第5話 男たちの友情
シャルロットたちの、少なくとも植物園方向に向かわせようとしている意図を勇者たちは見抜いた。
そして今、水晶の映す情景の中、どう言うわけか勇者ジェイクたちは手近な城壁の前に立っている。
「ふむ? はてさて、何をするつもりか⋯⋯」
ちょっぴりワクワクしているらしいシャルロット。
一方、水晶に映し出された情景の中では、勇者ジェイクが剣を空に向けて掲げた。
「ん?」
「あら?」
相変わらず頭の上にはてなマークが浮かんでいるシャルロットたち。
次の瞬間、剣には眩い光が灯り、大きく振り被って放たれた光の衝撃波が、一撃で城壁をぶち壊した。
「ええ⋯⋯普通、必殺技で城壁ぶっ壊すかなあ⋯⋯?」
「でも、今まさに目の前でやってますわね」
引いている主に対し、ジークリンデは焼き菓子の皿を主に差し出しながら苦笑する。
とは言え、シャルロットもすぐに尊大な調子を取り戻す。
「ふふっ、しかし無駄なことよ。そこから本城まで、城壁がいくつあると思っている? 先に力尽きるのは貴様らよ!!」
まさに無力な下等生物と見なした相手を嘲笑う大悪党よろしく笑いながら、シャルロットはジークリンデ特製クッキーを手に取った。
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「くそ⋯⋯城壁が壊せてもこれじゃあ⋯⋯」
勇者ジェイクにも分かっていた。
彼の光の剣の一撃では、今の最大威力でも、この城の城壁一つを突き崩すので精一杯らしい。
こんなことを続けていたら、間違いなく息切れは不可避だ。
実のところ、勇者ジェイクは責任を感じていた。
彼らはこの異空間の城に挑む前、一人の賢者の噂を聞いていた。
森の賢者アンゼリカ。
魔法学院を首席卒業しながら、栄誉を求めず、森の中でひっそりと過ごしているという娘。
遠距離要員や支援要員が不足している勇者ジェイクのパーティーにとっては、是非とも仲間になってほしい人物だ。
でも、勇者ジェイクは正義感から、吸血鬼の脅威に怯える村人たちをなんとかすることを優先してしまった。
拳闘士ウォンの反対を押し切って。
その結果がこの苦戦だ。
「くそ⋯⋯こんなんじゃ⋯⋯」
膝を付いた彼に、拳闘士ウォンが近づく。
「なにウジウジしてんだ」
「⋯⋯」
勇者ジェイクが苦い顔をする。
彼は常に、誰よりも勇者らしくあろうとしてきた。
勇気を胸に、正義感を忘れず、決して屈しない。
だからこそ、光の剣に選ばれた。
でも、勇気や正義感だけでは、やはり何ともならないことがある。
最近の冒険で、その現実を実感しつつあった。
だが―――
「⋯⋯俺たちがいるだろ?」
ぽつりと拳闘士ウォンが、勇者ジェイクに手を差し出しながら言う。
彼だけではない。
反対側から、エルフのルキウスもまた、苦笑しながら手を差し出す。
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「おお⋯⋯なんか良い感じの雰囲気になってきたな、ジークリンデよ」
「ええ、そうですわね。3人とも、凄く男の子してらっしゃいますわ」
だからこそ、ジークリンデは気づいてしまった。
真っすぐで不器用な男たち。
そして、事前の情報収集で聞いていた、良くも悪くも脳筋チームという特性。
「あ……なんか読めたかもしれません」
「何が?」
クッキーを頬張りながら問う主に、ジークリンデはにっこり笑う。
「いい意味でお馬鹿な男の子たちがヒーローだった時の、王道な物語展開―――わたくしの割と好みな展開ですわ」
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3人は並び立つ。
勇者ジェイクは、光の剣に勇気の力を。
拳闘士ウォンは、己の拳に東洋に伝わる気の力を。
エルフのルキウスは、番えた矢じりにありったけの魔力を。
「「「はああああああああああ……」」」
各々の力を貯める3人からオーラが立ち昇り、その波動は周囲の大気を揺らしていく。
風もないのに木々がそよぎ、小石が巻き上がる。
そして、3人が一斉にくわっ、と目を見開いた。
「「「どぉりゃあああああああ!!!」」」
3人の隠し球とも言うべき、友情の一撃。
放たれた力の奔流。
3つの閃光が螺旋を描き、1つの巨大な光の渦となる。
そして、ぶち抜いた。
本城に至るまでの城壁全部、そして本城の外壁を。
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「ほわああああああああああ!?」
大爆発とともにド派手に揺れる城内で、とっても情けない悲鳴を上げながら玉座からずり落ちて、危うく紅茶を零しかけているシャルロット。
そんな主を他所に、ジークリンデは焼き菓子の皿を持って直立不動のまま、水晶に映された勇者たちの様子を見ていた。
「あらあら⋯⋯そのままの勢いで本城まで突っ込んできましたわね」
「え!? な、なに!? もう!? 早すぎない!?」
「お嬢様が早く城壁直さないから⋯⋯」
「いやむしろなんで貴様は平静なのだ!?」
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「邪魔だああああ!!」
拳闘士ウォンの拳が唸り、立ち塞がるオークの腹にのめり込む。
吹っ飛んだオークは、その先に居たガイコツ兵を3体くらい巻き添えにして倒れ伏す。
「させるか!!」
その拳闘士ウォンの背中に振り下ろされた幽霊騎士の剣は、横合いから割って入った勇者ジェイクがカバーし、返す刀で横に一閃。
「二人とも、そこを動くな!!」
幽霊騎士が霧散する間にも、前衛二人の間を絶妙に縫うように放たれた矢が、廊下の奥で魔法の杖を構えようとしていたダークエルフを無力化する。
本城に殴り込んだ3人は、怒涛の勢いで妨害を突破していく。
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「あわわわ!! 配下の再配置が間に合わん!! 城内を操作しようにも、あやつら片端から壁ぶっ壊しまくりおって!! だああああ!! 再配置した階段を無視して床をぶち抜くな!! どれだけ非常識なゴリ押し脳筋戦法なのだこやつらは!?」
策士キャラな悪役が、"真っ直ぐすぎる熱きバカたち"によって小細工を片っ端から粉砕されるかのごとく。
完全に大混乱している主を他所に、ジークリンデは思念による精神同調で呼びかけてきたミラベルに対応していた。
『じ、ジークリンデ様!? い、い、一体何が起きているんですか!? なんか本城があちこち爆発してますよ!?』
「話せば長く―――はないですけど、説明は省略します。ミラベル、すぐに本城に来なさい」
『も、もう本城に入りました!! でも、これお嬢様のダンジョン改変ですよね!? 道や廊下が出来たり消えたりで、何がなんやら⋯⋯』
ジークリンデが流し目で主を見やれば、わーわーきゃーきゃー言いながら、空中で何かを置き換えるような動作をしながら魔法を使いまくっている。
城の構造を頑張って操作しているのだ。
「⋯⋯仕方ありませんわね。ミラベル、今からわたくしの言う場所にて待機しなさい。今回は差し出がましいのは承知で、わたくしが対応します」




