第3話 四魔将
主の指摘を受け、暗黒騎士バスチアンは若干ぐぬぬとなりながらも、なおも主に反論する。
「なれどお嬢様!! 労せずして手にした力など、なんの価値になりましょうや!? 真なる自信と強さを身につけるには、やはり相応の苦難を―――」
「そういうものは最終決戦前に済ますものであろうが!! 土壇場で最終決戦しながら修行する阿呆が何処におる!?」
「されども!! 我が配下も良い感じに気合を入れましたゆえ、今や勇者カインらは、そこらのドラゴンくらいなら片手間でぶちのめせるくらいには強くなり、これで旅路はかなり安泰―――」
「囚われの身だった聖女セシリアととんでもなく能力格差が生まれたであろうが!! 我を打ち倒した際にくれてやった"神霊大樹の聖杖"でも隠しきれんぞあれは!!」
「あー⋯⋯なんか想定していたよりとんでもなく強いなあとは思ったけど、そういうことだったんだねえ」
「貴様も貴様だマクシム!!」
横合いから口を挟んできた、メガネと白衣の怪しげな猫背気味の中年に、シャルロットは喚きながら勢いよく指差した。
「きっかけとして、聖女セシリアを攫うとは確かに計画した!! しかしだ!! 悪役勢力との初接触の初っ端からヒロイン誘拐に成功する奴があるか!! もっとドラマを挟まんかドラマを!!」
「いや、そう言われましてもねえ……まさかあんなにあっさり騙されて眠ってしまうとは想定外だったというか……それに、あの聖女セシリアの性格なら、むしろ仲間に対して遅れを取る自分を気にして、更なるドラマを生むんじゃないですかね?」
「うむ。それについては某も同意であるな。あの一行であれば、聖女セシリアが絆の力で更なる覚醒を得てもおかしくはない」
うんうんと頷くバスチアン。
因みに聖女セシリアは、自分の実力不足を嘆きつつも純粋さを失わずに努力を怠らなかった結果、灰色の魔神王との最終決戦直前という形ではあるが、最終覚醒を果たすことになる。
要するに彼らの予想は的中するのだが、それは今のシャルロットたちには知りようがない。
すると、気弱そうな庭師の少女、ミラベルがおずおずと同意する。
「びょ、"病気のお母様を診て"はともかく、"深夜の森に必ず一人で来て。勇者様たちには内緒にして"に全く疑わない人、初めて見ました……とにかくすっごく優しくて、逆に私の良心が痛んで……」
「ミラベルのそれも露骨すぎるわ!! いや、まあ乗ってしまう聖女セシリアも大概であるが……それよりマクシム!! 貴様、我に謝ることがあろう!?」
猫背に白衣にメガネのマクシムは、何のことだろうかと首を傾げ、シャルロットは円卓をバンバン叩きながら叫んだ。
「魔法使いアリアンとの空中戦の件だ馬鹿者!!」
「ああ!!」
「ああではないわ!!」
青筋を立ててキレるシャルロットだが、マクシムは飄々と、むしろ嬉しそうに語る。
「いやあ、久しぶりに空中戦ができる相手だったからねえ。おじさん張り切ってしまった」
目を閉じて、楽しそうに思い出に耽っているマクシム。
目にも留まらぬ高速で、建物の間を縫うように飛び回り、魔法の杖に跨って魔弾を撃ちまくる魔法使いと、それに対峙して火球の弾幕を投げながら応戦する蝙蝠男のドッグファイト。
そりゃあもう、絵面もスリルも最高だったろう。
巨大な翼を2つとも撃ち抜かれた敗北時、捻くれ者のマクシムが素で、"見事だ、魔法使い……"と、なんか良い感じに台詞を遺しながら湖に盛大に落っこちたのも、当人的にはめちゃくちゃ楽しかったからだろう。
だが、シャルロットにとってはたまったものではなかった。
「そうやって貴様が気持ちよく撃ちまくり飛びまくりしたせいで、我の謁見の間に流れ弾が何発飛んできたと思う!? 何回も直す度に、嫌がらせのようにドカドカドカドカ……挙句の果てに貴様が気前よく吹っ飛ばした魔法使いアリアンが、我が修理を終えた直後の柱に吹っ飛んできて、変な悲鳴あげてしまったから、すっごく気まずかったのだぞ!?」
「……結界か何かを張れば良かったのでは?」
