第89話 固定
「……興味深い」
静かな声だった。
メフィストの視線。
それがミカへ向いている。
「何ネ」
ミカが眉をひそめた。
「アンタ、気持ち悪いヨ」
「感情で出力が変動する」
メフィストがぽつりと呟く。
「非効率ですが」
「……面白い」
「……は?」
マキが顔をしかめる。
会話になっていない。
「おい」
ヒロが前へ出る。
「村の奴らをどこへやった」
メフィストは少しだけ視線を向けた。
まるで。
ようやく気づいたみたいに。
「保管です」
「……何?」
ラナの顔が強張る。
「維持には素材が必要です」
淡々とした声。
そこに罪悪感はない。
「お前……!」
ヒロが踏み出す。
その瞬間。
——ゴゴゴゴ……。
地面が動いた。
「っ!?」
黒土。
広場全体へ広がる。
まるで生き物みたいに。
「下がって!」
ユナが叫ぶ。
次の瞬間。
黒土の壁が突き出した。
——ドォンッ!!
「うわっ!?」
マキが飛び退く。
直撃した家屋が砕けた。
「何スかこれ……!」
「脆いものは固定される」
メフィストが静かに言う。
「固定すれば壊れません」
「村を実験場みたいに扱ってんじゃねぇ!」
ヒロが叫ぶ。
風。
流れ。
読む。
手を払う。
——ヒュンッ!!
風刃。
だが。
黒土の壁へ触れた瞬間。
止まった。
「なっ……!?」
ヒロが目を見開く。
風刃が。
空中で固定されている。
一瞬。
初めて。
メフィストの目がわずかに揺れた。
「……フォカロール級ですか」
ぽつり。
小さな声。
——パキン。
風刃が砕け散った。
「っ……!」
ヒロが息を呑む。
だが。
メフィストの視線は変わっていた。
さっきまでの。
無機質な観察じゃない。
初めて。
その瞳に色が宿る。
「流動型魔法……」
小さく呟く。
その目。
研究対象を見る目だった。
「ミカ!」
「分かってるネ!」
ミカが飛び出す。
回転。
加速。
「スパイラルッ!!」
高速回転した爪。
黒土へ突き刺さる。
——ギギギギギッ!!
嫌な音。
黒土が削れる。
だが。
「止まるネ……!?」
回転が鈍る。
黒土が。
ミカの腕ごと固めようとしていた。
「ミカ!」
ヒロが駆ける。
その瞬間。
メフィストの杖がわずかに動いた。
直後。
地面が変形する。
黒土。
巨大な棺みたいに。
ヒロ達を囲み始めた。
「閉じ込める気か……!」
ヒロが歯を食いしばる。
だが。
メフィストは静かだった。
「逃がしません」
「貴方達は」
「少々、観察価値が高い」




