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第92話 鐘の音


 霧の森を抜ける。


 


 


 だが。


 


 


 


 空気は軽くならなかった。


 


 


 


「……まだ気持ち悪いネ」


 


 


 


 ミカが眉をしかめる。


 


 


 


 ヒロも無言だった。


 


 


 


 頭から離れない。


 


 


 


 メフィスト。


 


 


 


 黒箱。


 


 


 


 消えた村人達。


 


 


 


 そして。


 


 


 


「……不完全なはずですが」


 


 


 


 あの言葉。


 


 


 


「何だったんスかね、アレ」


 


 


 


 マキがぼそりと呟く。


 


 


 


「さあな」


 


 


 


 ヒロが前を見る。


 


 


 


 霧の向こう。


 


 


 


 魔族の村。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 見えた瞬間。


 


 


 


「……静かすぎる」


 


 


 


 ユナが眉をひそめた。


 


 


 


 いつも聞こえていた声。


 


 


 


 笑い声。


 


 


 


 喧騒(けんそう)


 


 


 


 それがない。


 


 


 


「おい……」


 


 


 


 ヒロが足を速める。


 


 


 


 村へ入る。


 


 


 


 すると。


 


 


 


 広場の空気が凍っていた。


 


 


 


 村人達。


 


 


 


 全員。


 


 


 


 怯えた顔をしている。


 


 


 


「ラナ!」


 


 


 


 ヒロが叫ぶ。


 


 


 


 ラナが振り向いた。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 顔色が悪い。


 


 


 


「……お前ら」


 


 


 


「何があった!?」


 


 


 


 一瞬。


 


 


 


 ラナが言葉を詰まらせる。


 


 


 


 そして。


 


 


 


「……連れてかれた」


 


 


 


 低い声。


 


 


 


「何人も」


 


 


 


 空気が止まる。


 


 


 


「っ……!」


 


 


 


 ヒロが目を見開く。


 


 


 


「東側だ」


 


 


 


 ラナが(こぶし)を握る。


 


 


 


「黒鎧共が来た」


 


 


 


「止めようとしたけど……」


 


 


 


 悔しそうに歯を食いしばる。


 


 


 


 その時だった。


 


 


 


 ——ゴォン。


 


 


 


 低い鐘の音。


 


 


 


 村全体が揺れたみたいだった。


 


 


 


「またかよ……」


 


 


 


 誰かが呟く。


 


 


 


 空気がさらに重くなる。


 


 


 


 すると。


 


 


 


 村の入口側。


 


 


 


 数人の影が現れた。


 


 


 


「……あ?」


 


 


 


 マキが目を(またた)かせる。


 


 


 


 見覚えがあった。


 


 


 


「ワイルドカード……!」


 


 


 


 先頭の男が周囲を見回す。


 


 


 


 白銀の長髪。


 


 


 


 騎士みたいな鎧。


 


 


 


 だが。


 


 


 


 その目は鋭かった。


 


 


 


「……遅かったか」


 


 


 


 低い声。


 


 


 


 ジュリアスだった。


 


 


 


「東側を見た」


 


 


 


 ジュリアスが静かに言う。


 


 


 


「箱が増えている」


 


 


 


「チッ、間に合わねぇ」


 


 


 


 その瞬間だった。


 


 


 


 ——ドォンッ!!


 


 


 


 突然。


 


 


 


 村の外側で爆音が響いた。


 


 


 


「っ!?」


 


 


 


 全員が振り向く。


 


 


 


 次の瞬間。


 


 


 


 黒い衝撃が空を裂いた。


 


 


 


 地面が揺れる。


 


 


 


 そして。


 


 


 


 ゆっくり。


 


 


 


 巨大な影が現れた。


 


 


 


 ライオンの頭。


 


 


 


 黒い巨体。


 


 


 


 鎖だらけの外套(がいとう)


 


 


 


 重い足音。


 


 


 


 それだけで空気が沈む。


 


 


 


「……見つけたぞォ」


 


 


 


 低い声。


 


 


 


 ブエルだった。


 


 


 


 その目が。


 


 


 


 真っ直ぐヒロを見る。


 


 


 


「お前かァ」


 


 


 


「メフィスト様が妙な報告してた人間ってのは」


 


 


 


 ヒロが目を細める。


 


 


 


 ブエルは鼻を鳴らした。


 


 


 


「観察だけで済ませるとは甘い」


 


 


 


「効率が悪いんだよォ」


 


 


 


 杖が持ち上がる。


 


 


 


「最初から潰しゃ済む話だろォ」


 


 


 


 次の瞬間。


 


 


 


 ——ドゴォォォンッ!!


 


 


挿絵(By みてみん)


 


 地面が()ぜた。

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