第8話 見つけた居場所
賢者アンゼリカの朝は早い。
魔法学院にいた頃から規則正しい生活を送ってきた彼女は、若干無気力になりながらも、その優等生らしい生活様式そのものは変えていない。
「はあ……面倒だわ……」
そう言いながら、身の丈に匹敵する杖を一振り。
箒や雑巾が勝手に部屋の中を掃除する様をぼんやり見ながら、アンゼリカは深く溜息をついた。
学院生活は、正直に言ってしまうとあまり楽しいものではなかった。
彼女の通った魔法学院は、残念ながらまじめに勉学に励む者は少数派で、貴族やお金持ちのギスギスした派閥争いばかり。
そして、数少ない真面目に勉学に励んでいた者たちも、いつの間にかアンゼリカに嫉妬の目を向け、努力よりも嫌がらせを働くようになった。
平民出身の彼女はそれだけで軽んじられたし、首席卒業と言われたって、周りがほとんど大したことない奴らばかりだったからいまいちピンと来ない。
―――せっかく、大好きな魔法を学べる名門に入れたと思ったのにな……。
一人でに2つの三つ編みが編み上がる中であくびをしつつ、ずり落ちた縁付き眼鏡を押し上げた。
不意に響く、こんこん、と小屋の入口をノックする音。
「ん? はいはい、どちら様?」
そんな彼女が扉を開けたその時。
止まっていた運命が動き出す―――。
●
「ああああ、もう!! どうして貴方たちは揃いも揃って勢いだけで行動するんですか!?」
「仕方ないだろ!? 目の前でこの子があんな目に遭わされていたら!!」
ほんの1週間後には、賢者アンゼリカは全力疾走しながら森の中を走っていた。
後ろからは、悪徳代官の配下の兵士たちが、物凄い数と形相で追いかけてきている。
「待て!!」
「賊め、逃がすな!!」
勇者ジェイク、拳闘士ウォン、弓使いルキウスに延々と何日もせがまれ続け、虚ろの館なるダンジョン攻略にだけ付き合うという話だったのに。
何がどうしてこうなったのか。
ヤバい所に挑む以上、まずは連携をトレーニングするべくちょっとした魔物退治をしていたら、何やら幼い亜人の女の子が鎖で繋がれ、兵士達に鞭で叩かれている場面に遭遇した。
正義感に満ちた男たちは、賢者アンゼリカが止めるのも聞かずに割って入り、兵士達をぶちのめしたはいいが、そいつらがとある代官―――何やら陰謀を企んでいるっぽい悪い奴の部下だったものだから、さあ大変。
勇者ジェイクが女の子を背負い、他の3人と必死に走りながら叫ぶ。
「とにかく走れアンゼリカ!! 捕まったら殺されかねないぞ!?」
「見れば分かりますよ、そんなことは!!」
ああ、もう最悪だ。
どうしてこう、自分の人間関係は厄介事ばかりになるのか。
●
彼女はまだ知らない。
助け出した亜人の女の子は、実はドラゴンに変身する能力を持つことも、その力を使って悪代官が国家転覆を考えていたことも。
また、ドラゴンと言ってもミラベルの本性ほど巨大ではなく、4人を背中に乗せられる程度のサイズに変身することも知らない。
そして何より―――これより先、4人はそれぞれにドラゴンをパートナーにして、大冒険を経験する。
良くも悪くも真っ直ぐ過ぎる男たちと、純粋無垢すぎる幼いドラゴン娘たちにより、常識人なアンゼリカが毎度のように好き放題に振り回され、行く先々でトラブルに巻きこまれる冒険の毎日。
そんな日々の始まりは、虚ろの館に再び勇者ジェイクたちが挑戦する2ヶ月前のことだった。
なお、虚ろの館攻略におけるミラベル戦は、怪獣化したミラベルと、背中に主を乗せたドラゴンたちによる怪獣大決戦めいた戦いになった。
予想外だったのもあり、ミラベルが焦って真面目に対応しようとしてしまったのが運の尽きだった。
ミラベルが、うっかり出力制限を忘れてしまったのである。
吸血令嬢の力を以てしても、完全には防ぎきれない力―――個体差や相性を抜きにすれば、龍種が生物としてなぜ最強とされるかの理由。
それをまざまざと見せつける、とんでもない破壊の嵐を巻き起こしてしまったのだ。
「み、ミラベル!! 我が悪かった!! だから思う存分に破壊光線をばら撒きまくるのはやめよ!! 聞いておるかミラベル!? ミラベル!? あああっ!! 我の城が直した先からまた!!」
最終決戦には早く、ジークリンデの出番だってまだあるのに。
そんな都合はガン無視で盛大に城がぶっ壊れまくってしまい、シャルロットが涙目で悲鳴を上げまくったのは言うまでもない。




