第53話 束の間の平和
領地の通り。
昼。
「……人、多いな」
ヒロが周囲を見渡す。
装備屋、露店、食べ物の匂い。
行き交う冒険者の声。
「賑やかネ」
ミカが軽く笑う。
「……うん」
ユナはヒロの袖を軽く掴んだまま。
その反対側。
エバがぴったりとくっついている。
「……お前ら、近くないか」
「普通」
「普通ネ」
「……普通か」
ヒロはため息をつく。
「で、何買うの?」
ユナが聞く。
「消耗品と食料だな」
「あと予備の装備も見とく」
「了解ネ」
歩き出す。
そのとき。
「……あ」
エバが立ち止まった。
「ん?」
視線の先。
屋台。
焼き菓子の甘い匂い。
「……」
エバがじっと見ている。
「気になるのか」
ヒロが言う。
小さく頷く。
「食べるか?」
「……いいの?」
「いいけど」
「危ないもんじゃなさそうだしな」
ヒロが一つ買う。
「ほら」
エバに渡す。
少しだけ戸惑ってから。
受け取る。
そっと、口に運ぶ。
「……」
数秒。
止まる。
「……どうだ?」
ヒロが聞く。
エバが顔を上げる。
そして——
「……おいしい」
小さく言った。
同時に。
ほんの少しだけ——
口元が緩む。
「……」
ヒロが一瞬だけ止まる。
(……今、笑ったか?)
「……よかったな」
それだけ言う。
「……ヒロ」
ユナの声。
「なに?」
「……私も」
「はいはい」
もう一つ買う。
ユナに渡す。
「……ありがと」
少しだけ機嫌が戻る。
「ミーも」
「自分で買え」
「冷たいネ」
ミカが笑う。
結局、買う。
歩きながら。
「……こういうの、久しぶりネ」
ミカがぽつりと言う。
「何がだよ」
「普通に歩くの」
「……ああ」
「ミー、生まれてからずっと一人だったからネ」
軽い調子で言う。
重くはない。
ただの事実みたいに。
「……そうか」
ヒロはそれ以上聞かない。
「今は違うネ」
ミカが笑う。
「……だな」
ヒロも軽く返す。
そのとき。
通りの角。
人とぶつかる。
「うわっ」
バランスが崩れる。
ミカがよろけて——
ヒロに倒れ込む。
「おっと」
受け止める。
近い。
やけに近い。
「……」
一瞬、静止。
「……セーフネ?」
ミカが笑う。
「アウト寄りだな」
「厳しいネ」
「……」
ユナが無言で見る。
「……離れて」
ヒロが言う。
「はいはい」
ミカが離れる。
「……ヒロ」
ユナが袖を引く。
「ん?」
「……気をつけて」
「何をだよ」
「いろいろ」
「雑だな」
少し歩く。
そのとき。
エバが、またヒロに寄る。
腕に絡むように。
「……今度はお前か」
「だめ?」
「ダメじゃないけど」
距離が近い。
柔らかい感触。
「……」
ヒロが少しだけ視線を逸らす。
「……ヒロ」
ユナの声。
低い。
「……何だよ」
「……それ、いる?」
「俺に聞くな」
「……そう」
ユナが少しだけ膨れる。
袖を掴む力が強くなる。
「増えてるネ」
ミカが楽しそうに言う。
「やめろ」
ヒロはため息をつく。
けれど——
(……賑やかだな)
少しだけ思う。
戦いの外。
こういう時間も——
悪くない。




