第36話 味と違和感
昼。
ギルド近くの食堂。
いつもより人は多い。
だが、騒がしさはどこか落ち着かない。
「……混んでるな」
ヒロは席に座りながら呟く。
「仕方ないネ」
ミカが肩をすくめる。
「外、まだ危ないヨ」
「……うん」
ユナは短く頷いた。
その手は、自然とヒロの袖を掴んでいる。
料理が運ばれてくる。
肉料理。
スープ。
パン。
「……普通だな」
一口食べる。
「……いや、普通に美味いなこれ」
ヒロは少し驚いたように言う。
「デショ?」
ミカが嬉しそうに言う。
「ここ、当たりネ」
「……美味いんだ」
横から声。
振り向く。
「……あんたら」
そこにいたのは——
昨日の三人。
「隣、いいですか?」
ナオが丁寧に聞く。
「別にいいけど」
三人は自然に席についた。
「で、それ」
ユキがヒロの皿を見る。
「味、分かるんだ」
「は?」
ヒロが眉をひそめる。
「いや、普通に分かるだろ」
「……ふーん」
ユキは興味深そうにヒロを見る。
じっと。
観察するように。
「珍しいね」
「そうか?」
「うん」
短く答える。
だが、その視線は外れない。
「……」
ヒロは少しだけ居心地悪そうにする。
「まあ、食えればいいっスよね」
マキが軽く言う。
「……」
ナオは特に言及せず、静かに食事を続けていた。
そのとき。
「……その話、やめて」
ユナが、小さく言う。
短く。
少しだけ強い声。
「ん?」
ヒロが振り向く。
「……なんでもない」
ユナはすぐに視線を逸らした。
ただ。
袖を掴む手は、少し強くなっていた。
「……」
ユキがそれを見る。
そして——
少しだけ、笑う。
(……やっぱり)
何かを確信したように。
「なあ」
ヒロが話題を変える。
「召喚者って、俺たち以外にもいるのか?」
「ええ」
ナオが頷く。
「ただし——」
「長く残っている者は、少ないですね」
「……消えたってことか?」
「そう取っていただいて構いません」
「……」
ヒロは少しだけ黙る。
(……消えた、か)
「まあ、生きてるしな」
軽く言う。
ユナの手が、わずかに強くなる。
そのとき。
「——見つけた」
別の声。
入口の方から。
小さな影。
ゆっくりと近づいてくる。
幼い外見。
不自然なほど真っ直ぐな視線。
ヒロの前で止まる。
「……?」
ヒロは首をかしげる。
「……ヒロ」
名前を呼ばれた。
「……誰だ?」
少女は、じっと見つめる。
数秒。
「……うん」
小さく頷く。
「やっぱり」
そして——
隣に座った。
「……は?」
「ここ、いい」
「いやよく分かんねえけど」
「……いい」
距離が、近い。
「……」
ユナの手が——
さらに強くなる。
「……近い」
低い声。
「問題ない」
「ある」
即答。
「増えたネ」
ミカが楽しそうに言う。
「やめろ」
そのやり取りの中で。
ユキは、ヒロを見ていた。
さっきよりも、はっきりと。
興味を持って。
(……やっぱり、違う)
確信に近いものがあった。
この中で——
一番、異質なのは。
間違いなく。
——ヒロだった。




