↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/13

第13話 姫騎士たちの窮地

 3人の戦姫が、左右の壁面に設置された松明に照らされた地下ダンジョンの中を走る。


 彼女らの後方から聞こえるのは、ガチャガチャという甲冑が鳴る音と、"ギ、ギギギ"という特徴的な鳴き声が複数。


 その気配を察知した彼女たちは、消耗した状態での戦闘を避けようと逃げの一手を選んだのだ。


 幸い、彼女たちの衣装は既にだいぶ元の形を取り戻していて、防御力は相応になっている。


 だが、当人たちの魔力そのものは回復し切っていない。


「急ぎなさい!! ゴブリンと言えど、数で押されたら厄介よ!!」


「分かってるわ姉さ―――ペルセフォネ!!」


 ゴブリンとは、低級な魔物の代表的存在の一つだ。

 基本的には個々の戦闘力は低く、知能も優れては居ない。

 武器も力任せに振り回すばかりで、武術の心得などもない。

 魔法を使える個体は絶対数が極めて少ない突然変異タイプでしかなく、しかもちょっとした火球や雷球などを打ち出すような、基本中の基本とも言える魔法しか使えない。


 だが、とにかく数が多い。

 一体の能力は、訓練を受けていない一般人の成人男性でも問題なく殺せる程度でしかないのだが、一人の敵に対して当たり前のように10体、20体、30体と、群体で襲いかかってくる。


 それがゴブリンだ。


 やがて戦姫たちは、広間のような場所に出た。

 ざっと見回せば、次なる経路への出入り口となる暗がりや、半壊して役を果たしていない扉などが複数見受けられる。


 しかし―――


「……囲まれたな」


「ええ⋯⋯」


 それらの暗がりから聞こえる、大量のゴブリンの鳴き声。

 不気味に光る、無数の黄色い瞳。

 戦姫たちは背中合わせに立ち、互いの死角をカバーし合う。


 しかし、暗がりの一つから進み出てきた一匹のゴブリンは、奇妙な姿をしていた。


 大きさは普通のゴブリン―――人間の子供程度の背丈だ。

 松明に照らされ、緑色の肌をしているのも至って普通。

 ところが、その身にはどう見ても専用に誂えられた立派な騎士服を着込んでいた。


 それだけではない。

 集団で来るのが当たり前のゴブリンであり、実際に暗がりのあちこちにかなりの数がいる気配があるのに、そいつは一匹で堂々とシズカの前に立ち、手慣れた動作で腰のサーベルを鞘から抜いた。


 これだけでもおかしい。

 ゴブリンが小綺麗な格好をして、刀剣の類なんざ手入れの仕方も知らず、常に抜き身で危なっかしく持ってるような奴らが、鞘なんてものをちゃんと取り扱うなんて前代未聞だ。


「な、なんだ?」


 困惑するシズカに対し、何やらゴブリンは"ギギギ、ギギ、ギギギ……ギギギギギ、ギギギ!!"などと、まるでなにか語りかけるように鳴いた。


 そして、騎士服のゴブリンは、わざわざ左手でサーベルを握り直し、右手を前に出して刀身に添える。

 明らかに普通のゴブリンではない。


「こいつ……まさか武の心得があるのか!? 二人とも、気をつけろ!!」


 仲間に警告しつつ、なんとも特徴的な構えだとシズカが警戒する。


―――いや、待てよ? この構え、どこかで……


 ゴブリンはシズカに対し、なにやら鳴き声を上げる。


「ギ、ギギ……ギギギ、ギーギギ!!」


 次の瞬間、とんでもない速度でゴブリンが突っ込んできた。


「なッ!?」


 シズカは抜刀術で繰り出した一撃でなんとか切っ先を逸らすが、その信じ難い精度で繰り出された突き技に愕然とする。


―――これは、片手での平突き!? 刀ではなくサーベルだが、こんな技が西方にもあったのか!?


