第64話 レベル上げ
霧の森。
前よりも、少しだけ奥。
「この辺りならいいネ」
ミカが足を止める。
「テストってやつか」
ヒロが周囲を見る。
気配はある。
だが、あの時ほどじゃない。
「新しい武器の慣らしネ」
ミカが両手を上げる。
指に装着された爪。
光を反射する。
「……それで殴るのか」
「切るネ」
軽く訂正する。
「来るヨ」
ユナが言う。
霧の中から。
魔物。
狼型。
二体。
「ちょうどいいネ」
ミカが前に出る。
「今回は——」
一歩。
踏み込む。
「これ、試すネ」
体をひねる。
回転。
加速。
全身を錐のように回転させる。
「……おい」
ヒロが眉をひそめる。
(なんだあの動き……)
「いくネ」
ミカが踏み込む。
——回る。
高速回転。
腕の爪が、螺旋を描く。
空気が唸る。
「っ——!」
一体目。
正面から突っ込む。
直撃。
貫く。
だが——
「……浅いネ」
完全には抜けない。
勢いが、途中で落ちる。
二体目が飛びかかる。
「ミカ!」
ヒロが動く。
剣。
一閃。
叩き落とす。
「……サンキュネ」
ミカが体勢を立て直す。
「今の……」
ヒロが見る。
「回転、足りてないネ」
「もっと速く」
「もっと深く」
爪を見る。
「あと少しで——」
言葉が止まる。
「……でも」
ミカが小さく続ける。
「これでも——足りないネ」
「……ああ」
ヒロが短く答える。
「モラクスには届かない」
はっきりと言う。
誰も否定しない。
「今のままじゃ——勝てない」
空気が少しだけ重くなる。
「……だから」
ヒロが剣を握る。
「上げるしかねえな」
「全部」
「レベルも」
「技も」
「連携も」
「……うん」
ユナが頷く。
「やるしかない」
「その時は」
ミカが笑う。
「ヒロが助けるネ?」
「……当たり前だ」
一瞬。
ミカが止まる。
「……」
何かを言いかけて。
やめる。
「……じゃあもっと強くするネ」
再び構える。
その目は——
明確に、変わっていた。




