第67話 見えない違和感
拠点。
戻ってきた空気は重かった。
「……助かった」
誰かが小さく呟く。
フォカロール。
あの見えない風。
今思い出しても、背筋が冷える。
「ヒロさん!」
マキが駆け寄る。
「傷、大丈夫ッスか!?」
「……ん?」
ヒロが振り返る。
背中。
さっきまで深く裂けていたはずの傷。
もう——ほとんど塞がっている。
「……あれ?」
ヒロが眉をひそめる。
「もう治ってる……?」
「……相変わらずネ」
ミカが呟く。
「普通じゃないヨ」
「いや、俺に言われても……」
ヒロが困った顔をする。
その少し後ろ。
エバが、じっとヒロを見ていた。
「……」
視線は、背中。
傷が塞がっていく様子を。
無言で観察している。
「……エバ?」
「……問題ない」
短く答える。
だが。
視線は逸らさない。
「それより」
ヒロが少し考える。
「あの……ウィンドカッターだっけか」
「厄介だな」
「……え?」
ユナが反応する。
「ヒロ、今……」
「ん?」
「いや……」
ユナが言葉を止める。
(なんで魔法名を……?)
ヒロは。
ステータスが見えない。
スキルも。
魔法名も知らないはず。
なのに。
自然に口にした。
「……まあいいか」
ヒロは肩をすくめた。
「とにかく、あれ対策しないと無理だな」
「うん」
ユナが小さく頷く。
「……でも」
マキがヒロを見る。
頭から離れない。
自分を庇って。
大の字で風を受けた姿。
(……かっこよかったッスね)
胸が少しだけ熱い。
「……?」
ヒロが気づく。
「どうした」
「な、なんでもないッス!」
慌てて逸らす。
少し離れた場所。
ミカも、黙ってヒロを見ていた。
『大事な仲間だからな』
脳裏に蘇る。
「……」
胸の奥が、少しだけ騒ぐ。
理由はまだ分からない。
けれど。
前とは違う。
「……ミカ?」
「なんでもないネ」
いつもの笑顔を作る。
だが。
少しだけぎこちなかった。
「お前たち」
低い声。
振り向く。
ジュリアス。
その後ろには、ワイルドカード。
「フォカロールと戦ったのか」
「……知ってるのか?」
ヒロが聞き返す。
「ああ」
ジュリアスが頷く。
「第5位階」
ジュリアスが答える。
「風を司る魔導型だ」
「以前、一度だけ」
「複数パーティで協力して、なんとか退けた」
「退けた、だけだ」
ダビデが低く続ける。
「倒せてはいない」
「……」
ヒロが黙る。
「しかも前より強いッス」
マキが真面目な顔で言う。
「多分、今のままじゃ——」
「勝てないネ」
ミカが続ける。
沈黙。
重い。
だが。
「……なら」
ヒロが口を開く。
「もっと強くなるしかねえな」
迷いなく言う。
「モラクスも」
「フォカロールも」
「ぶっ倒すために」
その目は——
まだ折れていなかった。




