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第91話 固定崩壊


 ——バキィッ!!


 


 


 黒土の一部が砕け散る。


 


 


 


 一瞬。


 


 


 


 メフィストの目が止まった。


 


 


 


「……上書き?」


 


 


 


 小さな呟き。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 次の瞬間には。


 


 


 


 黒土が再び(うごめ)いていた。


 


 


 


「対応変更」


 


 


 


 低い声。


 


 


 


 砕けた黒土が盛り上がる。


 


 


 


 再構築。


 


 


 


「また来るネ!」


 


 


 


 ミカが叫ぶ。


 


 


 


 直後。


 


 


 


 地面全体が波打った。


 


 


 


「っ!」


 


 


 


 ヒロが飛び退く。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 黒土は止まらない。


 


 


 


 壁。


 


 


 


 (くい)


 


 


 


 (ひつぎ)


 


 


 


 形を変えながら押し寄せる。


 


 


 


「キリないッス!!」


 


 


 


 マキが叫ぶ。


 


 


 


 その時。


 


 


 


 ヒロの横を風が抜けた。


 


 


 


 ユナだった。


 


 


 


「右!」


 


 


 


 フィールド展開。


 


 


 


 ——バキィッ!!


 


 


 


 黒杭(くろくい)が弾かれる。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 完全には止めきれない。


 


 


 


「侵食速度が上がってる……!」


 


 


 


 ユナが歯を食いしばる。


 


 


 


 フィールド表面。


 


 


 


 黒い亀裂。


 


 


 


 広がっていた。


 


 


 


「防御を固定して侵食しています」


 


 


 


 メフィストは静かだった。


 


 


 


「硬いほど(もろ)い」


 


 


 


「性格悪いネ……!」


 


 


 


 ミカが舌打ちする。


 


 


 


 その瞬間。


 


 


 


 黒土がミカの腕へ絡みついた。


 


 


 


「っ!」


 


 


 


 回転。


 


 


 


 止まる。


 


 


 


「またネッ!?」


 


 


 


 ミカが顔をしかめる。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 次の瞬間。


 


 


 


「止まる前に回せばいいネ!!」


 


 


 


 ミカが無理やり踏み込んだ。


 


 


 


 加速。


 


 


 


 さらに加速。


 


 


 


 黒土が固定し切る前に。


 


 


 


 回転が上回る。


 


 


 


 ——ギャリィィッ!!


 


 


 


 黒土が弾け飛んだ。


 


 


 


「……ほう」


 


 


 


 初めて。


 


 


 


 メフィストの声に興味が混じる。


 


 


 


「出力で押し切りますか」


 


 


 


「ミーは難しいの嫌いネ!」


 


 


 


 ミカが笑う。


 


 


 


 その横で。


 


 


 


 ヒロは黒土を見ていた。


 


 


 


 止まる場所。


 


 


 


 止まらない場所。


 


 


 


 流れ。


 


 


 


 全部同じじゃない。


 


 


 


「……そこだ」


 


 


 


 風を(まと)う。


 


 


 


 圧縮。


 


 


 


 今度は真正面じゃない。


 


 


 


 少しズラす。


 


 


 


 流れに沿わせる。


 


 


 


 ——ヒュンッ!!


 


 


 


 風刃(ふうじん)


 


 


 


 黒土が動く。


 


 


 


 固定。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 風刃は軌道を変えた。


 


 


 


 滑る。


 


 


 


 抜ける。


 


 


 


 そして。


 


 


 


 ——バギィッ!!


 


 


 


 黒土の核を砕いた。


 


 


 


 一瞬。


 


 


 


 周囲の黒土が止まる。


 


 


 


「ヒロ!」


 


 


 


 ユナが目を見開く。


 


 


 


「今ネ!!」


 


 


 


 ミカが飛び出す。


 


 


 


 高速回転。


 


 


 


 一直線。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 メフィストは動かなかった。


 


 


 


 青白い顔。


 


 


 


 静かな目。


 


 


 


 まるで。


 


 


 


 観察を続けているみたいに。


 


 


 


「人間でそこまで適応しますか」


 


 


 


 ぽつり。


 


 


 


 初めてだった。


 


 


 


 メフィストが。


 


 


 


 明確にヒロを見たのは。


 


 


 


「……不完全なはずですが」


 


 


 


「は?」


 


 


 


 ヒロが眉をひそめる。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 メフィストは答えない。


 


 


 


 杖を軽く地面へ突いた。


 


 


 


 ——ゴォン。


 


 


 


 空気が揺れる。


 


 


 


 次の瞬間。


 


 


 


 周囲の黒土が一斉に崩れ始めた。


 


 


 


「っ!?」


 


 


 


 マキが目を見開く。


 


 


 


「逃げるッスか!?」


 


 


 


「観察は十分です」


 


 


 


 メフィストは静かに言った。


 


 


 


「これ以上は効率が悪い」


 


 


 


 霧が濃くなる。


 


 


 


 黒土が崩れる。


 


 


 


 そして。


 


 


 


 その姿がゆっくり霞んでいく。


 


 


 


「……また会いそうですね」


 


 


 


 最後に。


 


 


 


 メフィストの視線がエバへ向いた。


 


 


 


 ほんの一瞬だけ。


 


 


 


 探るみたいに。


 


 


 


 そして。


 


 


 


 完全に姿が消えた。


 


 


 


 静寂。


 


 


 


「……何だったんスか、アイツ」


 


 


 


 マキが呆然と呟く。


 


 


 


 ヒロは答えなかった。


 


 


 


 ただ。


 


 


 


 妙に嫌な感覚だけが残っていた。

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