 それだけではない。

 完全に両者の間合いが詰まり切った、まさにゼロ距離にて、


「ギギギ、ギギギギ!!」


「うあっ!?」


 何やら叫びながら、そのド至近距離から全身のバネを用いて放たれたとんでもない威力の突き技が、シズカを容赦なく他の二人から引き剥がした。


 太刀で払うだけでは、威力を殺しきれなかった。

 回避だけでは、躱しきれなかった。

 どちらかが遅れていたら、シズカは容赦なく肩あたりを貫かれ、壁に磔にされていたかもしれない。

 対物理、対魔法いずれからも神聖な力によって守護してくれる、戦巫女専用の巫女服。

 その防御すらも貫徹し得る、凄まじい威力だ。


―――馬鹿な。

 

 こんな技、一朝一夕で身につくものではない。

 踏み込み、間合い、切っ先の制御。

 どれほどの時間を費やせば、ゴブリンの身でここまで剣を磨けるというのだ?


 しかし、そこは剣聖たる戦巫女シズカ。

 心眼と呼ばれる先読みの術にも助けられ、彼女が交錯の瞬間に放った神速の一撃は、単なる防御のみにとどまらず、相手のサーベルを叩き折っていた。


 騎士服ゴブリンは、驚愕に目を見開きながら後退する。


 すると、別の騎士服ゴブリンが入れ替わるように飛び出してきて、サーベルを抜き放ちざまに叩きつける。


「ちぃっ!?」


 エリザベスたちに合流させない気だ。

 賢すぎる。

 こいつら、本当にゴブリンか?


 そんなシズカの困惑は、更に驚愕に追い込まれた。


 そのゴブリンは、素早い動作でわざわざサーベルを再び納刀したのだ。


 その技は紛れもなく―――


「……え?」


「ギギギ、ギーギギ……ギギギギギ!!」


 シズカに比すれば、まだまだ完成の領域には程遠い。

 使っている得物も異なるし、そもそも独自性がかなり強く、まだまだ洗練されていない動き、即ち我流なのは明白だ。

 だがその根底にあるのは、明らかに抜刀術―――極東の島国にしかない筈の剣術の技だった。


「くうっ!?」


 困惑のあまり防御に失敗し、石の床に叩きつけられるシズカを背後に、着地したゴブリンがサーベルを鮮やかに鞘に納める。


 一方で、ペルセフォネに対峙するべく出てきたののは、魔術師のローブ姿のゴブリンだった。

 そいつが、なにやら呪文のようなものを唱えながら、懐から取り出した妙な手のひらサイズの紙を大量に宙に放り投げる。


―――何をする気?