「崩れ落ちる瓦礫の中を駆け抜けながら戦うスリルも大事であろう!?」
「しかしねえ……あの魔法使い、お嬢様のいる場所を察知するや否や、流れ弾がそっちに飛ぶよう仕向けた位置取りをしていたんだよねえ……」
「え……なにそれ怖い。なんかアホっぽい娘だと思ってたのに⋯⋯」
とんでもなく失礼な事を言い出した最強の吸血令嬢は、はっとしたように我に返った。
一度咳払いして、シャルロットは今度はミラベルを見る。
「ミラベル、貴様からも我に言うことがあろう?」
「ひゃっ!? わ、私なにかしちゃいましたか!?」
びくびくと目尻に涙を浮かべながら、ミラベルは上目遣いにシャルロットを見る。
「貴様の場合は何もしなかったのが問題なのだ!!」
今回の勇者パーティーには、空中戦ができる魔法使いがいた。
そうなると、空を飛べない他のメンバーは、必然的に見てるだけになってしまう。
それはちょっと勿体ないな〜ということで、一度は倒したはずの第二の試練―――城の庭で魔の植物を操るミラベルが復活して登場というプランがあった。
そこまでは良かったのだが、
「ミラベル!! 本性を現したはいいが、なんで突っ立って適当に触手攻撃に徹したのだ!? ブレスはどうしたブレスは!? 気前よくぶっ放さんか!!」
「そ、そんなこと言われましても!!」
ミラベルは、今は完全に無害そうな少女の姿をしている。
だが、その正体は見上げるように巨大なダークフォレストドラゴンである。
手足や翼はなく、怪しく輝くコアを持つ巨木から、ワニを思わせる巨大な頭が一つ生えている。
更に、食虫植物を思わせる大小無数の触手を操り、丸呑みやひっぱたき、巻き付いて拘束なんかはお手の物。
何より凄まじいのは、大きい触手の口と、本体のワニ頭からぶっ放される破壊光線だ。
ドラゴンブレスの一種であるそれは、単純な破壊力としては、本体のワニ頭から放つ最大出力ならば一撃で山を消し飛ばし、更にダークフォレストドラゴンの特性として、掠めただけでも腐食効果まで持つ。
無害そうな少女が醜悪な怪物に変身というインパクト。
見た目に違わぬとんでもない脅威と、巨大な化け物討伐というセッティング。
まさに、ダンジョン攻略の花とも言うべき要素の一つとも言える。
ただ一つ、問題があるとするなら―――
「そんなことしたらお城があっという間に消し飛んじゃいますよぉ!?」
「そこをなんとかするのがプロであろうが!!」
「簡単にできるなら、毎回私の怪獣化の使い所に悩まないですよぉ……」
そう。
ミラベルの怪獣化は使い勝手が死ぬほど悪い。
いや、ミラベルが最終決戦のラストバトルを飾る身なら良かったのだ。
なにせ、結構な巨城であるシャルロットの虚ろの館の、最も高い塔に匹敵する全高である。
追い詰められた末、城を派手にぶっ壊しながら怪物化すれば、もうそれだけでやるべきことの6割ぐらいは完了だ。
ところが、最大の問題がある。
今のところミラベルは、城の庭を守護する第二の試練担当なのだ。
「お嬢様、やっぱりミラベルが2番手なのに無理があるのでは?」
バスチアンが腕を組みながら進言する。
「今一度、再検討するのが妥当であるかと」
今の配置的に、後に続く2人はマクシムとジークリンデである。
炎を操る蝙蝠男のマクシムは、ビュンビュン飛び回ったりする都合から、彼の研究室がある高い別棟及びその屋上が割り振られている。
ジークリンデは、まさに城の中枢で待ち構える忠実なる従者だ。
その立ち位置及び彼女が戦う場所的にも、彼女との遭遇からまた外に出るというのは、普通にやるならちょっと厳しい。
そして、謁見の間にて最後に立ち塞がるは、最強の吸血鬼たるシャルロット。
これは譲れない。
「となれば、入れ替えるならばマクシムか……」
「僕は何番手とかこだわりないから構いませんよ、お嬢様」
「それはそれでどうなのだ貴様は……プライドとかないのか?」
呆れたようにため息をつきながら、シャルロットは指を鳴らした。
音を立て、城の構造が一部変わっていく―――




