第62話 それぞれの距離
拠点。
装置の光が消える。
「……戻ったか」
ヒロが小さく息を吐く。
誰も、すぐには喋らない。
さっきまでの戦いが——重く残っている。
「……無事で何よりです」
受付嬢が声をかける。
「おや、またお会いできましたね」
その横で。
ナオが自然に一歩前へ出る。
「本日もお綺麗だ」
「……あ、ありがとうございます」
「危険な場所です、どうか無理はなさらず」
柔らかく微笑む。
慣れている。
どうやら初めてのことではないようだ。
「……またやってる」
マキが小さく呟く。
「ブレないな」
ヒロも軽く返す。
「ユキも綺麗なのに」
ぽろっと出た一言。
「……っ」
その瞬間。
——ゴッ
机の下。
ヒロの足に衝撃。
「いっ……!」
「……」
ユナが無言でそっぽを向いている。
「……?」
ヒロがもう片方を見る。
——ゴッ
「って、なんで二回目!?」
「……」
ミカが自分の足を見ている。
「……あれ?」
「なんでミーも……?」
少しだけ首をかしげる。
その横で——
エバが、ヒロの足を見る。
そして。
——ゴッ
「っ!?」
三発目。
「いや、なんで増えた!?」
「……真似」
エバが淡々と言う。
「なんの!?」
ヒロがツッコむ。
少し空気が緩む。
「……ヒロ」
ジュリアスの声。
振り返る。
ワイルドカード。
ダビデはまだ肩で息をしている。
「本来なら——」
「俺たちが守りきるべきだった」
低く言う。
「……すまない」
「やめろよ」
ヒロが軽く手を振る。
「他の連中逃がすために、無理してたんだろ」
「消耗してたのは見りゃ分かる」
「……」
ジュリアスがわずかに目を細める。
「……ありがとう」
短く言う。
「礼なら全員で生きてる時に言えよ」
「まだ終わってないんだから」
「……ああ」
小さく頷く。
その空気を切り替えるように。
「ねえ」
ユキの声。
ヒロを見る。
「ミカエルはともかく」
「君は——」
少し興味深そうに目を細める。
「レベルもステータスも、それほどでもないのに」
「どうして、あんな動きができるの?」
「……あんなって」
「自覚ないの?」
「いや」
ヒロが首をかく。
「なぁ、それってどうやるんだ?」
「……は?」
「俺、未だに自分のステータスも見れないんだけど」
「……」
ユキが一瞬、固まる。
「あぁ、それは——」
「やめて!」
ユナの声が割り込む。
一瞬、空気が張り詰める。
「……ユナ?」
「……場所、変えよう」
強引に言う。
ヒロの腕を引く。
そのまま、離れる。
少し離れた場所。
「……なんだよ」
ヒロが聞く。
「ヒロ」
「この世界に来る直前の記憶、ちゃんとある?」
「……いや」
ヒロが考える。
「なんか抜けてる」
「断片的っていうか」
「……やっぱり」
ユナが小さく呟く。
「それ、多分……関係ある」
「何がだよ」
「……記憶」
「全部戻ったら——」
一瞬、間を置く。
「元の世界に、還れるかもしれない」
「……は?」
ヒロが目を見開く。
「言ってなかったけど」
ユナが少しだけ笑う。
「私の一番の目的」
「ヒロと一緒に、元の世界に還ることだから」
「……」
ヒロは何も言わない。
ただ、少しだけ考える。
その少し後ろ。
ミカが、二人を見ていた。
何も言わない。
ただ——
ほんの少しだけ。
胸の奥が、ざわつく。
「……」
理由は、まだ分からない。
けれど。
胸の奥に残る何かが——
消えなかった。




