第42話 リスタート
カチッ
小さな音。
「——動くな!!」
ヒロが叫ぶ。
だが。
一瞬、遅い。
霧の中。
何かが反応する。
空気が、歪む。
「……え?」
ユナの声。
次の瞬間——
見えない何かが、走る。
一直線。
ヒロの横を、通り抜けて——
ユナに、触れた。
「——っ」
音が、消える。
ユナの体が、崩れる。
ゆっくりと。
力を失って、倒れる。
「……は?」
理解が追いつかない。
血。
遅れて、広がる。
「ユナ——!!」
叫ぶ。
手を伸ばす。
届かない。
止まらない。
何もかもが——
間に合わない。
——その瞬間。
息を吸う。
目が、開く。
光。
目の前に——
ユナがいた。
「……」
数秒、動けない。
(……は?)
さっきの光景が、残っている。
倒れる。
血。
声。
「……ヒロ?」
ユナが、不思議そうにこちらを見る。
「……っ!」
考えるより先に。
体が動いた。
抱き寄せる。
「——っ……!」
強く。
離さないように。
「え、ちょ……ヒロ?」
「……無事、か……?」
声が、少しだけ震えていた。
「え?う、うん……?」
ユナは戸惑う。
だが——
その表情は、すぐに変わった。
「……ヒロ」
小さく呟く。
「……覚えてるの?」
「……」
ヒロは答えない。
答えられない。
ただ。
さっきの感覚だけが残っている。
「……分かんねえ」
「でも」
少しだけ、力を込める。
「……死んだだろ、今」
「……」
ユナが、黙る。
否定しない。
その沈黙が——
何よりの答えだった。
「……また、そこからなんだ」
ぽつりと。
ユナが呟く。
「……何回目か、分かる?」
「……は?」
ヒロが顔を上げる。
意味が分からない。
だが。
その言葉は、重かった。
そのとき。
「……今の」
横から声。
エバだった。
「……少しだけ、残ってる」
「……何がだ?」
「……分からない」
だが。
「……でも、さっきと違う」
そう言った。
「……」
ヒロはゆっくりと息を吐く。
(……夢じゃない)
(でも、説明もつかない)
頭が追いつかない。
けれど——
やることは一つだった。
「……行くぞ」
短く言う。
「……いいの?」
ユナが聞く。
「また同じになるかもしれないよ」
「……なら」
ヒロは前を見る。
「同じにしなきゃいい」
それだけだった。
霧の中へ。
もう一度——踏み込む。




