第12話 怪しい液体にご用心
尋常ならざる強さの暗黒騎士バスチアンに圧倒された姫騎士エリザベスたち。
今、彼女たちは偶然見つけた地下迷宮のような場所に逃げ込み、なんとか息を整えていた。
「ひ、酷い目に遭ったわ……」
「そうね……」
姫騎士エリザベスと戦巫女シズカは、お互いの姿を見て、なんとも言えない顔をした。
ぶっちゃけて言ってしまえば、2人は中々に目のやり場に困る格好になっていた。
全身ベトベトのヌルヌル、服や鎧が溶け、図らずも露出が凄いことになっている。
逃げる途中で、怪しげな木の怪物と遭遇したのが原因である。
襲いかかってくる蔦や枝を切り裂くたびに、変な液体がぶち撒けられていたが、どうやらそれが溶解液か何かだったらしい。
返り血を浴びるような感じでこんな様になっていく最中は、流石に戦闘真っ只中でそれどころではなかったが―――エリザベスもシズカも、一息ついている今は、恥ずかしさで顔が赤らんでいる。
「悠長なことね。そんなもの気にしている余裕があるなんて」
残る1人、仮面の魔法使いの女性は腕を組み、呆れたようにため息を吐いている。
だが、そう言う彼女も頬の赤らんだ様子からして、恥じらいがあるのは間違いなく、やはりこちらも服が一部溶けてしまい、露出が増している。
「ここは、あの吸血令嬢の館よ? 恥じらいを気にするより、命の心配をするべきだわ」
「とは言え、我々の防御力はかなり低下している。私は無理に先に進むべきではないと思うが?」
一見すれば、装甲部分以外は只の布地。
しかし、彼女たちの衣装は、魔法による強化によって、本来ならばそんじょそこらの魔法の鎧よりもはるかに頑丈なのだ。
シズカの指摘に対し、仮面の魔法使いは少しだけ考える仕草を見せてから――― 一瞬、エリザベスに視線を向けた後に言った。
「いいわ。疲弊もしていることだし、修復魔法である程度装備が回復するまではここで休憩しましょう」
「ありがとう、姉さん」
「何度も言わせないで。私は貴女の姉ではないわ。黒の大魔道士ペルセフォネ。それが私よ」
「……」
ぴしゃりと拒絶され、エリザベスは哀しげな顔をした。
シズカはエリザベスに気遣わしげな視線を送る。
エリザベスの旅路の始まりは、とある魔王に城を襲撃されてしまい、光の大魔道士だった敬愛する姉フレデリカが行方不明になったことだ。
更にその上で、公爵たる彼女の父と母が呪われてしまい、眠りから覚めなくなってしまった。
故国で、信頼できる忠臣とともに必死に領地をまとめてくれている幼い弟のためにも、一刻も早く魔王を倒さなくてはと、必死に戦い続けてきた。
その中で、ようやく姉らしき人と再会したのに。
シズカやエリザベスの胸中を他所に、魔王配下の幹部の一人であるペルセフォネは、仮面の下の思惑を読ませず、ただ一人腕を組んで何かを思案していた。
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「うーん……改めて見ると、せっかく物語的に大事そうなシリアスな場面だと言うのに―――格好が淫らなことになっているというのは、なんとも⋯⋯申し訳ない気分になるな……」
シャルロット自身も頬を赤らめ、心底申し訳なさそうな顔をしつつ、ナイフとフォークで上品に肉を切り分けていた。
昼食の時間である。
「しかしお嬢様。お嬢様が苦手なビキニアーマーの類よりは、露出度は一応控えめで御座いますよ?」
給仕を務めるジークリンデは、特に恥ずかしがる様子もなくさらりと口にするが、シャルロットは憮然とした態度になる。
「ビキニアーマーか……いくらなんでも痴女すぎる上、見るからに怪我とかしそうで、戦う側も気が気じゃないという問題もあるから、アレは嫌いなのだ。……しかしその上で、理屈上は一応戦闘服であるし、あの露出にもいろいろ魔術的な意味があるのは分かっておる。腹立たしいことにな」
「⋯⋯お嬢様の身体つきでも、それはそれで需要はありますよ?」
「誰があんな品のない格好するか馬鹿者!!」
シャルロットに言わせれば、ビキニアーマーの類は強い弱い云々以前に趣味ではない。
当人の格好からして露出とは真逆だし、ジークリンデたちメイドが纏う服もロングスカートにして、古風なメイドスタイルを要求したりしていることから、さもありなんだ。
