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第28話 欠けているもの


 宿を出て、しばらく歩いたあとだった。


 


 朝の空気は静かで、どこか落ち着いている。


 


「……」


 


 ヒロは、ふと足を止めた。


 


「ヒロ?」


 


 ユナが振り返る。


 


「いや」


 


 少しだけ考えてから、言う。


 


「なんか……引っかかってさ」


 


 


 言葉を探す。


 


 


「昨日のこと、じゃなくて」


 


 


 頭の奥を探るような感覚。


 


 


「もっと前の——」


 


 


 そこで、止まる。


 


 


(……前?)


 


 


 自分で言って、違和感を覚える。


 


 


(……なんだそれ)


 


 


 ユナが、少しだけ不安そうに見る。


 


 


「ヒロ?」


 


 


「……なあ」


 


 


 ヒロはゆっくり口を開いた。


 


 


「俺たちってさ」


 


 


「うん?」


 


 


「幼馴染なんだよな」


 


 


「……え?」


 


 


 一瞬、ユナの反応が遅れる。


 


 


「いや、そうだろ?」


 


 


 ヒロは軽く言う。


 


 


「なんとなく、分かるし」


 


 


「……うん」


 


 


 ユナは、小さく頷いた。


 


 


「そうだよ」


 


 


 少しだけ、間があった。


 


 


 


 ヒロは考える。


 


 


(……なんとなく、は分かる)


 


 


(でも——)


 


 


 


「……どこで会ったんだっけ」


 


 


 


 ぽつりと出た。


 


 


 


「え?」


 


 


 


「いや」


 


 


 頭の中を探る。


 


挿絵(By みてみん)


 


 記憶。


 


 


 昔のこと。


 


 


 


(……ある、はずなんだけどな)


 


 


 


 景色。


 


 


 声。


 


 


 時間。


 


 


 


(……出てこない)


 


 


 


「……思い出せないな」


 


 


 


 小さく呟く。


 


 


 


「……」


 


 


 


 空気が止まる。


 


 


 


 ユナの手が、わずかに強くなる。


 


 


 


「ヒロ」


 


 


 


 声が、少しだけ震えていた。


 


 


 


「覚えてないの?」


 


 


 


「いや、覚えてる……はずなんだけど」


 


 


 


 ヒロは首をかしげる。


 


 


 


「なんか、ぼんやりしてる」


 


 


 


「……」


 


 


 


 ユナが言葉を失う。


 


 


 


 


(……変だな)


 


 


 


 ヒロは少しだけ考える。


 


 


 


(昨日の違和感と、繋がってる気がする)


 


 


 


 ユナの様子。


 


 


 自分の感覚。


 


 


 


(……まさか)


 


 


 


 一つ、可能性が浮かぶ。


 


 


 


(召喚されたときの影響、とかか?)


 


 


 


 確証はない。


 


 


 


 でも。


 


 


 


(……まあ)


 


 


 


 軽く息を吐く。


 


 


 


(それなら、まだ分かるか)


 


 


 


 完全には納得していない。


 


 


 


 けれど。


 


 


 


 今は、それ以上考えなかった。


 


 


 


「ほら、あれだろ」


 


 


 


 軽く言う。


 


 


 


「昔から一緒で」


 


 


 


「……」


 


 


 


「お、幼馴染みで……」


 


 


 


 言葉が、止まる。


 


 


 


(……なんだっけ)


 


 


 


「——大……大事なでしょっ!」


 


 


 


 ユナが、思わず言った。


 


 


 


 少し強い声だった。


 


 


 


「……ああ」


 


 


 


 ヒロは軽く頷く。


 


 


 


「そんな感じ」


 


 


 


「そんな感じって……!」


 


 


 


 ユナの声が揺れる。


 


 


 


 けれど。


 


 


 


 ヒロは深く考えなかった。


 


 


 


(……まあいいか)


 


 


 


(思い出せないなら、そのうち思い出すだろ)


 


 


 


 軽く流す。


 


 


 


 


 ユナは、何も言えなかった。


 


 


 


 ただ。


 


 


 


 ヒロの袖を、強く掴む。


 


 


 


 まるで——


 


 


 


 離れないように。


 


 


 


 


 「グッドモーニングネ!」


 




 ミカがいつもの調子で入ってくる。


 




 「……いいタイミングだな」


 




 ヒロは軽く息を吐いた。


 





 さっきまでの空気が、少しだけ緩む。


 


 




 「ユーたち、変わってるネ」


 




 ミカがぽつりと言う。


 




 「何がだよ」


 




 「普通、逃げるヨ」


 




 「……何から?」


 




 「ミーの爆裂」


 


 




 あっさりした言い方だった。


 




 


 「前もパーティ組んでたネ」


 




 「でも——」


 




 少しだけ間があく。


 


 




 「だいたい一回で解散デス」




 


 


 「……だろうな」




 


 


 「ユーたちは逃げないネ」


 




 


 ミカが、少しだけ笑う。


 




 


 「だから、面白い」


 




 


 ヒロは少しだけ考えて——


 


 




 「まあ、慣れたしな」


 




 


 軽く言う。


 




 


 「それに」


 


 




 肩をすくめる。


 


 




 「強いのは助かる」


 




 


 「デショ?」


 




 


 ミカが嬉しそうに笑う。


 


 




 その横で。


 


 


「……」


 


 


ユナは何も言わなかった。


 


 


ただ。


 


 


ヒロの袖を、少しだけ強く掴んでいた。


 


 


 


 ヒロは軽く息を吐いた。


 


 


 


 


 けれど。


 


 


 


 胸の奥に、残る違和感。


 


 


 


(……なんだこれ)


 


 


 


 はっきりしない。


 


 


 


 けれど——


 


 


 


 確実に何かが、欠けていた。


 


 


 


 


 それに気づくには。


 


 


 


 まだ少しだけ、時間が必要だった。

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