第22話 残されたもの
結界の光が、ゆっくりと薄れていく。
ユナが、手を下ろした。
「……はぁ……」
小さく息を吐く。
そのまま、わずかによろめいた。
「おい、大丈夫か?」
ヒロが支える。
「……うん」
ユナは小さく頷く。
けれど。
その手は、まだ震えていた。
光が消える。
街の姿が、戻る。
「……」
ヒロは、言葉を失った。
さっきまで見えていなかったものが、
はっきりと視界に入る。
崩れた建物。
抉れた地面。
焼け焦げた跡。
そして——
倒れたまま、動かない人影。
「……」
足が、止まる。
(……これ)
一瞬、言葉が浮かぶ。
(……死体)
けれど。
(……いや)
やめた。
口に出したら、何かが変わる気がした。
「……結構やってんな」
結局、軽く言う。
自分でも分かっていた。
——軽すぎる。
(……違うだろ)
視線を逸らしかけて、止まる。
もう一度、見る。
動かない人影。
崩れた街。
(……これ、見て見ぬふりしていいやつか?)
一瞬だけ、迷う。
けれど。
(……いや)
小さく息を吐く。
(それは違う)
理由は、うまく言えない。
でも——
体が、納得しなかった。
「……ごめん」
ユナが、小さく呟く。
「いや、あれは仕方ないだろ」
ヒロは答える。
「むしろ助かったし」
「……」
ユナは何も言わなかった。
ただ。
ヒロの袖を、少しだけ強く掴む。
「……っ」
そのとき。
瓦礫の影。
何かが動いた。
「……ん?」
ヒロが視線を向ける。
「……ミカ?」
そこにいたのは——ミカだった。
ゆっくりと上体を起こす。
「……イテテ……」
額を押さえながら、顔を上げる。
「……生きてるネ」
「いやお前もな!?」
ヒロが思わずツッコむ。
そのやり取りに、
一瞬だけ空気が戻る。
「ギリギリだったネ」
ミカは苦笑する。
「アレはちょっと無理ヨ」
「いやちょっとじゃねえだろ……」
ヒロは、周囲をもう一度見る。
そして。
「……ジンは」
ぽつりと呟く。
沈黙。
ユナは答えない。
視線を、逸らす。
「……あれは」
ミカが小さく言う。
「どうにもならないネ」
それ以上、言葉は続かなかった。
(……どうにも、ならないか)
ヒロは小さく息を吐く。
強かった。
圧倒的だった。
——それでも、死んだ。
(……あれが、普通なのか)
少し考えて。
(……いや、違うだろ)
小さく、否定する。
(あんなの、普通でいいわけがない)
誰に言うでもなく。
ただ、自分の中で決める。
(……少なくとも)
(見て見ぬふりは、したくないな)
それだけだった。
そのとき。
(……なんだ?)
一瞬だけ。
誰かに見られているような気がした。
けれど——
振り返っても、何もいない。
「……気のせいか」
ヒロは少しだけ眉をひそめた。
「……戻ろう」
ユナが小さく言う。
「ここ、あんまり長くいたくない」
「だな」
ヒロも頷く。
その場を離れる。
背後に残るのは、
壊れた街と、
動かないものたち。
帰り道。
「なあ」
「ん?」
「俺さ」
ヒロは自分の手を見る。
「死んでも戻るっぽいんだけど」
「……」
ユナは答えない。
「これってさ」
一瞬だけ考えてから。
「……どうなんだろうな」
言い直す。
「得なのか、損なのか」
「よくない」
即答だった。
「それ、絶対よくない」
「……そうか」
ヒロは小さく頷く。
さっきの光景が、頭に残っている。
(……死なないのは楽だ)
(でも——)
一瞬だけ、考える。
(それで全部済ませていい話でもないな)
小さく息を吐く。
「なあ」
「俺って、いつになったらステータス見れるんだ?」
ユナが一瞬だけ言葉に詰まる。
「……そのうち、じゃない?」
「そのうちか」
ヒロはあっさり流した。
「さっきのやつ、やっぱ強かったのか?」
「……強い、どころじゃない」
ユナの声は小さかった。
「へぇ」
ヒロは軽く頷く。
空を見上げる。
青い空。
何も変わらないように見える。
けれど。
何かが、確実に変わっていた。




