第30話 静かなざわめき
街に戻る頃には、日が傾きかけていた。
いつもなら、少し落ち着く時間帯。
けれど——
「……なんか、騒がしくないか?」
ヒロは周囲を見回す。
人の声が多い。
落ち着かないざわめき。
「うん……」
ユナも小さく頷く。
「空気、よくないネ」
ミカが軽く言う。
三人はそのままギルドへ入る。
中は、さらにざわついていた。
「また増えたらしいぞ」
「西の森、完全におかしい」
「昨日もやられたって話だ」
断片的な会話が耳に入る。
「……増えた?」
ヒロが呟く。
「何がだよ」
近くにいた冒険者が答えた。
「魔物だよ」
「ここ数日で一気に数が増えてる」
「しかも、質も悪い」
「質?」
「妙に強いのが混じってる」
その言葉に——
「……ああ」
ヒロは小さく頷いた。
(さっきのやつか)
「見たのか?」
冒険者が聞く。
「まあ、それっぽいのは」
「なら分かるだろ」
男は顔をしかめる。
「今までと違う」
「嫌な感じだ」
「……だろうな」
ヒロは軽く息を吐いた。
横で。
「……」
ユナは何も言わなかった。
ただ。
ヒロの袖を、少し強く掴んでいる。
「ユーたちも会ったネ?」
ミカが楽しそうに言う。
「面白かったデショ?」
「面白くはねえよ」
ヒロは即答する。
「普通に危なかっただろ」
「でも楽しいネ」
「お前だけな」
軽くやり取りを交わす。
けれど。
さっきの戦闘が、頭に残っていた。
(……重かったよな)
確かに、動きは鈍った。
感覚はあった。
(でも)
手を握る。
普通に動く。
(……あれ、なんなんだ)
うまく言葉にできない。
ただ。
妙な違和感。
「ヒロ」
ユナの声。
「……さっきの」
「ん?」
「もう一回会ったら」
一瞬、言葉を止める。
「……無理しないで」
「無理はしてないって」
ヒロは軽く答える。
「普通にやってただけだ」
「普通じゃないよ」
小さく。
はっきりとした声だった。
「……そうか?」
「そう」
短い返事。
ヒロは少しだけ首をかしげる。
(……そんな違ったか?)
思い出す。
動き。
感覚。
(……まあいいか)
考えても、答えは出ない。
「次も来るネ」
ミカが軽く言う。
「さっきの、あれ」
「逃げ方がそうデス」
「……だろうな」
ヒロは頷く。
あれは終わっていない。
そんな気がしていた。
そのとき。
——ドンッ!!
遠くで、音がした。
重い衝撃音。
空気が、わずかに揺れる。
「……今の」
誰かが呟く。
続けて。
悲鳴。
ギルドの中が、一瞬で静まった。
「……おい」
ヒロが顔を上げる。
音の方向を見る。
「……外だな」
嫌な予感しかしない。
ヒロは、一歩踏み出した。
その横で。
ユナの手が、強く袖を掴む。
「……ヒロ」
声は、小さい。
けれど。
離さなかった。
ミカは——
「来たネ」
楽しそうに、笑っていた。




