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第25話 俺の戦い方

森の奥。


 


 空気が、少し重い。


 


「……数、多いネ」


 


 ミカが前を見て呟く。


 


 木々の間。


 


 複数の気配。


 


 逃げ場は、ない。


 


 


「ちょうどいいな」


 


 ヒロは小さく息を吐いた。


 


「試すには」


 


 


「ヒロ」


 


 ユナの声が低くなる。


 


「やりすぎないで」


 


 


「分かってる」


 


 


 本当かどうかは、自分でも分からなかった。


 


 


「来るヨ」


 


 


 ミカが指を鳴らす。


 


 


 次の瞬間。


 


 


 魔物が一斉に動いた。


 


 


 


 一体が正面から飛びかかる。


 


 


(速い)


 


 


 見える。


 


 


 避けられる。


 


 


(でも——)


 


 


 一瞬、迷う。


 


 


(避けたら、届かない)


 


 


 判断。


 


 


 ——踏み込む。


 


 


 


 爪が肩を裂く。


 


 


「っ……!」


 


 


 痛み。


 


 


 それでも、止まらない。


 


 


 


 そのまま距離を詰める。


 


 


 剣を振るう。


 


 


 一体、倒す。


 


 


 


「……ユー」


 


 


 ミカが目を細める。


 


 


「避けないネ」


 


 


「避けても届かない」


 


 


 


 次が来る。


 


 


 横。


 


 


(来る)


 


 


 今度は——避ける。


 


 


 ギリギリで躱す。


 


 


 


(これは、避けた方がいい)


 


 


 


 反撃。


 


 


 二体目を倒す。


 


 


 


「……使い分けてるネ」


 


 


「まあな」


 


 


 


 そのとき。


 


 


 後方から、別の魔物。


 


 


「ヒロ!」


 


 


 ユナの声。


 


 


 振り返る。


 


 


 間に合わない距離。


 


 


(これは——)


 


 


 一瞬。


 


 


 考えて。


 


 


(受ける)


 


 


 体を前に出す。


 


 


 


 衝撃。


 


 


 腹に重い一撃。


 


 


「……っ!」


 


 


 息が詰まる。


 


 


 それでも。


 


 


 倒れない。


 


 


 


 そのまま腕を伸ばす。


 


 


 剣を突き込む。


 


 


 三体目。


 


 


 


「……ユー」


 


 


 ミカが、少しだけ真顔になる。


 


 


「それ、普通じゃないネ」


 


 


「知ってる」


 


 


 


 ヒロは短く返す。


 


 


 


「でも」


 


 


「これが一番届く」


 


 


 


 一瞬、間。


 


 


 


「……」


 


 


 ミカの表情が、わずかに変わる。


 


 


 


 そのとき。


 


 


 別方向から、さらに魔物。


 


 


 


 複数。


 


 


 


(避けきれない)


 


 


 


 視線を走らせる。


 


 


 位置。


 


 距離。


 


 ユナの位置。


 


 ミカの射線。


 


 


 


(……一体ならいける)


 


 


(でも——)


 


 


 二体目。


 


 


 三体目。


 


 


 


(間に合わない)


 


 


 


 その瞬間。


 


 


 


 理解した。


 


 


 


(……全部、避ける必要はない)


 


 


 


 一歩、踏み込む。


 


 


「ヒロ!?」


 


 


 ユナの声。


 


 


 無視する。


 


 


 目の前の一体。


 


 


 こいつを、落とす。


 


 


 


 剣を振るう。


 


 


 手応え。


 


 


 


 同時に——


 


 


 背後から、衝撃。


 


 


「——っ!!」


 


 


 体が揺れる。


 


 


 痛みが走る。


 


 


 


 だが。


 


 


 止まらない。


 


 


 


「もう一体!」


 


 


 そのまま踏み込む。


 


 


 振り抜く。


 


 


 二体目、撃破。


 


 


 


「いいネ!!」


 


 


 ミカの声。


 


 


「まとめるヨ!」


 


 


 


 ヒロは位置をずらす。


 


 


 ほんの少しだけ。


 


 


