第26話 ユナの苦悩
森の外れ。
戦闘の余韻が、まだ空気に残っていた。
「……今日はこのくらいネ」
ミカが軽く伸びをする。
「もう十分デス」
「だな」
ヒロも軽く息を吐いた。
体の痛みは、まだ残っている。
けれど——動ける。
「……ヒロ」
隣で、ユナが呼んだ。
「ん?」
振り返る。
ユナの手が、ヒロの袖を掴んでいた。
いつもより——少しだけ強い。
「……さっきの」
言葉を選ぶように、少し間が空く。
「……やめて」
「何が?」
ヒロは首をかしげる。
「そういう戦い方」
「……ああ」
ヒロは軽く頷いた。
「まあ、危ないのは分かってるけど」
「そうじゃない」
遮るように、ユナが言った。
一瞬。
空気が止まる。
「……じゃあ何だよ」
ヒロは少しだけ真面目な顔になる。
「倒せただろ」
「……っ」
ユナの指に、力が入る。
「……そういうことじゃない」
小さな声。
「……じゃあ、どういうことだよ」
ヒロは、ほんの少しだけ踏み込んだ。
ユナは答えない。
少しだけ俯いて——
「……怖いの」
ぽつりと、落ちる。
「え?」
「見てるのが」
声が、わずかに震えていた。
「……ヒロが」
そこで、言葉が途切れる。
「……」
沈黙。
ほんの数秒。
それだけのはずなのに、妙に長く感じた。
「……まあ」
ヒロは軽く息を吐いた。
「死ななきゃいいだろ」
「よくない」
即答だった。
さっきより、少し強い。
「全然、よくない」
「……」
ヒロは少しだけ黙る。
その反応は、少しだけ予想外だった。
「……そんな顔すんなよ」
軽く言う。
「ちゃんと見てるし」
「……見てる?」
ユナが顔を上げる。
その目が、ほんの一瞬だけ揺れた。
「……何を?」
「何って——」
言いかけて、ヒロは止まる。
言葉が、出てこない。
(……何を見てる?)
一瞬、引っかかる。
けれど。
「……まあいいだろ」
軽く流した。
「無茶しすぎないようにはするよ」
「……」
ユナは、しばらく何も言わなかった。
ただ。
ヒロの袖を掴んだまま。
「……約束」
小さく呟く。
「おう」
ヒロは軽く頷いた。
「……絶対?」
「絶対」
少しだけ。
ユナの力が、緩む。
「……じゃあ、いい」
そう言って——
手を離した。
その表情は。
いつも通りに、戻っていた。
「帰るネ?」
ミカが軽く言う。
「腹減ったデス」
「さっきまであんだけ暴れてたのに元気だな……」
ヒロは苦笑する。
三人で歩き出す。
いつも通りの帰り道。
いつも通りの会話。
——のはずだった。
(……怖い、か)
ヒロは少しだけ空を見上げる。
(まあ、分からなくはないけど)
それ以上は、考えなかった。
その横で。
ユナは、何も言わない。
ただ。
ほんの一瞬だけ。
ヒロの手を、見ていた。




