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第87話 分岐


 霧の森。


 


 


 空気はまだ重かった。


 


 


 


 遠く。


 


 


 


 黒い魔物の気配。


 


 


 


 完全には消えていない。


 


 


 


「……どうする」


 


 


 


 ユナが静かに聞く。


 


 


 


 ヒロは少し黙った。


 


 


 


 レインの言葉。


 


 


 


 戻るな。


 


 


 


 間に合わなくなる。


 


 


 


 頭から離れない。


 


 


 


 だが。


 


 


 


「戻る」


 


 


 


 ヒロは答えた。


 


 


 


「ラナ達を放っておけねぇ」


 


 


 


「……」


 


 


 


 レインが目を伏せる。


 


 


 


「今行っても止められない」


 


 


 


「だからって逃げるのか?」


 


 


 


 ヒロが(にら)む。


 


 


 


 レインは少し黙った。


 


 


 


 そして。


 


 


 


「ブエルより厄介なのがいる」


 


 


 


 初めてだった。


 


 


 


 レインが。


 


 


 


 明確に警戒を口にしたのは。


 


 


 


「厄介?」


 


 


 


 マキが聞き返す。


 


 


 


「……理解が早い」


 


 


 


 ぽつり。


 


 


 


 レインが呟く。


 


 


 


「……アレは面倒だ」


 


 


 


 その言葉だけ。


 


 


 


 妙に重かった。


 


 


 


「アンタ」


 


 


 


 ミカがレインを見る。


 


 


 


「怖がってるネ?」


 


 


 


 一瞬。


 


 


 


 レインの動きが止まる。


 


 


 


 初めてだった。


 


 


 


 図星を突かれたみたいに。


 


 


 


「……別に」


 


 


 


 だが。


 


 


 


 否定が少し遅かった。


 


 


 


「何でそこまで拘る」


 


 


 


 レインがヒロを見る。


 


 


 


「何でそこまで行く」


 


 


 


「助けるって決めたからだ」


 


 


 


 ヒロは迷わなかった。


 


 


 


「村の連中も」


 


 


 


「見て見ぬふりは無理だ」


 


 


 


 風が吹く。


 


 


 


 一瞬。


 


 


 


 レインが目を細めた。


 


 


 


 まるで。


 


 


 


 答えを探すみたいに。


 


 


 


「……変な奴」


 


 


 


「アンタほどじゃないネ」


 


 


 


 ミカが即答した。


 


 


 


 レインが小さく笑う。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 その笑みはどこか疲れていた。


 


 


 


「俺は俺で確かめる」


 


 


 


 レインが背を向ける。


 


 


 


「手遅れになる前に」


 


 


 


「おい!」


 


 


 


 ヒロが呼ぶ。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 レインは止まらない。


 


 


 


 霧の奥へ歩いていく。


 


 


 


 そして。


 


 


 


 ほんの少しだけ振り返った。


 


 


 


「……死ぬなよ」


 


 


 


 軽い声。


 


 


 


 なのに。


 


 


 


 今までで一番本音っぽかった。


 


 


 


 その時だった。


 


 


 


「っ……」


 


 


 


 レインが一瞬だけ顔をしかめる。


 


 


 


 頭を押さえる。


 


 


 


「……来たか」


 


 


 


 小さな呟き。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 次の瞬間には。


 


 


 


 いつもの笑みに戻っていた。


 


 


 


「じゃあな」


 


 


 


 霧の中へ消える。


 


 


 


 静寂。


 


 


 


「……結局、何者だったんスかね」


 


 


 


 マキがぽつりと呟く。


 


 


 


 ヒロは答えなかった。


 


 


 


 ただ。


 


 


 


 嫌な予感だけが残っていた。


 


 


 


「行くぞ」


 


 


 


 ヒロが前を見る。


 


 


 


 霧の向こう。


 


 


 


 魔族の村へ。


 


 


 


 そして。


 


 


 


 そのさらに奥。


 


 


 


 魔王城を見据えて。

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