表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/44

第5話 微かなズレ


 翌日。


 


 ヒロとユナは、再びギルドの前に立っていた。


 


「……で、本当に行くのか?」


 


 ヒロは軽く伸びをしながら言う。


 


「行くよ」


 


 ユナは迷いなく答えた。


 


「昨日のは……たまたまだと思うし」


 


「まあ、そうだな」


 


 ヒロもあっさり頷く。


 


 


(……思い出せないだけ、かもしれないけど)


 


 


 正直、あの出来事はうまく思い出せなかった。


 


 嫌な感じだけが、ぼんやり残っている。


 


 


(まあいいか)


 


 


 それ以上は考えないことにした。


 


 


「それに」


 


 ユナが続ける。


 


「ちゃんと準備もしたし」


 


 


 ちらりとヒロの装備を見る。


 


 


「……お、重い」


 


 


「慣れれば大丈夫」


 


 


「絶対慣れる前に死ぬやつだろこれ」


 


 


 思わずぼやく。


 


 


 結局、昨日の勢いでそこそこの装備を揃えられてしまった。


 


 動けないほどではないが、明らかにオーバー気味だ。


 


 


「安全第一」


 


 


 ユナは真顔だった。


 


 


「まあ、いいけど」


 


 


 ヒロは肩をすくめる。


 


 


 


 そのままギルドに入り、依頼を確認する。


 


 


「今日はこれにしよ」


 


 


 ユナが選んだのは、採取と簡単な討伐の混合依頼だった。


 


 


「昨日と似たようなもんだな」


 


 


「うん。無理しない範囲で」


 


 


「了解」


 


 


 軽くやり取りをして、二人は再び森へ向かった。


 


 


 


 森の中は、昨日と同じように静かだった。


 


 


 けれど——


 


 


「……」


 


 


 ヒロは、少しだけ足を止めた。


 


 


(……またか)


 


 


「どうしたの?」


 


 


「いや……なんでもない」


 


 


 首を振る。


 


 


 何か引っかかる気がした。


 


 


 けれど、それが何かは分からない。


 


 


「行こ」


 


 


 ユナが手を引く。


 


 


「ああ」


 


 


 歩き出す。


 


 


 


 しばらく進むと、目的の素材が見つかった。


 


 


「これか」


 


 


「うん、それ」


 


 


 しゃがんで採取する。


 


 


 特に問題はない。


 


 


 


 そのまま、近くにいた小型魔物も処理する。


 


 


「……やっぱ、余裕だな」


 


 


 ヒロは軽く息を吐いた。


 


 


 体の動きも、反応も悪くない。


 


 


 むしろ、昨日よりも感覚がいい気がした。


 


 


(……ちょっと良すぎる気もするけど)


 


 


「ヒロ」


 


 


「ん?」


 


 


「無理してない?」


 


 


「してないって」


 


 


 笑って答える。


 


 


 ユナはじっとヒロを見ていたが、やがて小さく頷いた。


 


 


「……そっか」


 


 


 その視線は、ヒロから離れなかった。


 


 


 


 そのとき。


 


 


 魔物が飛びかかってきた。


 


 


「っと」


 


 


 ヒロは自然に避ける。


 


 


 そのまま反撃に移ろうとして——


 


 


 足が、ほんの一瞬だけ滑るように前へ出た。


 


 


「……あれ?」


 


 


(今、動かしたか?)


 


 


 自分でもよく分からない動きだった。


 


 


 踏み込んだつもりはない。


 


 


 けれど、距離が一気に詰まっていた。


 


 


 結果的に、魔物の懐に入り込んでいる。


 


 


(まあ……いいか)


 


 


 深く考えず、そのまま武器を振るう。


 


 


 鈍い音とともに、魔物が倒れた。


 


 


 


(少しは強くなってる……のか?)


 


 


「ヒロ!」


 


 


 ユナの声で我に返る。


 


 


「あ、悪い」


 


 


 すぐに武器を振るい、魔物を倒す。


 


 


「……今の、どうしたの?」


 


 


「いや、なんか……」


 


 


 言葉に詰まる。


 


 


「変な感じがして」


 


 


「変な感じ?」


 


 


「うまく言えないけど……」


 


 


 少し考えて、首を振る。


 


 


「まあいいや。問題ない」


 


 


「……そう」


 


 


 ユナはそれ以上追及しなかった。


 


 


 


 依頼を終え、森を出る。


 


 


 帰り道。


 


 


 ヒロはふと空を見上げた。


 


 


「……なあ」


 


 


「ん?」


 


 


「昨日さ」


 


 


 口に出しかけて、やめる。


 


 


(……やめとくか)


 


 


「……いや、なんでもない」


 


 


「気になるじゃん」


 


 


「いや、たいしたことじゃない」


 


 


 ヒロは軽く笑った。


 


 


 自分でもよく分からないことを話しても仕方がない。


 


 


「変なの」


 


 


 ユナは小さく笑った。


 


 


 その表情は、少しだけ柔らかかった。


 


 


 


 街が見えてくる。


 


 


 いつも通りの風景。


 


 


 人の声。


 


 


 賑わい。


 


 


「……まあ」


 


 


 ヒロは軽く息を吐いた。


 


 


「なんとかなりそうだな」


 


 


「うん」


 


 


 ユナが頷く。


 


 


 その声は、少しだけ安心したようだった。


 


 


 ——けれど。


 


 


 ヒロは気づいていなかった。


 


 


 ほんのわずかに。


 


 


 自分の動きが、昨日とは違っていることに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