ。感謝しなくていい。合理的判断だ」


「ありがとうございます」


「感謝するなと言った」


「そういうわけにも」


 ベルフェゴールがため息をついて、椅子を抱え直した。


「……お前は変なやつだ」


「そうですか」


「魔法少女が魔王を守るために残る、なんて話は聞いたことがない」


「かわいかったので」


「……その一言で全部解決するのか、お前の中では」


「解決します」


 ベルフェゴールは何も言わなかった。


 しばらくして、歩き始めた。


「おやすみ」


 振り向かずに言った。


「おやすみなさい」


 廊下の奥に消えていった。


 椅子を持ったまま。


 どこに行くんだろう、やっぱり。


 ——翌朝聞いたら「自分の部屋だ、当たり前だろう」と言われた。


 毎晩椅子を持って自室に戻ってたらしい。


 なんで部屋に椅子を置かないのかは謎のままだった。


 ✦


 部屋に戻ったら、リリスがいた。


 ベッドの端に座って、待ってた。


「……おそかった」


「ちょっと話してました」


「……ベルフェゴール」


「見てたんですか」


「……うん」


 リリスが少し下を向いた。


「……みんな、怖かった?」


「全然」


「……ほんとに?」


「本当に。みんないい人そうでした」


「……おかしい」


「なんでですか」


「……魔法少女は、みんな怖がる」


 静かな声だった。


 事実を言ってるだけ、みたいな声だった。


「今まで来た魔法少女、全員怖がって帰っていったから」


 私は少し考えて、言った。


「私はかわいいと思ったので帰りませんでした」


「……それだけ?」


「それだけです」


 リリスがまた黙った。


 それから、ぽつりと。


「……かわいいって、いわれたの、はじめて」


 私の心臓がまたやばかった。


「これからも言います」


「……うそ」


「本当に言います。かわいいので」


 リリスが私を見た。


 信じていいかどうか、確かめるような目で。


「……もう、こない?」


「来ません」


「……かえらない?」


「帰りません」


「……ほんとに?」


「本当に」


 リリスがまた黙った。


 長い間、黙ってた。


 それから、ほんの少しだけ笑った。


 笑ったのか、と思った。


 やばい。やっぱりやばい。


「……ならいい」


 リリスがベッドに潜り込んだ。


 毛布を顎の下まで引き上げて、目だけをこっちに向けた。


「……おやすみ、かのん」


「おやすみ、リリス」


 目を閉じた。


 五秒で寝た。


 寝るの早い。


 ✦


 リリスを寝かしつけて、私も横になった。


 今日一日でいろんなことがあった。


 だるい参謀、真面目な騎士、マッドな研究者、にこにこの世話係。


 城の中を案内してもらって、クッキーを食べて、窓の外の戦争を一緒に見た。


 明日は誰かが来る。追い返さないといけない。


 面倒だな、と思った。


 でも、面倒な方が、なんか、生きてる感じがした。


 施設の白い廊下には、こういう面倒がなかった。


 全部決まってて、全部管理されてて、考えなくてよかった。


 ——考えなくてよかった。


 それって、普通のことなんだろうか。


 メフィストが言ってたことを思い出した。


 教えたくなかったんだ。知られると困るから。


 自分の力の仕組みを、私はIMIから教えてもらったことがない。


 なんで教えてくれなかったんだろう。


 深く考えたことなかった。でも——


 今日初めて、考えた気がした。


 隣でリリスが小さく寝息を立てていた。


 さっきの笑顔を思い出した。


 ほんの少しだけ、ほんの少しだけ緩んだ顔。


 ベルゼバブが久しぶりに見たと言ってた。


 戦争が始まってから、父親が亡くなってから、ずっと笑えなかったんだろう。


 ここに来てよかった、とまた思った。


 理由はシンプルだ。かわいかったから。


 でもそれだけじゃなくなってきてる気もした。


 まあいいか。今は寝よう。


 お菓子はクッキーを持ってるからレイへの言い訳はできた。


 でも「魔界のクッキーなんか食べない」って言われる可能性がある。


 レイのことだから言いそうだ。


 でも絶対食べる。


 甘いもの好きなので。


       ✦ ✦ ✦


次回「追い返す」


 ——翌朝、IMI第三部隊がやってきた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


幹部四人、出揃いました。


・だるいのに一番頭が回ってる参謀

・真面目すぎる騎士団長

・倫理観が迷子の研究者

・にこにこしてるけど一番周り見てる世話係


そして、その中心にいるのが——三歳の魔王です。


今回で「魔界側の日常」と「戦争の違和感」が少しだけ見えてきたと思います。

特に、

・戦争は“向こうから来る”

・魔法少女は怖がって帰る

・IMIが何かを教えていない


このあたりは、今後じわじわ効いてくる部分です。


とはいえ、カノンはあまり深く考えていません。

かわいいのでここにいる、でだいたい成立しています。


ただ、この“考えてなさそうでズレてる視点”が、

少しずつ物語を動かしていきます。


そして次回、ついにIMI側が動きます。


次回「追い返す」


タイトル通りですが、たぶん簡単にはいきません。


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