 ()()()()()()()()()へ。


 


 


 


(……ここだ)


 


 


「やれ!」


 


 


「任せるネ!!」


 


 


 ミカが笑う。


 


 


『Bang!!』


 


 


 


 ——轟音。


 


 


 


 爆発が広がる。


 


 


 魔物ごと、空間が弾ける。


 


 


 


「っ……!!」


 


 


 ヒロの体も、巻き込まれる。


 


 


 衝撃。


 


 


 視界が揺れる。


 


 


 地面に叩きつけられる。


 


 


 


「ヒロ!!」


 


 


 ユナの叫び。


 


 


 


 息が詰まる。


 


 


 痛い。


 


 


 普通に、痛い。


 


 


 


(……でも)


 


 


 体を起こす。


 


 


 


「……生きてる」


 


 


 小さく呟く。


 


 


 視線を上げる。


 


 


 魔物は、ほぼ壊滅していた。


 


 


 


「……やりすぎだろ」


 


 


 ヒロは苦笑する。


 


 


「問題ナイ!」


 


 


 ミカが満足げに頷く。


 


 


「全部倒したネ!」


 


 


「こっちも巻き込まれてんだよ……」


 


 


 肩を回す。


 


 


 痛みは残っている。


 


 


 だが——動ける。


 


 


 


「……ヒロ」


 


 


 ユナが近づいてくる。


 


 


 その手が、強く腕を掴む。


 


 


「今の……わざと?」


 


 


「……まあな」


 


 


 ヒロは軽く答えた。


 


 


「避けきれなかっただけ、って言いたいとこだけど」


 


 


 少しだけ視線を逸らす。


 


 


「……あの位置の方が、まとめやすかっただろ」


 


 


「……っ」


 


 


 ユナの指に力が入る。


 


 


「そんなの——」


 


 


 言いかけて、止まる。


 


 


「……危ないよ」


 


 


 声が、少し低い。


 


 


「まあな」


 


 


 ヒロはあっさり頷く。


 


 


「でも、倒せた」


 


 


「……」


 


 


 ユナは何も言わない。


 


 


 ただ、手を離さない。


 


 


 


「ユー、いいネ」


 


 


 ミカが楽しそうに笑う。


 


 


「やっと()()()()()()ネ」


 


 


「何がだよ」


 


 


「戦い方デス」


 


 


 


 ヒロは肩をすくめる。


 


 


「そんな大したもんじゃねえよ」


 


 


「大したもんネ」


 


 


 ミカは即答した。


 


 


「普通、逃げるヨ」


 


 


「……は?」


 


 


「さっきの位置」


 


 


 指で示す。


 


 


「爆裂来るって分かってて、あそこに立つやつ」


 


 


「今まで一人もいなかったネ」


 


 


 


「いやまあ……普通は避けるだろ」


 


 


「ソウ」


 


 


 ミカは頷く。


 


 


「だから、みんな逃げるネ」


 


 


 


「……?」


 


 


「ミーと組むと」


 


 


 少しだけ、間を置く。


 


 


「死ぬかもしれないから」


 


 


 


 軽い口調。


 


 


 でも、少しだけ静かだった。


 


 


 


「……でも」


 


 


 ミカが顔を上げる。


 


 


 にやりと笑う。


 


 


「ユー、逃げなかったネ」


 


 


 


「いや逃げる暇なかっただけだろ」


 


 


「それでもネ」


 


 


 一歩、近づく。


 


 


「ミー、ちょっと嬉しいデス」


 


 


 


挿絵(By みてみん)


 


 


 ヒロは一瞬だけ視線を逸らして。


 


 


「……そうかよ」


 


 


 短く返した。


 


 


 


「ユー、いいネ」


 


 


 ミカがもう一度言う。


 


 


「一緒にやると、楽しいデス」


 


 


 


 その横で。


 


 


「……」


 


 


 ユナは何も言わない。


 


 


 ただ——


 


 


 ヒロの袖を、少しだけ強く掴んでいた。


 


 


 


 ——それが。


 


 


 


 ヒロが初めて、()()()()()()()()()()()()だった。

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