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第6話 違和感

ギルドの中は、今日も賑わっていた。


 


 依頼の報告を終え、ヒロは軽く肩を回す。


 


「思ったより楽だったな」


 


「うん、いい感じだと思う」


 


 ユナも小さく頷いた。


 


 その表情は、どこか少しだけ安心しているように見える。


 


 


(……やっぱり、余裕あるな)


 


 


 前より、明らかに動きやすい。


 


 


(慣れた、だけか?)


 


 


「なあ」


 


「ん?」


 


「こういうのって、どれくらいやれば強くなるんだ?」


 


 ヒロが何気なく聞く。


 


 ユナは一瞬だけ考えてから答えた。


 


「経験を積めば、ちゃんと強くなるよ」


 


「へぇ」


 


「レベルも上がるし」


 


「レベルね」


 


 ヒロは軽く笑う。


 


 


(ゲームっぽいな)


 


 


「ちゃんとそういうのあるんだな」


 


「うん」


 


 ユナは頷いた。


 


「見てみる?」


 


「見れるのか?」


 


「うん、自分の状態くらいなら」


 


 


 そう言って、ユナは少し視線を落とす。


 


 まるで、何かを確認するように。


 

挿絵(By みてみん)


 


「……うん」


 


 


 小さく呟く。


 


 


「やっぱり、少し上がってる」


 


 


「マジで?」


 


 


 ヒロは少し興味を持った。


 


 


「じゃあ俺も——」


 


 


 同じように視線を落とす。


 


 


 けれど。


 


 


「……あれ?」


 


 


 何も見えない。


 


 


「どうしたの?」


 


 


「いや、何も出ないんだけど」


 


 


「え?」


 


 


 ユナが顔を上げる。


 


 


「出ないって……」


 


 


「そのまんま。何も」


 


 


 ヒロは軽く肩をすくめた。


 


 


(やり方違うのか?)


 


 


「見方間違ってるとか?」


 


 


「ううん、そんなことは——」


 


 


 言いかけて、ユナが言葉を止めた。


 


 


「……」


 


 


 一瞬だけ、沈黙。


 


 


 その視線が、ヒロに向けられる。


 


 


 いつもより、少しだけ真剣だった。


 


 


(……なんだ?)


 


 


「ユナ?」


 


 


「……ううん」


 


 


 すぐに、いつもの表情に戻る。


 


 


 ほんの一瞬だけ、視線が逸れた。


 


 


「たぶん、慣れてないだけだと思う」


 


 


「そんなもんか?」


 


 


「うん。最初は見えない人もいるって聞いたことあるし」


 


 


「へぇ」


 


 


 ヒロはあっさり納得した。


 


 


(まあ、困ってるわけでもないしな)


 


 


「まあ、別に見えなくても困らんしな」


 


 


「……そうだね」


 


 


 ユナは小さく頷く。


 


 


 けれど、その声はどこか少しだけ硬かった。


 


 


 


 ギルドを出る。


 


 


 外は、いつも通りの賑わい。


 


 


 人の声が行き交う。


 


 


「……やっぱ重いなこれ」


 


 


 装備一式。


 


 


 昨日揃えたばかりのそれは、まだ動きにくい。


 


 


(まあ、安全って意味ではいいのかもしれないけど)


 


 


「慣れれば大丈夫」


 


 


 隣でユナが即答する。


 


 


「それ昨日も聞いたぞ」


 


 


「じゃあ今日も言う」


 


 


「無限ループかよ」


 


 


 思わず笑う。


 


 


 


 今日は討伐ではなく、街中での簡単な依頼だった。


 


 


 荷物の運搬や、ちょっとした雑用。


 


 


 戦闘がない分、気は楽だ。


 


 


 


 依頼を一つ終え、次の場所へ向かう途中。


 


 


 ヒロはふと立ち止まった。


 


 


「ん?」


 


 


「どうしたの?」


 


 


「いや……」


 


 


 少し考えて、首をかしげる。


 


 


(……なんだ今の)


 


 


「……今、なんか通ったか?」


 


 


「え?」


 


 


 ユナも周囲を見る。


 


 


 けれど、それらしいものは何もない。


 


 


「気のせいじゃない?」


 


 


「……かもな」


 


 


(まあ、いいか)


 


 


 ヒロは軽く流して、そのまま歩き出した。


 


 


 


 少し先で、子どもが転びそうになっていた。


 


 


「おっと」


 


 


 ヒロは反射的に手を伸ばす。


 


 


 体が、すっと前に出た。


 


 


 気づいたときには、子どもを支えていた。


 


 


「大丈夫か?」


 


 


「う、うん……ありがとう」


 


 


 子どもはぺこりと頭を下げて走っていく。


 


 


「おお、いい動きだったな」


 


 


 ヒロは軽く手を振る。


 


 


 


 ユナは何も言わなかった。


 


 


 ただ。


 


 


 ヒロを、じっと見ていた。


 


 


 


 少し歩いたあと。


 


 


 ベンチに腰を下ろす。


 


 


 軽く手を開いたり閉じたりする。


 


 


(……やっぱり、ちょっと変だな)


 


 


 


「ヒロ」


 


 


「ん?」


 


 


「無理、してないよね?」


 


 


 ユナの声が、少しだけ静かだった。


 


 


「してないって」


 


 


 ヒロは笑う。


 


 


「こんなんで無理してたら、この先やってけないだろ」


 


 


「……そうだね」


 


 


 ユナは小さく頷く。


 


 


 


 けれど。


 


 


 その手は、無意識のようにヒロの袖を掴んでいた。


 


 


「……ユナ?」


 


 


「ん? なに?」


 


 


「いや、なんでもない」


 


 


(……離さないな)


 


 


 ヒロは軽く首を振る。


 


 


 


 街の喧騒が戻ってくる。


 


 


 人の声。


 


 


 足音。


 


 


 日常の音。


 


 


 


「……まあ」


 


 


 ヒロは空を見上げた。


 


 


「こういうのも悪くないな」


 


 


「うん」


 


 


 ユナも同じように空を見上げる。


 


 


 


 その距離は、ほんの少しだけ近かった。


 


 


 


 ——そして。


 


 


 


 ユナは、何も言わなかった。


 


 


 ただ。


 


 


 ヒロの隣を、離れないように歩いていた。


 


 


 まるで、見失わないようにするみたいに。

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