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第11話 楽しく学ぶ魔法植物 初級編

 戦姫たちが虚ろの館に挑む、少し前のこと。


「〜♪ 〜♫♪」


 いつもは気弱なミラベルが、なんともご機嫌な様子で、茨の森の一角で園芸用スコップを使い、小さな苗を一つ植えていた。


 それを見ながら、バスチアンは興味深そうに問いかける。


「何度見ても、フォレストドラゴンの力とは不思議なものだな。本来ならば何百年もかけて育つ大樹すら、容易に数秒で育ててしまうのだから」


 実際、幼女の姿であるミラベルの手のひらサイズに過ぎない苗が、今から巨大な木になるのである。


 ミラベルは少し恥ずかしそうに微笑みながら、バスチアンに答えた。


「でも、エルフさんたちと違って、私たちフォレストドラゴンはパワーが強すぎて制御が難しいんです。私も最初はうまく行かなくて、腐らせそうになったことが……」


 そう言いながら、如雨露を手にし、フォレストドラゴンの力を込めた水を植え終わった苗にかけていく。


 端から見れば、幼い少女の微笑ましいガーデニングなのだが、変化はすぐに訪れた。


 苗がどんどん急成長し、枝ですらなかった芽が見る見るうちに木の形に変わっていく。


「さあ、もっとのびやかに!! もっと健やかに!! 大きくな〜れ!! 大きくな〜れ!!」


 ミラベルが如雨露を置いて、両手を万歳するかのように、かわいらしく何度か上げ下げする。


 やがて僅か一分ほどで、2人の目の前には立派な木が1本完成していた―――何やらうねうねと触手のように枝が蠢き、怪しげな果実がぶら下がり、更に妙に人を惹きつける美しい花が咲いているあたりが闇属性クオリティだが。


「そういえばミラベルよ。今回植えた木々はどのようなものなのだ? お嬢様のご要望通り、初心者向きな魔法植物を植えたのだろうが……」


 事の発端は、ちょっと前に虚ろの館に挑んできたとある勇者パーティーの大苦戦が原因だった。


 簡単に言えば、彼らは海で活躍する勇者パーティーだった。

 大海原を船で旅をして、時に嵐の中をも突き進み、伝説の秘宝を巡る争奪戦をしたり、海の化け物を討伐する。

 その性質的に、冒険者の一団が巻き込まれる形で勇者パーティーとなる場合が多い。


 立ち塞がる脅威としては、やはり海賊的な連中が多い。

 普通の海賊だけでなく、半魚人やら魔物やらが海賊をやっていたり、呪われた海賊だったり。


 あとは、巨大なタコだのイカだのクジラの化け物だの、よくわからない深海生物だの―――あとは、竜巻に乗って襲いかかってくるサメとか、サメの幽霊とか、やたら頭がいっぱいあるサメとか、砂浜や雪原を泳ぐサメとか―――まあそんな感じである。


 そう言うのと戦うのが多い連中だからこそ、大半は植物の魔物に関して、そこまで詳しくない場合が多い。


 だから、ひょんなことから虚ろの館に挑む羽目になったとある海の勇者パーティーたちは、ミラベルの中庭や植物園で、それはもう酷い初見殺しを連発されてしまい、とんでもなく苦戦してしまったのである。


