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第37話 エバ

食堂を出た後。


 


 外の空気は、少しだけ冷たかった。


 


 


「——もう一度聞くけど」


 


 


 後ろから声。


 


 


 ユキだった。


 


 


「やっぱり、一緒に来ないか?」


 


 


 軽い調子。


 


 


 だが視線は真っ直ぐだった。


 


 


 


「……」


 


 


 ヒロが口を開く前に——


 


 


「行かない」


 


 


 ユナが即答した。


 


 


 


 さっきよりも、はっきりと。


 


 


 


「今のままでいい」


 


 


 


 短い。


 


 


 迷いもない。


 


 


 


「……」


 


 


 ヒロはユナを見る。


 


 


 


 少しだけ、強い。


 


 


 


「……そっか」


 


 


 ユキはそれ以上は言わなかった。


 


 


 


「残念ですけど、無理強いはしません」


 


 


 ナオが静かに続ける。


 


 


 


「ま、またどっかで会えるっスよね!」


 


 


 マキが笑う。


 


 


 


「……そうだな」


 


 


 ヒロは軽く頷いた。


 


 


 


 そして。


 


 


 三人はそのまま別方向へ去っていく。


 


 


 


 


 少しの沈黙。


 


 


 


 


「……なあ」


 


 


 ヒロが口を開く。


 


 


 


「お前、あいつらと知り合いなのか?」


 


 


 


「……違う」


 


 


 


 即答。


 


 


 


「じゃあ、なんであんな拒否したんだよ」


 


 


 


「……」


 


 


 


 一瞬だけ、間が空く。


 


 


 


「……なんとなく」


 


 


 


 それだけだった。


 


 


 


 


(……なんとなく、ねえ)


 


 


 


 ヒロは少しだけ眉をひそめる。


 


 


 


 納得は、していない。


 


 


 


 だが——


 


 


 


「……まあいいか」


 


 


 


 深くは追わなかった。


 


 


 


 


「ユー、気にしすぎネ」


 


 


 ミカが軽く言う。


 


 


「そういうのは、流すのが一番ヨ」


 


 


「お前が言うな」


 


 


 


 


 そのとき。


 


 


 


 ——気配。


 


 


 


 違和感が、すぐ近くに立つ。


 


 


 


「……ねえ」


 


 


 


 横から声。


 


 


 


 ヒロの動きが、一瞬止まる。


 


 


 


(……この感じ)


 


 


 


 ゆっくりと振り向く。


 


 


 


 そこにいた。


 


 


 


 森で会った、あの少女。


 


 


 


「……お前」


 


 


 


 思わず呟く。


 


 


 


 あのときと同じ。


 


 


 


 距離感のおかしい立ち方。


 


 


 


 無表情。


 


 


 


 そして——


 


 


 


 視線だけが、ヒロを捉えている。


 


 


 


「……また来た」


 


 


 


 ぽつりと。


 


 


 


 以前と同じ言葉。


 


 


 


「いや来るなよ普通に」


 


 


 


 思わずツッコむ。


 


 


 


 


「……一緒に行く」


 


 


 


「は?」


 


 


 


 唐突だった。


 


 


 


「なんでだよ」


 


 


 


「……観察」


 


 


 


 少しだけ、間。


 


 


 


「続き」


 


 


 


「いや意味わかんねえよ」


 


 


 


「問題ない」


 


 


 


「あるわ」


 


 


 


 


 ユナが、一歩前に出る。


 


 


 


「ヒロ、その子——」


 


 


 


 言いかけて、止まる。


 


 


 


 少女を見たまま、動かない。


 


 


 


 明らかに、警戒している。


 


 


 


 


「……だめ」


 


 


 


 低い声。


 


 


 


「一緒には行かない」


 


 


 


 


 少女は反応しない。


 


 


 


 ただ——


 


 


 


 ヒロの隣に、すっと並ぶ。


 


 


 


 


「……近い」


 


 


 


 ユナの声がさらに低くなる。


 


 


 


 


「問題ない」


 


 


 


「ある」


 


 


 


 即答だった。


 


 


 


 


(……なんか、拒否しづらいな)


 


 


 


 


「……名前くらい聞いとくか」


 


 


 


 ヒロがため息混じりに言う。


 


 


 


「お前、名前は?」


 


 


 


「……」


 


 


 


 少しだけ考える。


 


 


 


 本当に、今考えているように。


 


 


 


「……んー」


 


 


 


 間。


 


 


 


 


「じゃあ——エバ」


 


 


 


「……は?」


 


 


 


「エバでいい」


 


 


 


 軽い。


 


 


 


 適当。


 


 


 


 


「いや()()()ってなんだよ」


 


 


 


「問題ない」


 


 


 


「あるわ」


 


 


 


 


「増えたネ」


 


 


 


 ミカが楽しそうに笑う。


 


 


 


 


「やめろ」


 


 


 


 


 


 そのまま歩く。


 


 


 


 


 距離は——変わらない。


 


 


 


 


 


 夜。


 


 


 


 


「……じゃあ」


 


 


 ヒロが言う。


 


 


 


「そろそろ帰るぞ」


 


 


 


「……」


 


 


 


 エバは少しだけ考えて——


 


 


 


「……分かった」


 


 


 


 あっさり頷いた。


 


 


 


 


「ちゃんと帰れよ」


 


 


 


「帰る」


 


 


 


 


 そう言って、離れる。


 


 


 


 


 


 ——はずだった。


 


 


 


 


 


 翌朝。


 


 


 


 


「……」


 


 


 


 目が覚める。


 


 


 


 


 いつもの天井。


 


 


 


 


 ——と。


 


 


 


 


 すぐ近く。


 


 


 


 


 柔らかい感触。


 


 


 


 


「……は?」


 


 


 


 


 横を見る。


 


 


挿絵(By みてみん)


 


 


 エバが、普通に寝ていた。


 


 


 


 


「……」


 


 


 


 


 数秒、固まる。


 


 


 


 


 


「——ヒロ?」


 


 


 


 


 反対側。


 


 


 


 


 ユナの声。


 


 


 


 


 目が合う。


 


 


 


 


 そして——


 


 


 


 


「……何してるの?」


 


 


 


 


 静かに。


 


 


 


 


 次の瞬間。


 


 


 


 


 ——バチン


 


 


 


 


「いってえ!?」


 


 


 


 


 ヒロの顔が弾かれる。


 


 


 


 


 


「……エッチ」


 


 


 


 


 ユナの声は低かった。


 


 


 


 


 


「ワオ」


 


 


 


 


 ミカが楽しそうに呟く。


 


 


 


 


「やるネ」


 


 


 


 


「やってねえよ!!」


 


 


 


 


 


 その騒ぎの中で。


 


 


 


 


 エバはゆっくりと目を開ける。


 


 


 


 


 


「……おはよう」


 


 


 


 


 


 何事もなかったかのように。


 


 


 


 


 


 そこにいた。

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