第69話 流れ
訓練場。
ヒュン。
風刃。
ヒロが身をひねる。
ギリギリで避ける。
「おお……」
マキが感心した声を漏らす。
「さっきより反応良くなってるッス」
「……なんとなくな」
ヒロが自分の手を見る。
「来る前に」
「空気が動く感じがする」
「それを見えるって言うネ」
ミカが笑う。
「でもまだ遅いヨ」
「分かってる」
ヒロも苦笑する。
フォカロールの風。
あれは、もっと速い。
今のままでは届かない。
「じゃあ次」
ドロスが軽く指を振る。
風が生まれる。
その瞬間。
ヒロの身体が、勝手に動いた。
手を払う。
——ヒュッ
小さな風。
空気が揺れる。
「……え?」
マキが固まる。
「今……」
「風……?」
「……は?」
ヒロ自身も止まる。
自分の手を見る。
今のは。
なんだった。
「……似てるネ」
ミカが目を細める。
「ドロスの風と」
「いや、俺そんなのできねえぞ?」
「でも出たッスよ!?」
マキがツッコむ。
「偶然じゃない?」
ヒロが困ったように言う。
「偶然で風出ないヨ」
ミカが即答する。
「……」
ユナが黙ってヒロを見る。
違和感。
まただ。
魔法名。
風の流れ。
そして今。
少しずつ。
ヒロが、この世界の何かに適応している。
「……問題ない」
ぽつり。
エバだった。
「ヒロなら不思議じゃない」
「不思議じゃないってなんだよ……」
ヒロがツッコむ。
だが。
エバだけは。
妙に納得した顔をしていた。
「まあいいヨ」
ミカが爪を構える。
「ヒロもミーも」
「強くなればいいネ」
「単純だな」
「単純が一番ヨ」
そう言って。
ミカが踏み込む。
回転。
加速。
「スパイラルドライブ!」
一直線。
木人形へ。
貫通。
さらに背後の岩まで抉る。
「おおっ……!」
マキが声を上げる。
「前より威力上がってるネ」
ミカが軽く着地する。
だが。
「……まだ足りない」
小さく呟く。
モラクス。
フォカロール。
あの領域には届かない。
「もっと回転を上げるネ」
「危なくないか?」
「危ないヨ?」
ミカが普通に返す。
「でも強くなるネ」
「お前、そのうち飛びそうだな」
「それちょっと面白そうネ」
そんなやり取り。
だが。
全員の頭にあるのは同じだった。
次。
フォカロールと戦う時。
今より強くなっていなければ——
死ぬ。




