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〈Essay〉日常の中に在るさまざまなこと。  作者: 高峰 玲


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トキメキのひと




 二十歳になる前の夏? 初夏の頃だったと思う。


 JR駅前の大通りの歩道を駅に向かって歩いていた私は、ふとすれ違った人影を目で追って振り向き驚いた。


挿絵(By みてみん)


 不整脈よりも大きく跳ねた自分の心臓を意識しつつ、そういえば……とクラスのとある愛好家らしい男子らが昨日さわいでいた件を思い出す。


 某プロレス団体主催の興行が高岡( 注1)で開催され、幸運にも観戦チケットを得た彼は行くのだという。


 ──私も行きたい!


 と、思っていたが、お小遣いも機動( 注2)も足りなかったのだ。


 それが、なんという偶然!

 至近距離で私は彼に遭遇した。


 彼の名は、アブドーラ・ザ・ブッチャ( 注3)

黒 い (The Madman) ( from the) 術 師( Sudan)の異名を持つ“悪役”として有名なプロレスラーだ。


 ──サ、サインがほしい、そしてできれば握手もしたい!


 強く、思った。しかし、恥ずかしさと怖さから、私は彼に話しかけることはできなかった。遣る瀬無い気持ちで顔を上げると、何気に道路にはプロレス団体の名を刻んだ大型バスが停まっており──楽しげな微笑みをたたえたジャイアント馬場が穏やかにこちらを見ていた……!













注1 富山県第二の都市。


注2 有り体に言えば“足”。会場となる施設への行き方がわからなかった(ネットのない時代だ)ので、タクシーぐらいしか思いつかなかった。


注3 当然、これはリング名である。本名はローレンス・ロバート・シュリーヴ(ラリー・シュリーヴ)、ギミック上の出身地はスーダン(アフリカ)だが本当はカナダ出身だという。思っきし欧米人なのだ(私はアブドーラってイスラム系の感じがしてたのでトルコ↔アフガニスタン辺りの人だと思っていた。だから何となくタイガー・ジェット・シンと対立してるのかと(深読み))。


ちなみに私は誰かと会って、このとき以上のトキメキを覚えたことがない。











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