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第7話 覚えのない一撃


 森の奥は、これまでより少しだけ空気が重かった。


 


(……なんか、静かだな)


 


 さっきから、妙に音が少ない。


 


「この辺り、ちょっと強めのが出るらしいから」


 


 ユナが周囲を見ながら言う。


 


「へぇ」


 


 ヒロは軽く頷いた。


 


「まあ、なんとかなるだろ」


 


「無理はしないでね」


 


「分かってるって」


 


 軽く笑う。


 


 


 しばらく進むと、草むらが大きく揺れた。


 


 今までとは違う。


 


 重い。


 


「……来るな」


 


 ヒロは自然と前に出た。


 


 ユナを庇う位置。


 


 ——咄嗟に、体が動いていた。


 


 


 飛び出してきたのは、大型の獣型魔物だった。


 


 明らかに、今までとは格が違う。


 


 


 その目が——


 


 一瞬だけ、ヒロを捉える。


 


 


(……今、こっち見たか?)


 


 


「……でかいな」


 


「ヒロ、下がって」


 


「無理だろ」


 


 ヒロは短く返す。


 


「来るぞ」


 


 


 突進。


 


 速い。


 


 ヒロは横に飛ぶ。


 


 だが——


 


 追いつかれる。


 


 


「っ!」


 


 爪が振り抜かれる。


 


 直撃。


 


 体が吹き飛ぶ。


 


 


 地面に叩きつけられる。


 


 息が詰まる。


 


 視界が揺れる。


 


 


(……やばいな)


 


 


 魔物が向きを変える。


 


 再びこちらへ。


 


 


 立ち上がる。


 


 足がふらつく。


 


 それでも、前に出る。


 


 


「ヒロ!!」


 


 


 ユナの声。


 


 


 ヒロは武器を握り直す。


 


 


 来る。


 


 


 避けられない距離。


 


 


(……間に合うか)


 


 


 踏み込む。


 


 


 自分から、魔物の懐へ。


 


 


 剣を突き出す。


 


 


 確かな手応え。


 


 刃が、胴体に深く突き刺さる。


 


 


 同時に——


 


 爪が振り下ろされる。


 


 


 ——衝撃。


 


 


 視界が、白く弾けた。


 


 


 


 ——静寂。


 


 


 


「……っ、は」


 


 


 ヒロは息を吸い込んだ。


 


 


 体を起こす。


 


 地面の感触。


 


 


「……あれ?」


 


 


 ゆっくりと顔を上げる。


 


 


 魔物が、倒れていた。


 


 


 自分の剣は、その胴体に深く突き刺さったまま。


 


 


 だが——


 


 


 頭部が、完全に吹き飛んでいた。


 


 


 まるで、一撃で叩き潰されたように。


 


 


「……倒した?」


 


 


 違和感。


 


 


 自分の一撃は、確かに通った。


 


 けれど——


 


 


(……こんな倒れ方、するか?)


 


 


 頭部の一撃は覚えがない。


 


 


「……ユナ?」


 


 


 振り返る。


 


 


 ユナは、立ったまま動いていなかった。


 


 


 目は開いている。


 


 けれど、焦点が合っていない。


 


 


「……おーい、ユナさん?」


 


 


 軽く手を振る。


 


 


 反応なし。


 


 


「いや、またこれか……?」


 


 


 苦笑する。


 


 


 ゆっくり近づき、顔を覗き込む。


 


 


「おーい、戻ってこーい」


 


 


 肩を軽く揺らす。


 


 


「……」


 


 


 数秒。


 


 


「——ヒロ!」


 


 


 突然、声が戻る。


 


 


「おわっ!?」


 


 


 思わず一歩引く。


 


 


「びっくりした……急にどうした」


 


 


「ヒロ……!」


 


 


 ユナが強く腕を掴む。


 


 


 その手は、わずかに震えていた。


 

挿絵(By みてみん)

 


「……生きてる」


 


 


「いやまあ、生きてるけど」


 


 


 ヒロは苦笑する。


 


 


「なんか、ギリだったな」


 


 


 胸を押さえる。


 


 痛みはある。


 


 けれど、致命的ではない。


 


 


「……」


 


 


 ユナは何も言わなかった。


 


 


 ただ。


 


 


 ヒロの体を、何度も確かめるように見ていた。

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