だから、今まさにこの館に挑んできた3人の美少女勇者の―――正確には約1名、推定未来の追加戦士枠っぽいのがいるが―――清楚さと可愛らしさ、それぞれの個性にあった魅力を最大限に追求した素晴らしいセンスの格好は、実にシャルロット好みだったのだ。
なんなら、ちょっとあんな感じの着てみたいな〜なんて思っちゃうくらいには。
なのに、シャルロットの初心者向けの配慮が仇になり、今は下着がちらつきかねないくらいに溶けてしまい、しかもベトベトのヌルヌル状態である。
同じ女性として、せっかく綺麗に着飾ったドレス姿の相手を泥で汚してしまったり、破いてしまったような気分なのだ。
「……なあ、ジークリンデよ。ただでさえ布地がないビキニアーマーであの粘液食らったら、とんでもなくまずいのではないか?」
ふと思ったことを口にすれば、ジークリンデは言われてみれば、と苦笑する。
「確かに……露出どころか下手すれば全裸一直線で、もはや戦いどころではありませんわね」
「なんということだ、そこまで考えてなかった……」
「挑んできたのが女性だけの勇者パーティーだったのは、ある意味幸運だったかもしれませんわね。男女混合だったら、いろいろな意味でもっと居た堪れないことになってたでしょうから。それはそうと、実戦を経た上で改めて⋯⋯あのお色気ハプニング祭り一直線な木は如何致します?」
「いや、そうは言っても⋯⋯今更になって伐採したり、燃やしたりするのも流石に気が引けるし……何よりも有効なのよなあ……こうして見ると」
そもそも、今まさに被害に遭ってる3人のうち、エリザベスとシズカは、勇者パーティーとしてはまだまだ半人前レベルだった。
四魔将に手も足も出ないのは当たり前で、新設計のテストに協力してもらうため、この異空間に引っ張り込んだのだ。
もちろん、本人たちの同意など取っていない。
そもそも彼女たちは、旅の途中で立ち寄った街の人々を助けるため、食人植物が大量発生した森へ向かおうとしていたのだ。
それを知ったミラベルは、"絶対に止めた方がいい"と進言した。
そして、シャルロットは彼女たちをこの異空間へと引っ張り込んだのである。
結果を見れば、ミラベルの判断は正しかったと言えよう。
案の定、エリザベスとシズカは植物の魔物を不用心にもに接近戦で対応して、あちこちを切ってしまい、本来はそんな下手を打たないペルセフォネまで巻き添えで、ベトベトでヌルヌルになっている。
これがもし、もっと極悪な殺人溶解液だったならと思うと、3人の戦姫の有様は洒落にならない。
水晶の映像でも、ちょうどペルセフォネが他の二人に説教を始めつつ、次に似たようなのが出たらどうするか相談を始めていた。
ミラベルの"初心者向き"という見立ては、かなり的確だったと言えよう―――もうちょっと絵面がお上品ならもっと良かったのだが。
頭を抱えて呻くシャルロット。
「はあ……案の定、かわいい我が配下は喜んでおる……これでは余計に伐採などできん……」
指を鳴らせば、水晶に映された情景が変わる。
映るのは、茨の森にて問題の木と手と手を―――いや、手と枝を取り合い、初陣大成功をすっごくいい笑顔でスキップしながら祝福しているミラベルの姿。
これが四魔将が一人、"毒華覇竜"の姿なんて言われても、果たして何人が納得するやら。
それを見ると、シャルロットの姫騎士たちへの申し訳なさで痛んだ良心が少しは―――いや待て、なんでガッツポーズしてる結構な数の男衆が居る?
幽霊騎士やら暗黒騎士やら、ジークリンデ指揮下の執事服のダークエルフその他諸々―――女性たちに不埒な手出しはしないと弁えている連中ではあるが、それはそれとしてお好みのシチュエーションを簡単に実現し得る偉大な神木を目の前にして、すんごい大興奮で木を讃えている。
なんなら、なんかお供え物までしてる奴がいる。
「……」
「……」
「……ジークリンデ。ちょっとバスチアンと一緒に行って、エロガキどもをお仕置きして来い」
「かしこまりました」
メイド服のスカートを摘んで優雅に一礼し、ジークリンデの姿が瞬き一つの間に掻き消える。
「まったく……まあ、とは言っても、次なる試練の連中は、相手がどんな格好であろうと大丈夫であろう」
呆れて溜息を吐きつつも、シャルロットは水晶の映像を姫騎士たちに戻しながら、にやりと笑う。
「さあ、茨の森正規ルートからの分岐―――新しく作った地下の迷宮がどれほど機能するか。戦姫たちよ、試させてもらおうか」




