表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/43

第4話 目覚め、再び


 ——息が、戻る。


 


 空気が肺に流れ込む感覚。


 


 心臓が、強く脈打つ。


 


「……っ、は……」


 


 ヒロは大きく息を吸い込んだ。


 


 視界が戻る。


 


 森の中。


 


 さっきと同じ場所。


 


「……え?」


 


 体を起こす。


 


 土の感触。


 


 血の匂い——は、ない。


 


 


(……いや)


 


 


(俺、さっき——)


 


 


 ゆっくりと自分の胸に手を当てる。


 


 服は破れている。


 


 けれど。


 


「……傷が、ない?」


 


 


 確かに、貫かれた。


 


 


 心臓を。


 


 


 間違いなく、致命傷。


 


 


(……死んだはずだろ)


 


 


 それなのに——


 


 


「……どうなってんだ、これ」


 


 


 理解が追いつかない。


 


 


 夢にしては、妙に現実的すぎる。


 


 


 確かに、あれは夢じゃない。


 


 


 ——そう思うのに、実感だけが薄かった。


 


 


(……思い出せるのに、実感がない)


 


 


 妙な感覚だった。


 


 


 けれど。


 


 


 生きている。


 


 


 それだけは、はっきりしていた。


 


 


「……ユナ?」


 


 


 顔を上げる。


 


 


 少し離れた場所に、ユナがいた。


 


 


 立ったまま。


 


 


 動かない。


 


 


「……おい」


 


 


 声をかける。


 


 


 反応がない。


 


 


 ゆっくりと立ち上がり、近づく。


 


 


「ユナ?」


 


 


 目の前で手を振る。


 


 


 反応なし。


 


 


「……え?」


 


 


 不安になる。


 


 


 顔を覗き込む。


 


 


 目は開いている。


 


 


 けれど、焦点が合っていない。


 


 


 まるで、時間だけが止まっているみたいに。


 


 


(……これも、おかしくないか?)


 


 


「おーい」


 


 


 軽く肩を揺らす。




挿絵(By みてみん)


 


 


「戻ってこーい」


 


 


 反応はない。


 


 


「……寝てんのか?」


 


 


 そんなはずはない。


 


 


 立ったままだ。


 


 


「いや、器用すぎるだろ……」


 


 


 思わず苦笑する。


 


 


 けれど、どこか引っかかる。


 


 


 さっきまで、確かに——


 


 


「……」


 


 


 思い出そうとして、止まる。


 


 


(……思い出しきれないな)


 


 


 欠けている。


 


 


 何かが、抜け落ちている感覚。


 


 


(まあ……今はいいか)


 


 


 無理に考えても、整理できそうにない。


 


 


「まあ、とりあえず」


 


 


 ヒロは軽く息を吐いた。


 


 


「無事っぽいし、いいか」


 


 


 自分でも雑だとは思う。


 


 


 けれど、今はそれでよかった。


 


 


 そのとき。


 


 


「——ヒロ!」


 


 


 ユナの声が、突然戻った。


 


 


「……うお!?」


 


 


 ヒロは思わず一歩引く。


 


 


「びっくりした……急にどうした」


 


 


「ヒロ……!」


 


 


 ユナが、強くヒロの腕を掴む。


 


 


 その手は、わずかに震えていた。


 


 


「……生きてる」


 


 


「いや、まあ……うん?」


 


 


 ヒロは首をかしげる。


 


 


「さっきから普通にいるけど」


 


 


「……よかった」


 


 


 ユナは、小さく呟いた。


 


 


 そのまま、少しだけ俯く。


 


 


 安堵しているようにも見えた。


 


 


(……やっぱ変だな)


 


 


「……なんかあったか?」


 


 


「ううん、何でもない」


 


 


 すぐに顔を上げる。


 


 


 いつもの笑顔。


 


 


 けれど、どこかぎこちない。


 


 


「それより、戻ろうか」


 


 


「おう」


 


 


 森を後にする。


 


 


 さっきのことは、うまく思い出せなかった。


 


 


 けれど。


 


 


(……まあいいか)


 


 


 ——生きているのだから。


 


 


 


 街に戻ると、ユナが立ち止まった。


 


 


「ヒロ」


 


 


「ん?」


 


 


「装備、ちゃんと整えよう」


 


 


「お、いいね」


 


 


 ヒロは軽く頷く。


 


 


「さすがにあのままは不安だしな」


 


 


「うん」


 


 


 ユナは真剣な表情で頷いた。


 


 


 そして。


 


 


「とりあえず、これと——これと、これも必要かな」


 


 


「……いや多くない?」


 


 


 並べられていく装備。


 


 


 剣、盾、鎧、補助装備。


 


 


 どんどん増えていく。


 


 


「いや、重装備すぎないか?」


 


 


「安全第一だから」


 


 


 真顔だった。


 


 


「いやいや、動けなくなるって」


 


 


「大丈夫、慣れれば」


 


 


「慣れる前に死ぬだろ」


 


 


 思わずツッコミが出る。


 


 


 ユナは少しだけ考えてから、さらに追加した。


 


 


「じゃあこれも」


 


 


「増えてる増えてる」


 


 


「安心のため」


 


 


「安心って、もの買うってレベルじゃねえよ」


 


 


 ヒロは苦笑する。


 


 


 けれど。


 


 


 ユナの様子が、少しだけおかしかった。


 


 


 いつもより、距離が近い。


 


 


 視線が外れない。


 


 


 まるで——


 


 


 離さないようにしているみたいだった。


 


 


(……そんなにヤバかったのか?さっきの)


 


 


「……ユナ?」


 


 


「なに?」


 


 


「いや、なんでもない」


 


 


 ヒロは軽く首を振る。


 


 


 気のせいだと思った。


 


 


 きっと、そうだ。


 


 


「ちゃんと装備整えれば、もう大丈夫だから」


 


 


 ユナが小さく言う。


 


 


 その手は、さっきから一度も離れていなかった。


 


 


 その声は、どこか強く。


 


 


 そして、少しだけ必死だった。


 


 


「……おう」


 


 


 ヒロは軽く頷いた。


 


 


 理由は分からない。


 


 


 けれど——


 


 


(……今は、任せとくか)


 


 


 今は、それでいいと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