第84話 箱の中
霧の森。
空気が重い。
ブエルの視線がこちらへ向いていた。
「……妙に空虚だ」
低い声。
レインの笑みがわずかに固まる。
だが。
「気のせいじゃない?」
レインは肩をすくめた。
軽い調子。
いつも通り。
けれど。
ヒロには分かった。
今。
こいつは無理に笑っている。
「……」
ブエルは数秒レインを見ていた。
やがて。
「まあいい」
興味を失ったように視線を外す。
「搬送を続けろ」
「はっ!」
黒鎧達が動き出す。
巨大な黒箱。
鎖の音。
重い音を立てながら運ばれていく。
「……何入ってるんだ」
ヒロが小さく呟く。
その時だった。
——ゴトン。
一つの箱が揺れた。
「っ」
マキが肩を震わせる。
今。
中から動いた。
「生きてる……?」
ヒロが目を細める。
すると。
箱の隙間。
そこから。
黒い何かが覗いた。
肉。
いや。
繭みたいだった。
脈打っている。
ゆっくり。
生き物みたいに。
「……嫌」
エバがヒロの服を強く掴む。
「中、苦しい」
「エバ?」
ユナが振り向く。
だが。
エバは箱から目を離さなかった。
「いっぱい」
「出たがってる」
一瞬。
レインの表情が変わる。
初めてだった。
完全に余裕が消えたのは。
「……何で残ってる」
小さく呟く。
「おい」
ヒロが見る。
「アンタ何知ってる」
だが。
レインは答えなかった。
ただ。
箱を見ている。
信じられないものを見るみたいに。
その時だった。
「メフィスト様の理論は完璧だ」
ブエルが箱を見上げる。
「ようやく形になってきた」
黒鎧達が頷く。
「安定しています」
「損耗も減っています」
「当然だ」
ブエルが鼻を鳴らす。
「力任せの連中とは違う」
「効率こそ完成に繋がる」
その言葉に。
レインが目を細めた。
「……効率」
ぽつり。
何かを確認するみたいに。
その瞬間だった。
エバが一歩前へ出る。
「……あ」
小さな声。
ヒロが振り向く。
「どうした?」
「……見てる」
エバの視線。
その先。
ブエルだった。
ブエルの瞳が。
こちらを向いていた。
「見つけたぞ」
低い声。
直後。
——ドォンッ!!
地面が砕けた。
「今はマズい、逃げろ!!」
珍しく。
レインが叫んだ。




