第78話 異物
夕方。
村は少し騒がしかった。
鍋の匂い。
笑い声。
子供達が走り回っている。
「本当に普通だな……」
ヒロが呟く。
「だから村だって言ったネ」
ミカが肉を頬張りながら言う。
「いや、そうだけど……」
未だに違和感が抜けない。
その時。
「おっ」
誰かが声を上げた。
入口側。
一人の魔族が歩いてくる。
黒い外套。
細身。
顔色は妙に白い。
「珍しいな」
ラナが呟く。
「旅人か?」
「最近流れてきた奴らしいッスよ」
マキが小声で言う。
「さっき村の外で見かけたッス」
魔族は周囲を見回していた。
ゆっくり。
観察するみたいに。
「……」
ヒロはなんとなく目で追う。
理由は分からない。
だが。
何か妙だった。
歩き方。
視線。
空気。
妙に馴染んでいない。
「……変」
ぽつり。
エバだった。
「ん?」
ヒロが魔族を見る。
ちょうどその時。
その魔族と目が合った。
一瞬。
相手が固まる。
まるで。
何かを見つけたみたいに。
そして。
ニヤリと笑った。
「へぇ」
軽い声。
「アンタら、人間か」
「……そうだけど」
ヒロが答える。
魔族はじっとヒロを見る。
品定めするように。
「珍しいなぁ」
「こんな奥まで来るなんて」
その喋り方も。
妙だった。
軽い。
この世界に馴染みきっていない感じ。
「お前は?」
ヒロが聞く。
「あー、俺?」
魔族は肩をすくめた。
「ただの旅人」
「色んな場所見て回ってんだ」
そう言いながら。
視線はずっと周囲を見ていた。
建物。
村人。
子供。
まるで。
全部確認しているみたいに。
「……なんか変な感じするッス」
マキが小さく呟く。
「そうか?」
ヒロが聞き返す。
「いや……」
「上手く言えないんスけど」
マキが眉をひそめる。
その時。
旅人がテーブルの料理を見る。
「へぇ」
「ちゃんとしてるな」
だが。
旅人は何事もなかったように笑った。
「アンタ」
「どこから来た?」
「さてね」
旅人が笑う。
その瞬間だった。
エバが一歩前へ出る。
じっと旅人を見る。
「……お前」
旅人の笑みがわずかに止まる。
「何?」
「……ちゃんと、いない」
一瞬。
空気が止まった。
旅人の目が細くなる。
「へぇ……」
初めて。
その軽さが消えた。
ヒロには分からない。
だが。
エバには何かが見えていた。
旅人の輪郭が。
一瞬だけ。
揺らいだ。