 それだけなら、島に上陸した場合の内陸での試練扱いくらいで良かった。

 しかし、"海の勇者たちは実は弱いのでは?"などという、極端かつ勇者パーティーの名誉に関わる無責任な批評をする素人たちが出てきたのだ。


 そこに不公平を感じたシャルロットは、虚ろの館攻略の序盤も序盤である茨の森にて、あまり強くない魔法植物をちょくちょく配置。

 度を越しすぎた初見殺しにはならないようにしつつ、"この館にはよくわからない魔法植物がいるから注意しよう"と暗に攻略ヒントを与えられるようにしようとしたのだ。


「担当者としては、せっかく配置されたのだからうまく活用したい。例えば、今目の前にいるのはどんな魔法の木なのだ?」


 すると、ミラベルは楽しそうな笑顔で解説し始めた。


「この子については、トゲトゲ発射とか毒とかはないので、枝や蔦を用いた純粋な物理攻撃をします」


「ほう。他には?」


「それだけだと普通の魔物と変わらないとお嬢様に怒られたので、樹液に特殊な効果がある種を選びました」


 丁度良いタイミングで、とろりと枝や蔦に薄いピンク色の樹液が垂れているのを見ながら、バスチアンが先を促すと、


「この子の方向性は、溶解液です。下手に切ったりしたら逆に危ないタイプは、植物園エリアに沢山いますから。教材として丁度良いかな、と」


「溶解液だと? 普通に強敵ではないか」


 植物系の魔物のよくある厄介な特性だ。

 ぶった切った触手から危険な液を撒き散らしたり、舞い散った花粉が猛毒だったり。

 単純な物理的打撃や拘束などの危険性以上に、そう言った副次的被害が厄介なのが、植物系の魔物や魔法植物の一般的脅威なのだ。


「あ、そこは大丈夫です。鉄がドロドロに溶けたりするようなものではないので……」


「ふむ? なら何を溶かすのだ?」


 溶解液というからには、当然何かを溶かすのだろうという、シンプルな疑問だ。

 するとミラベルは、ちょっと自慢げに言った。


「お洋服の類です」


「……何?」


「ですから、非殺傷なので危険性は―――」


「……いや、そうではなくて」


 若干―――いや、非常に嫌な予感を感じつつ、バスチアンは改めて問う。


「服を……溶かすのか?」


「はい」


 にこにこしながら、ミラベルが答える。


「……効果はどのくらいだ?」


「浴びた量にもよりますが、魔法で防御力を高めてても貫通します。でも、修復魔法があるなら、時間が経てば元に戻ります。この館に挑む勇者様たちなら、装備の完全喪失にもまずならないように考えました」


「それは……浴びた箇所にちょっと穴が開くとかそう言うのか?」


「ご覧の通りベトベトしている粘液ですから。付着した箇所から垂れたりして、どんどん溶かせちゃいます」


「……そうか」


 バスチアンは片手を掲げ、その手に巨大なランスを顕現させた。


「よし、伐採しよう」


「なんでですかあ!?」


 慌ててミラベルがバスチアンに縋りつき、なんなら目の前の魔法生物な木も仰け反るような動きをする。

 顔があれば、顔面蒼白で冷や汗だらだらなことだろう―――地に根を張る植物だから、逃げようにも逃げられないのだが。


「なんでではないわミラベル!! 某と配下は誇り高き騎士だぞ!? こんな品位がないものを植えられては困る!!」


「な、なんてこと言うんですか!? えっちな想像したバスチアンさんが悪いんじゃないんですか!? それともなんですか!? 骨だけ残してドロドロ系のえげつない子なら良かったんですか!?」


 自らの生死が関わっているからだろう。

 木がぶんぶんと頷くような動作を見せて、ミラベルに同意している。

 植物のくせに感情表現豊かすぎる。


「極端すぎるわ!! 虚ろの館には女性も挑んでくるのだぞ!? 彼女らがぬるぬるのドロドロで裸にされる危険性ありとか、普通に考えてドン引きされるわ!!」


「むう……なら樹液の質を調整して、下着や靴下に使われている材質はいい感じに溶けないようにするとか、半裸くらいまで溶かしたら蒸発するように成分を―――」


「そう言うマニアックな仕様はいらん!! というか、そんなことできるのか!? 無駄に器用だなこいつ!!」


●


 因みに―――この木は最終的に残されることになった。


 植えてしまったものはしょうがないし、これより弱い魔法植物なんぞは、本当に蔦の鞭だの鋭い葉っぱの弾幕で攻撃とかになってしまう。

 かといって、これより強くすると本当に危険な奴になる。


 鱗粉でちょっと痺れるとか、気分が悪くなるとか、そう言った同格レベルの脅威はある程度別途植えた。

 その上で、溶解液系の脅威を一番分かりやすく教えるにはコイツしかいない―――実際、もっと凶悪なタイプの外観などはコイツの発展型として外観に共通点があるなど、学術的にも分かりやすい―――ということで生き延びた。


 因みに―――ミラベル以外の女性陣からは最後まで大顰蹙だったし、シャルロットもミラベルにプレゼンされて、物凄く悩ましい顔をした末に許可を出した。


 

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