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第52話 異質


 霧の外。


 


 別の場所。


 


 


 高台。


 


 


 そこから——森が見える。


 


 


 


「……へぇ」


 


 


 女が小さく笑った。


 


 


 


「こんなに早く抜けるとはね」


 


 


 


 黒髪。


 


 


 長い髪が風に揺れる。


 


 


 


「想定より早い、ですか」


 


 


 隣の男が静かに言う。


 


 


 


「うん」


 


 


 


 軽く頷く。


 


 


 


「普通なら、あそこで止まる」


 


 


 


「もう少し時間かかるはずなんだけどね」


 


 


 


 


「ですが」


 


 


 


 男が続ける。


 


 


 


「報告では、特異な動きをした人物がいると」


 


 


 


 


「彼のこと?」


 


 


 


 


「はい」


 


 


 


 


「一瞬で距離を詰めた、と」


 


 


 


 


「……ああ、それね」


 


 


 


 女が少しだけ目を細める。


 


 


 


 


「見た?」


 


 


 


 


「いえ」


 


 


 


 


「ですが、記録はあります」


 


 


 


 


「……出して」


 


 


 


 


 男が手をかざす。


 


 


 


 


 空間に、淡く映像が浮かぶ。


 


 


 


 


 一瞬。


 


 


 


 


 ヒロの動き。


 


 


 


 


 そして——


 


 


 


 


 距離が消えるような挙動。


 


 


 


 


 


「……」


 


 


 


 


 女が無言で見る。


 


 


 


 


 


「……何これ」


 


 


 


 


 


 ぽつりと呟く。


 


 


 


 


 


「既存のスキルでは説明できません」


 


 


 


 


 


 男が静かに答える。


 


 


 


 


 


「レベルも高くない」


 


 


 


 


 


「他の召喚者と大きな差はない」


 


 


 


 


 


「ですが——」


 


 


 


 


 


 一拍。


 


 


 


 


 


「反応が異常です」


 


 


 


 


 


 


「反応?」


 


 


 


 


 


 


「はい」


 


 


 


 


 


 


「状況に対する動きが速すぎる」


 


 


 


 


 


 


「迷いがない」


 


 


 


 


 


 


「……」


 


 


 


 


 


 


 女はもう一度映像を見る。


 


 


 


 


 


 


 


「確かに」


 


 


 


 


 


 


「普通じゃないね」


 


 


 


 


 


 


 


「加えて」


 


 


 


 


 


 


 男が続ける。


 


 


 


 


 


 


「影響を受けにくい」


 


 


 


 


 


 


「……ああ」


 


 


 


 


 


 


 女が軽く笑う。


 


 


 


 


 


 


「デバフ、効いてない感じだったね」


 


 


 


 


 


 


「はい」


 


 


 


 


 


 


「周囲は明確に影響を受けているのに」


 


 


 


 


 


 


「彼だけ違う」


 


 


 


 


 


 


 


「……ふーん」


 


 


 


 


 


 


 女は興味深そうに目を細める。


 


 


 


 


 


 


 


「異質だね」


 


 


 


 


 


 


 


 短く言った。


 


 


 


 


 


 


 


「接触しますか」


 


 


 


 


 


 


 男が問う。


 


 


 


 


 


 


 


「まだいい」


 


 


 


 


 


 


 


 即答だった。


 


 


 


 


 


 


 


「もう少し見たい」


 


 


 


 


 


 


 


「どんな動きをするか」


 


 


 


 


 


 


 


「どう変わるか」


 


 


 


 


 


 


 


 一瞬、間を置く。


 


 


 


 


 


 


 


「どんな反応が起きるか」


 


 


 


 


 


 


 


 女は森の方を見る。


 


 


 


 


 


 


 


 その視線は静かで——


 


 


 


 


 


 


 


 どこか楽しんでいるようでもあった。


 


 


 


 


 


 


 


「ヒロ、ね」


 


 


 


 


 


 


 


 小さく呟く。


 


 


 


 


 


 


 


 名前だけを、確かめるように。


 


 


 


 


 


 


 


 そして——


 


 


 


 


 


 


 


 何も言わず、視線を戻した。

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