第41話 気配の正体
霧の中。
視界は相変わらず悪い。
だが——
さっきよりも重い。
「……止まる」
ヒロが手を上げる。
全員が足を止めた。
「……近いネ」
ミカが小さく笑う。
いつもの軽さは、少しだけ薄い。
「……うん」
ユナも頷く。
「さっきより……はっきりしてる」
ヒロは前を見る。
霧の奥。
何も見えない。
それなのに——
(いる)
確信だけがある。
「……来るぞ」
小さく言う。
その瞬間。
——ドンッ
地面が震える。
「……っ!」
霧の奥から。
何かが、突っ込んできた。
「右!」
ヒロが叫ぶ。
全員が反応する。
横に飛ぶ。
直後——
轟音。
さっきまでいた場所が、抉れた。
「……デカいネ」
ミカが笑う。
霧が少しだけ揺れる。
その奥に——
影。
三つの頭。
「……やっぱり来たか」
ヒロが呟く。
完全には見えない。
だが。
あの輪郭は——
「ケルベロス……!」
ユナの声が震える。
低い唸り声。
空気が揺れる。
「……距離が読めない」
ヒロが低く言う。
「だから近づくネ」
ミカが一歩前に出る。
「待て」
ヒロが制する。
「不用意に突っ込むな」
「でも遠距離だと当たらないヨ?」
「……だろうな」
ヒロは目を細める。
(霧で距離がズレてる)
(見えてる位置と実際が違う)
「……一回、誘う」
「ミカ、軽く撃て」
「了解ネ」
構える。
『バッキュン!!』
光が走る。
——外れる。
「やっぱりネ」
次の瞬間。
ケルベロスが動く。
一気に距離を詰めてくる。
「来る!」
ヒロが前に出る。
直線。
(速い)
(でも——)
予測できる。
ヒロはあえて一歩踏み込む。
「ヒロ!?」
ユナの声。
次の瞬間。
牙が振り下ろされる。
——直撃。
ヒロの体が吹き飛ぶ。
「——っ」
地面に叩きつけられる。
「ヒロ!!」
ユナが叫ぶ。
だが——
ヒロは起き上がる。
「……やっぱ効くな」
軽く肩を回す。
「でも、動ける」
「……おかしいネ」
ミカが呟く。
「普通なら終わってるヨ」
「まあな」
ヒロは軽く笑う。
その間にも——
ケルベロスは止まらない。
「ユナ!」
「防御いけるか!」
「……うん!」
『フィールド!』
光が展開される。
「ミカ!」
「任せるネ!」
『Bang!!』
爆発。
霧が揺れる。
一瞬、姿が見える。
黒い体。
硬質な皮膚。
そして——
三つの頭。
「……硬いな」
ヒロが呟く。
(単発じゃ抜けない)
(削るしかないか)
そのとき。
「……ヒロ」
ユナの声。
少しだけ——震えていた。
「どうした」
「……さっきの場所」
「……?」
「……なんでもない」
言葉を飲み込む。
だが。
ヒロの中に、引っかかる。
(……さっきの場所?)
どこだ。
何のことだ。
分からない。
けれど——
嫌な感じだけが、残る。
そのとき。
ヒロの足が止まる。
踏み込む寸前で——止めた。
(……さっきのやつだ)
足元。
踏み抜けば、何かが起きる位置。
見えない。
だが分かる。
あのときと同じ——
嫌な静けさ。
(……これ、一つじゃない)
(この霧、全部が罠か?)
背筋が冷える。
視界の外。
気配が、動く。
ケルベロス。
そして——
この空間そのもの。
両方が、こちらを狙っている。
「……動くな」
低く言う。
だが。
その直後——
霧の中で。
何かが、わずかにズレた。
距離が、歪む。
位置が、変わる。
そして——
ヒロの中で。
一つの確信が生まれる。
(……これ)
(踏まされる)
理由は分からない。
だが——
逃げきれない。
そう思った。




