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第88話 侵食


 魔族の村へ戻る頃には。


 


 


 空はすっかり暗くなっていた。


 


 


 


 だが。


 


 


 


「……静かすぎる」


 


 


 


 ヒロが眉をひそめる。


 


 


 


 いつも聞こえるはずの声。


 


 


 


 笑い声。


 


 


 


 食事の匂い。


 


 


 


 それが妙に少なかった。


 


 


 


「何かあったッスかね……」


 


 


 


 マキが周囲を見る。


 


 


 


 その時。


 


 


 


「ヒロ!」


 


 


 


 ニノが走ってきた。


 


 


 


 顔色が悪い。


 


 


 


「ラナが探してた!」


 


 


 


「何があった」


 


 


 


「人がいなくなった!」


 


 


 


 一瞬。


 


 


 


 空気が止まる。


 


 


 


「……何?」


 


 


 


 ユナが目を細めた。


 


 


 


「三人!」


 


 


 


「昼から戻ってない!」


 


 


 


 ニノの声が震えていた。


 


 


 


「森へ行ったのか?」


 


 


 


「違う!」


 


 


 


「村の中にいたんだ!」


 


 


 


 嫌な沈黙。


 


 


 


 ヒロの脳裏に。


 


 


 


 黒箱。


 


 


 


 脈打つ肉。


 


 


 


 ブエルの言葉。


 


 


 


 全部が繋がる。


 


 


 


「……チッ」


 


 


 


 ヒロが奥歯を噛む。


 


 


 


「ラナは?」


 


 


 


「広場!」


 


 


 


 ヒロ達は走った。


 


 


 


 


 広場。


 


 


 


 


 そこには。


 


 


 


 


 不安げな村人達が集まっていた。


 


 


 


 


「ヒロ!」


 


 


 


 


 ラナが振り向く。


 


 


 


 


 いつもの余裕がない。


 


 


 


 


「消えたのは?」


 


 


 


 


「三人だよ」


 


 


 


 


「家の中から」


 


 


 


 


「争った跡もない」


 


 


 


 


 ラナの顔が険しい。


 


 


 


 


「こんなの初めてだ」


 


 


 


 


「……見た奴がいる」


 


 


 


 


 一瞬。


 


 


 


 


 ラナが黙る。


 


 


 


 


「黒鎧だって」


 


 


 


 


 空気が重くなる。


 


 


 


 


「でもありえない」


 


 


 


 


「城側の連中が村に手ぇ出すなんて……」


 


 


 


 


 その時だった。


 


 


 


 


 ——ゴォン。


 


 


 


 


 鐘。


 


 


 


 


 低い音。


 


 


 


 


 村人達が震える。


 


 


 


 


 直後。


 


 


 


 


 地面がわずかに揺れた。


 


 


 


 


「っ?」


 


 


 


 


 ヒロが目を細める。


 


 


 


 


 地面。


 


 


 


 


 黒い。


 


 


 


 


 土。


 


 


 


 


 広場の端。


 


 


 


 


 いつの間にか。


 


 


 


 


 黒い染みみたいに広がっていた。


 


 


 


 


「何スかこれ……」


 


 


 


 


 マキが後退(あとずさ)る。


 


 


 


 


 すると。


 


 


 


 


 黒土がゆっくり脈打った。


 


 


 


 


「……嫌」


 


 


 


 


 エバがヒロの服を掴む。


 


 


 


 


「これ、森と同じ」


 


 


 


 


 次の瞬間。


 


 


 


 


 黒土が盛り上がる。


 


 


 


 


 ——ゴゴゴ……。


 


 


 


 


 地面が変形した。


 


 


 


 


「下がれ!」


 


 


 


 


 ヒロが叫ぶ。


 


 


 


 


 だが。


 


 


 


 


 遅い。


 


 


 


 


 黒土が壁みたいに立ち上がった。


 


 


 


 


 村の中央を(ふさ)ぐ。


 


 


 


 


「なっ……!?」


 


 


 


 


 ミカが目を見開く。


 


 


 


 


 そして。


 


 


 


 


 黒い壁の向こう側。


 


 


 


 


 ゆっくり。


 


 


 


 


 一人の魔族が歩いてきた。


 


 


挿絵(By みてみん)


 


 


 羽飾りの帽子。


 


 


 


 


 貴族めいた服装。


 


 


 


 


 青白い顔。


 


 


 


 


 感情の薄い目。


 


 


 


 


「……なるほど」


 


 


 


 


 静かな声だった。


 


 


 


 


 まるで。


 


 


 


 


 実験結果を確認するみたいに。


 


 


 


 


 その視線が。


 


 


 


 


 ヒロ達へ向く。


 


 


 


 


「少々、予測外でした」


 


 


 


 


「村側の損耗が早い」


 


 


 


 


 村人達の顔色が変わる。


 


 


 


 


「……損耗?」


 


 


 


 


 ラナが呟く。


 


 


 


 


 だが。


 


 


 


 


 メフィストは気にした様子もない。


 


 


 


 


「効率が落ちる」


 


 


 


 


「改善が必要ですね」


 


 


 


 


 その言葉に。


 


 


 


 


 ミカが顔をしかめた。


 


 


 


 


「アンタ」


 


 


 


 


「気持ち悪いネ」


 


 


 


 


 一瞬。


 


 


 


 


 メフィストの目がミカを見る。


 


 


 


 


 初めて。


 


 


 


 


 少しだけ。


 


 


 


 


 感情が揺れた。


 


 


 


 


「……興味深い」

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