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第50話 帰還と違和感


 霧を抜ける。


 


 重かった空気が、一気に軽くなる。


 


 


「……はぁ」


 


 


 マキが大きく息を吐いた。


 


 


「生きて帰ってきたッス……」


 


 


「まだ終わってないぞ」


 


 


 ヒロは歩きながら言う。


 


 


 だが——


 


 


(……抜けたな)


 


 


 さっきまでとは明らかに違う。


 


 


 あの圧も、気配もない。


 


 


 


「でも……」


 


 


 ミカが自分の手を見る。


 


 


「なんか、軽くないネ?」


 


 


 


「……うん」


 


 


 ユナも小さく頷く。


 


 


「さっきより……動きやすい」


 


 


 


「それな」


 


 


 マキも腕を振る。


 


 


「なんか強くなった感じするッス」


 


 


 


 ヒロも(こぶし)を軽く握る。


 


 


 違和感。


 


 


 だが、悪くない。


 


 


 


(……レベル上がった、みたいな感覚か)


 


 


 


「ま、悪い話じゃないな」


 


 


 


「そうネ」


 


 


 ミカが笑う。


 


 


「ちゃんとリターンあるタイプで安心ヨ」


 


 


 


「……ヒロは?」


 


 


 ユナが見る。


 


 


 


「ん?」


 


 


 


「変わった感じ……ある?」


 


 


 


「……あるっちゃあるな」


 


 


 


 ヒロは少しだけ考える。


 


 


 


「でも、それより——」


 


 


 


 一瞬、間を置く。


 


 


 


「さっきのだな」


 


 


 


「……うん」


 


 


 


 ユナの表情が少しだけ固くなる。


 


 


 


「ヒロ……あれ、何?」


 


 


 


「わからん」


 


 


 


 即答だった。


 


 


 


「気づいたら距離詰まってた」


 


 


 


「見えなかったネ」


 


 


 


 ミカが頷く。


 


 


 


「一瞬で消えて、次の瞬間には当たってたヨ」


 


 


 


「消えてはないだろ」


 


 


 


「消えてたネ」


 


 


 


「言い方」


 


 


 


 


「でも……」


 


 


 


 マキが少し真面目な顔になる。


 


 


 


「助かったッス」


 


 


 


「正直、あれなかったらヤバかったッスよ」


 


 


 


「……まあな」


 


 


 


 ヒロは軽く視線を逸らす。


 


 


 


(……狙って出せるもんじゃない)


 


 


 


 今も、分からない。


 


 


 


 


「また出せるッスか?」


 


 


 


 マキが聞く。


 


 


 


「無理」


 


 


 


 即答。


 


 


 


「じゃあ再現性なしッスね……」


 


 


 


「そうなるな」


 


 


 


 


「でもヒロ」


 


 


 


 ユナが少しだけ強く言う。


 


 


 


「無理しないで」


 


 


 


「……分かってる」


 


 


 


 ヒロは短く答える。


 


 


 


 


(無理した覚えはないけどな)


 


 


 


 むしろ——


 


 


 


 自然に出た。


 


 


 


 


「……あれ、なんだったんだろうね」


 


 


 


 ユナがぽつりと呟く。


 


 


 


「さあな」


 


 


 


 考えても答えは出ない。


 


 


 


 今は——


 


 


 


 戻るのが先だ。


 


 


 


 


 拠点に戻る。


 


 


 


 


「戻ったか」


 


 


 


 研究者が顔を上げる。


 


 


 


 


「どうだった」


 


 


 


 


「突破した」


 


 


 


 


 ヒロが短く言う。


 


 


 


 


「……ほう」


 


 


 


 


 男の目が細くなる。


 


 


 


 


「それは興味深い」


 


 


 


 


「で、これだ」


 


 


 


 


 ヒロは結晶を取り出す。


 


 


 


 


「奥にあった」


 


 


 


 


「触ったら出てきた」


 


 


 


 


 


「……見せてみろ」


 


 


 


 


 


 研究者が手に取る。


 


 


 


 


 


 じっと見る。


 


 


 


 


 


 しばらく無言。


 


 


 


 


 


 


「……なるほど」


 


 


 


 


 


 


「これは座標の欠片だな」


 


 


 


 


 


 


「座標?」


 


 


 


 


 


 


「場所の情報だ」


 


 


 


 


 


 


「お前たちが見つけたものは固定点」


 


 


 


 


 


 


「そこに繋がるための鍵の一部だ」


 


 


 


 


 


 


「……繋がる、ね」


 


 


 


 


 


 


 ヒロが呟く。


 


 


 


 


 


 


「戻れるのか?」


 


 


 


 


 


 


「理論上はな」


 


 


 


 


 


 


「これを元にすれば——」


 


 


 


 


 


 


 研究者が結晶を持ち上げる。


 


 


 


 


 


 


「同じ場所に戻る装置が作れる」


 


 


 


 


 


 


「マジか」


 


 


 


 


 


 


 マキが目を輝かせる。


 


 


 


 


 


 


「じゃあショートカットッスね!」


 


 


 


 


 


 


「単純化するな」


 


 


 


 


 


 


 研究者が即座に返す。


 


 


 


 


 


 


「これは移動ではない」


 


 


 


 


 


 


「接続だ」


 


 


 


 


 


 


「……難しいネ」


 


 


 


 


 


 


 ミカが肩をすくめる。


 


 


 


 


 


 


「だが——使える」


 


 


 


 


 


 


 研究者が続ける。


 


 


 


 


 


 


「準備が必要だ」


 








「時間をくれ」








 


「分かった」


 








 ヒロは頷く。


 


 








 外へ出る。


 






 


 夕暮れ。


 






 


 空が赤く染まっていた。


 






 


「……なんか」







 


 マキが空を見上げる。


 







 


「ちゃんと進んでる感じするッスね」


 







 


「そうネ」







 


 ミカが軽く笑う。


 







 


「死にかけたけどネ」


 







 


「笑い事じゃないよ……」


 







 ユナが小さく息を吐く。


 


 







 けれど。


 







 


 その表情は、少しだけ柔らかかった。


 







 


 ヒロは空を見上げる。


 







 


(……繋がる、か)


 







 


 まだ分からないことだらけだ。


 







 


 でも——


 







 


 確実に、前には進んでいる。


 







 


「……まあ」


 







 


 小さく呟く。


 







 


「悪くない」


 



挿絵(By みてみん)




 


 夕暮れの風が、静かに吹き抜けた。

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