第7話 新要素実装
「一時はどうなるかと思ったが、此度はよくぞ対応してくれた、ジークリンデ」
「勿体なきお言葉」
玉座に腰掛けるシャルロットのカップに紅茶のおかわりを注ぎながら、ジークリンデは恭しく一礼した。
結局、勇者たちは城壁をぶっ壊しまくった三位一体の合体技で、かろうじてミラベルを怯ませる形となるも、撃破の王手すらかけられなかった。
それどころか、完全に魔力切れに陥ったため、どうにか城から脱出し、異界からも無様に撤退した。
3人揃って全員が満身創痍であり、作戦の見直しは必至である。
というか、これだけ追い詰められておきながら、今のパーティーの弱点―――遠距離戦での制圧力や魔法による各種サポート等の要素を補完しようとしないなら、勇者ジェイクたちは残念だがそれまでのパーティーに終わるだろう。
シャルロットたちが殺さなくても、いずれ何処かで強敵相手に詰んでしまい、最悪の場合は本当に命を落とすであろうことは、容易に想像できる。
ましてや、森の賢者アンゼリカという、まさに能力的にはうってつけの若き天才娘がいると彼らは分かっているのだ。
勇者ジェイクたちが最初にやるべきことは、言われるまでもなく明白な筈である。
「それにしても、ようやく自然にミラベルの怪獣形態を組み込めそうであるな。庭と植物園の魔法植物らの出番が省かれたのは、次までに改善の余地はあるが……」
"うむむ"と思案しながら、頬杖を突きつつシャルロットはあれこれとアイディアを口にする。
「いっそ、マキシムが倒された後は、別棟をいい感じに壊してしまおうか? 倒壊する建物から必死に逃げた先が、魔法植物だらけの植物園や中庭と言ったふうに誘導して―――ふふふ、良いぞ良いぞ。イメージが固まってきた!!」
「あ、あの、お嬢様」
おずおずと進言したのは、玉座近傍で待機していたミラベルだった。
「私の担当エリアでは、最初に植物園や中庭で魔法植物との戦いをメインにするのは分かりました。その後、怪獣に変身した私が、勇者様たちを本城まで追い立てて、お城を昇っていくのを外から攻撃。これで合ってますよね?」
「うむ。廊下を走っていたら、いきなり床なり壁なり天井なりを破壊しながら触手が飛び出してくる。階段や渡り廊下が破壊され、迂回を余儀なくされる―――そういうドキドキの連続な戦いを期待しているぞ。最後の屋上での戦いでは、触手から撃てる奴の最低出力であれば、破壊光線も存分に使って構わぬ。あれならせいぜい岩がバターのように切れるだけであるからな。最悪、見えない所を我の結界で補強すれば、本城が倒壊することもない」
「はい、それはできます。できますけど―――」
「なんだ? 何か問題があるのか?」
頬杖をついたまま首を傾げたシャルロットに、ミラベルは言いにくそうな顔と声音で、自信なさげに言った。
「いえ、その……せっかく怪獣形態の使い所も決まりましたし、今まではなんとか頑張ってきたこの姿での戦いは、是非ともやらない方向に見直しを―――」
「ならぬ!!」
「なんでですかあ!?」
うわーん、と泣きそうになるミラベルだが、シャルロットはここぞとばかりに力説する。
「か弱そうな幼女が、いざ戦ってみればめちゃくちゃ強い!! これがまず、第一のロマン!! そしてある程度追い詰めたかと思えば、見上げるような巨大怪獣に変身!! これが第二のロマン!! そして、建物を足場にして巨大怪獣と高さの差を補いつつダンジョン攻略!! これが第三のロマン!! 全て揃えて、四魔将が一人、"毒華覇竜"ミラベルの試練は完成されるのだ!!」
「そ、そんなあ!! 待ってくださいお嬢様ぁ!!」
凄いドヤ顔で語るシャルロットだが、あいにくミラベルにはなんの魅力的要素もなかったらしい。
涙目のまま、ミラベルは縋り付くように膝をつき、シャルロットのマントを掴んで、えぐえぐと泣きながら訴える。
「お、お嬢様と違って、私が本性形態になるのは大変なんです!! すっごく魔力使いますし、すっごくお腹が空くんです!! その結果、変身直後は大地からのエネルギーを"大食い"しちゃうんです!! 変身直前に戦ってると疲れてるので余計に悪化します!! 毎回変身する度に、太らないよう変身解除後にダイエットする恐怖が待ってるんですよ!?」
「そんな個人的悩みなんぞ知るか!! だいたいそんなもの、食いまくった後で派手に暴れ回れば帳消しであろう!?」
「怪獣化中はなかなか減らないんです!! 私、一応フォレストドラゴンですから!!」
やりとりを聞いている横で、マクシムとバスチアンがうんうんと頷いている。
「フォレストドラゴンの強みの一つは、大地からのエネルギー吸収による無尽蔵の魔力供給だからねえ……。実際の所、討伐する側的にはどうなんだい?」
「あれは非常に厄介だ。攻撃も防御も再生も、全部地面からの魔力供給により、正真正銘無限に賄える故な。下手に時間を掛ければ掛けるほどこちらが不利となる癖に、そもそも巨大さに違わぬタフネスが他竜種に比しても異常すぎて、ちょっとやそっとでは早々簡単に倒せぬ。例えるならば―――そう、対フォレストドラゴン戦は要塞攻略よ」
「"ろくに動かない棒立ち木偶の坊"なんて言い出す輩もいるけど?」
「そんな無知を晒しておるのは、戦ったことのない阿呆だけよ。某も聖騎士時代に討伐した際には、毎度かなり手こずらされた。というか、貴殿もミラベルの強さは知っておろう? ただのフォレストドラゴンではないダークフォレストドラゴン故、腐食攻撃や溶解液、麻痺液と言った無数の毒などにも対応せねばならんからな」
「いやあ、僕は魔人で、しかも炎属性だからねえ。メタを張れる僕の感覚は、あまり参考にはならないよ」
そんなやり取りをしている間にも、ミラベルの必死の訴えは続く。
「だいたいギャップや意外性というなら、ジークリンデさんがぶっちぎりじゃないですか!! 私までギャップアピールしなくてもいいじゃないですか!?」
「ええい、貴様は我が城の巨大怪物枠としてのプライドを持たんかミラベル!! 隙あらば戦闘機会を減らそうとしてからに!! いい加減にせねば、貴様が新設しようとしている花壇を没収するぞ!?」
「そんなあ!! せっかく新しい魔法植物の苗が手に入ったのに!!」