 ペルセフォネもまた、困惑する。

 特別な巻物などに予め封入された魔法を解放すれば、魔力のない者でも魔法は撃てる。

 だが、呪文なりなんなりの解号方法を知らねば、只の巻物でしかない。

 ましてや、ゴブリンには文字という文化がないだけでなく、いちいち巻物の類―――というか、何かの紙を宙に放り投げる意味がわからない。


 すると、素早く魔術師ゴブリンの指が、何かを象るように連続かつ複雑な動きで素早く結ばれ、


「ギギィ!!」


 紙がすべて、黒いカラスのような形に変貌して襲いかかってきた。


「未知の魔術!? 本当にゴブリンなの!? くっ!!」


 それでも、他の二人より実力者故か。

 魔法杖を振るい、負けじと放った魔弾の嵐が、大量のカラスの幻影を撃墜しつつ、一発が魔術師ゴブリン本人にも直撃して吹き飛ばす。


「ッ!?」


 ぎりぎりで反らした上半身。

 ついさっきまで首があった辺りを、投げナイフが通り過ぎる。

 見れば、アサシンを思わせる姿のゴブリンが両手を合わせて一礼している。


「ギーギ……ギギギギ、ギギ。ギギギギギーギギ!!」


 妙に礼儀正しい動作をしたかと思えば、いきなり高く飛び上がったゴブリン。


 再び咄嗟に放たれた、ペルセフォネの弾幕攻撃。

 それに負けず劣らずの怒涛のナイフ投擲が迎え撃った。

 飛来するナイフは魔弾の全てを叩き落としたばかりか、弾幕を突破した数本がペルセフォネ本人の周辺にて爆発する。


「ぐッ!?」


 その隙に一気に距離を詰めたゴブリンが、鋭い手刀の連撃を繰り出し、ペルセフォネに格闘による近接戦闘を仕掛ける。


 それらの様を見ていたエリザベスもまた、ゴブリンたちの戦いに困惑を覚えていた。


―――何故なの? この子たちの技、明らかに……


 シズカと旅をしている最中、時には互いに鍛え合い、或いはシズカの戦いを間近で見て、そしてシズカの命を狙う個性的な追っ手たちとも戦ったことがあるからわかる。


「ギギギ……」


 新たな鳴き声に、ぎょっとしてそちらを見れば、黒の甲冑騎士を思わせるゴブリンが一匹、2本のサーベルを引き抜いたところだった。

 どうやら、こいつが自分を狙うらしい。


 油断なく剣を正眼に構える。

 目の前の個体は二刀流だ。

 ということは、シズカが得意な抜刀術のような動きはしてこない筈―――


「ギギギ!!」


 二刀流の黒甲冑ゴブリンは、真っ向から突撃を開始。

 そのまま跳躍して、二刀を叩きつけてくる。

 それを受け止め、弾き返す。


 エリザベスは半ば確信しながら叫んだ。


「シズカ!! もしかしてこの子たち、貴女の国に縁のある技を使ってない!?」 


 すると、抜刀術ゴブリンと激しく切り結ぶシズカが、苦々しげに叫び返す。


「ああ、間違いない!! しかも、荒削りな面があるとは言っても、油断ならない使い手だ!!」


「こっちの法術や投げナイフも!?」


 徒手空拳で襲いかかってくるアサシンゴブリン。

 槍としても使える魔法杖持ち、更に体格差ありという、接近戦でも絶対的な間合いのアドバンテージ。

 それでも反撃の糸口が掴めず、回避と防御に徹しざるを得なくなっているペルセフォネにもシズカが返す。


「然り!!」


 やはりそうかと納得しながら、エリザベスはシズカに問う。


「シズカ、何か攻略の糸口は―――」


「ギギギギギ……ギギギ!!」


 すると、着地した二刀流黒甲冑ゴブリンが、何やら自分を無視するなとばかりにサーベルをこちらに突きつけたその直後。


「ギギギギギ!!」


「え!? なに!? なんなの!?」


 いきなり二刀流黒甲冑ゴブリンが、キイィンという何かの出力が上がるような音を発しながら、赤い粒子を纏いつつ光った。

 何かの魔法かと思った次の瞬間、二刀流黒甲冑ゴブリンが残像を残しながら突進してきて、凄まじい勢いで斬り掛かってくる。


「シズカ!! この技は何!?」


「え? ……? ………? わ、わからん……」


「わからんって、そんな……きゃあ!?」


「ギギギギ、ギギィーッ!!」


 所詮はゴブリンであり、小柄かつ得物の重量などに限度がある。

 それ故、受け流しには失敗するような形ながらも防ぐことで耐えられてはいるが―――この赤く光るゴブリン、速度だけならさっきの暗黒騎士にも匹敵するのではないか?


 ただ、その身に過ぎた強化の代償故か、二刀流黒甲冑ゴブリンはよく見ると、口の端から吐血している。


「シズカ、本当に知らないの!? 赤く光って残像出すくらいに凄く動きが速くなる技!!」


「知らん!! 何かの自己強化だろうが、そんなものは聞いたことがない!!」


 本気で困惑しているシズカを他所に、二刀流黒甲冑ゴブリンは、間合いを確保しようと後退するエリザベスに対し、残像を残しながら抜き去った。

 背後からの一撃は彼女の魔法の衣装が防いでくれはしたが、エリザベスの身体を容赦なく弾き飛ばした。

 石壁をいくつも粉砕させ、その先にあった部屋へと転がしてしまう。


「エリザベス!? ああっ!?」


「二人とも!? あうっ!?」


 エリザベスのダメージに動揺した二人も同じように吹き飛ばされ、気絶したエリザベスが転がる傍らに投げ出された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。