第70話 風を裂く
拠点。
転送装置の前。
「……行くぞ」
ヒロが言う。
その時。
エバが、すっと隣に来る。
「……ついてく」
「危ないぞ」
「知ってる」
「いや、だから——」
ヒロが途中で止まる。
「……言っても聞かねえか」
「肯定」
「即答かよ……」
小さくため息。
「ユナ」
「うん」
「エバ頼む」
「離さない」
ユナが頷く。
エバの手を軽く握る。
「……問題ない」
エバが小さく言う。
「それ、お前最近お気に入りだろ」
「……?」
本気で分かってなさそうだった。
「行くッス!」
マキが装置を起動する。
光。
浮遊感。
次の瞬間——
霧の森。
以前より、さらに奥。
「……静かネ」
ミカが呟く。
死体がある。
魔物。
冒険者。
切断面が綺麗すぎる。
「……来る」
ユナが言う。
その瞬間。
——ヒュン
「っ!」
ヒロが動く。
避ける。
後方の木々が切断される。
「見えたッスか!?」
「……いや」
ヒロが眉をひそめる。
「来る感じがした」
霧の奥。
影。
ローブ。
空気が歪む。
フォカロール。
「また会ったネ」
ミカが前へ出る。
風が集まる。
来る。
ヒロが反応する。
無意識。
手が動く。
払う。
——ヒュッ
小さな風。
次の瞬間。
風と風がぶつかる。
——バシュッ!!
相殺。
「……は?」
マキが固まる。
「今の……」
ヒロ自身も止まる。
「俺……?」
フォカロールの動きも止まる。
「……何故」
低い声。
「何故、同質の風を……」
一瞬の隙。
「今ネ!」
ミカが踏み込む。
回転。
加速。
空気が唸る。
「スパイラルドライブ!」
一直線。
フォカロールへ。
風刃が走る。
だが。
ミカは止まらない。
回転が、切断を逸らす。
「っ——!」
身体を裂かれながらも。
突破。
直撃。
螺旋の爪が、フォカロールの脇腹を深く抉る。
「ガァッ……!?」
初めて。
フォカロールが苦痛の声を上げた。
そのまま後退。
距離を取る。
空気が乱れる。
「……貴様」
フォカロールがヒロを見る。
「何者だ」
「いや、俺も知りたい」
ヒロが即答する。
「……ヒロさん、そこ即答なんスね」
マキが若干引く。
だが。
フォカロールの目。
明らかに変わっていた。
最初のような。
一方的な余裕ではない。
警戒。
敵として。
認識した目だった。
「……一旦引くネ」
ミカが息を吐く。
腕から血が流れている。
「大丈夫か!」
ヒロが駆け寄る。
「問題ないヨ」
ミカが笑う。
「ちょっと裂けただけネ」
「それ問題あるだろ……」
ヒロが呆れる。
だが。
全員、分かっていた。
前より——確実に戦えている。
ほんの少し。
届き始めていた。




