第90話 流動
黒土が蠢く。
巨大な棺みたいに。
ゆっくり。
逃げ場を塞いでいく。
「チッ……!」
ヒロが風を払った。
——ヒュンッ!!
風刃。
だが。
黒土へ触れた瞬間。
また止まる。
空中で固定されるみたいに。
「動くものは止まります」
メフィストが静かに言った。
「クソが……!」
ヒロが舌打ちする。
その時。
黒土が足元から盛り上がった。
「下ッス!!」
マキが叫ぶ。
——ドォッ!!
黒い杭。
無数。
地面から突き出す。
「っ!」
ヒロ達が飛び退く。
だが。
一瞬遅れた。
「くっ……!」
ミカの足首へ黒土が絡みつく。
そのまま固まる。
「ミカ!」
「邪魔ネッ!!」
ミカが無理やり回転する。
——ギギギギギッ!!
黒土が削れる。
だが。
止まる。
スパイラルの回転ごと。
「……出力上昇」
メフィストが小さく呟いた。
その目。
まるで実験結果を見るみたいだった。
「ふざけんなッ!」
ヒロが飛び込む。
風を纏う。
加速。
一直線にメフィストへ。
だが。
——ゴォン。
黒土の壁。
目の前へ出現。
「っ!?」
ヒロが強引に体を捻る。
直後。
壁が閉じた。
棺みたいに。
「危なっ……!」
マキが顔を引きつらせる。
「反応速度は高い」
メフィストは静かだった。
「ですが」
「動きすぎです」
杖が動く。
その瞬間。
黒土が波みたいに押し寄せた。
「ヒロ!」
ユナが叫ぶ。
フィールド。
展開。
——バキィッ!!
「っ……!?」
ユナが目を見開く。
フィールド表面。
黒土が張り付いている。
侵食。
固定。
「防御まで……!」
「対象変更」
メフィストの目がユナへ向く。
「支援型」
「優先度上昇」
「気持ち悪いネ……!」
ミカが舌打ちする。
その時だった。
「……そこ」
エバがぽつりと呟く。
「え?」
ヒロが振り向く。
エバは黒土を見ていた。
じっと。
「変」
「そこだけ、止まってない」
一瞬。
ヒロの目が動く。
風。
流れ。
読む。
確かに。
黒土全体じゃない。
一点。
僅かに流れている場所がある。
「そこか……!」
ぽつり。
メフィストが初めて反応した。
視線。
エバへ向く。
「何故見えるのです?」
初めてだった。
メフィストの声に。
わずかな揺れが混じったのは。
その瞬間。
ヒロが動く。
風を圧縮。
一直線。
流れている一点へ。
——ヒュンッ!!
「っ」
メフィストの目が細くなる。
黒土が動く。
固定。
だが。
風刃は止まらなかった。
流れを変えている。
固定される直前。
僅かに軌道をズラし。
滑り込む。
——バキィッ!!
黒土の一部が砕けた。
一瞬。
空気が止まる。
「……上書き?」




