第59話 壁
拳が——来る。
ヒロは見ている。
軌道も。
速度も。
(いける)
身を捻る。
回避。
風圧だけが頬をかすめる。
「……いい」
モラクスが低く笑う。
「見えているな」
「まあな」
ヒロは間合いを測る。
踏み込む。
剣を振る。
狙いは首。
——当たる。
だが。
止まる。
刃が。
途中で。
「浅い」
モラクスの手。
素手で、剣を止めている。
「……っ」
ヒロが舌打ちする。
「その程度では届かん」
そのまま弾かれる。
ヒロの体が後ろへ流れる。
「ヒロ!」
ユナの声。
「問題ない!」
体勢を立て直す。
(当たってるのに通らない……!)
「次は——どうだ?」
モラクスが踏み込む。
速い。
拳。
ヒロが受け流す。
衝撃。
腕が軋む。
「……っ」
(重っ……!)
「ほう」
モラクスの口元が上がる。
「今のも流すか」
「いいな」
モラクスが笑う。
「ちゃんと戦いになっている」
一方。
ワイルドカード。
「ぐっ……!」
ダビデが膝をつく。
盾が地面にめり込む。
「ダビデ!」
シャルルが駆け寄る。
「回復を——!」
「足りねえ……!」
息が荒い。
「ジュリアス、押されてる!」
ドロスが叫ぶ。
前線。
ジュリアスが必死に食い止めている。
だが——劣勢。
「……くっ」
マキが歯を食いしばる。
動こうとする。
だが——圧が邪魔をする。
「間に合わない……!」
「——ユナ!」
ヒロが叫ぶ。
「フィールド!」
「っ……!」
ユナが手をかざす。
『フィールド!』
展開。
透明な壁が、ダビデたちを包む。
次の瞬間。
モラクスの拳。
——ぶつかる。
衝撃。
だが——止まる。
「ほう」
モラクスが目を細める。
「これは面白い」
フィールドを軽く叩く。
「完全防御か」
「だが——」
中を覗く。
「中からは攻撃できんのだろう?」
「……っ」
ユナが歯を食いしばる。
「その通りネ」
ミカが横で言う。
「守るだけの魔法ヨ」
「いいじゃないか」
モラクスが笑う。
「時間稼ぎにはなる」
ヒロを見る。
「その間に、どうする?」
「決まってるだろ」
ヒロが構える。
「ぶった斬る」
「ははっ!」
「そうか」
モラクスが笑う。
「なら見せてみろ」
一歩。
踏み出す。
空気がさらに沈む。
「来い」
「続きをやろう」
ヒロは踏み込む。
だが——
(……まだ足りねえ)
分かっている。
このままでは届かない。
それでも。
止まるわけにはいかない。
拳が来る。
ヒロが迎え撃つ。
戦いは——まだ終わらない。




