第21話 異常
──目を開けた。
結界の中だった。
街は、まだ光に包まれていた。
「……あれ」
体を起こす。
痛みは、もうない。
服は破れている。
けれど──
「……また、か」
小さく呟く。
不思議と、驚きはなかった。
むしろ。
(やっぱりな)
そんな感覚だった。
「……ヒロ?」
震える声。
顔を上げる。
ユナが、そこにいた。
立ったまま。
動かない。
「……おーい」
手を振る。
反応なし。
「……またこれか?」
軽く苦笑する。
近づく。
目の前に立つ。
焦点が、合っていない。
「おーい、戻ってこーい」
肩を軽く揺らす。
「……」
数秒。
「──ヒロ!」
声が戻る。
「……うおっ!?」
ヒロは思わず一歩引く。
「びっくりした……急にどうした」
「ヒロ……!」
ユナが、強く腕を掴む。
その手は、震えていた。
「……生きてる」
「いや、まあ……うん」
ヒロは軽く笑う。
「普通に戻ったけど」
「……普通じゃない」
ユナの声が、低くなる。
「え?」
「普通じゃ、ないよ……」
視線が、ヒロの胸へ向く。
破れた服。
そこにあったはずの傷は──ない。
「……なんで」
小さく、呟く。
「なんで、また……」
「いや、分かんねえけど」
ヒロは軽く肩をすくめる。
「死んだと思ったら戻るっぽいな」
「……っ」
ユナの指に、力が入る。
「それ……」
言葉が続かない。
震えている。
「ヒロ」
「ん?」
「……痛く、ないの?」
「んー」
少し考える。
「死ぬときは痛いけど」
「戻るときは、別に」
「……そうじゃなくて!」
声が強くなる。
「そういうことじゃ、なくて……!」
言葉が乱れる。
呼吸が浅い。
「……なんで、そんな」
言いかけて、止まる。
視線が揺れる。
「……」
何も言えない。
ただ。
ヒロの腕を、離さない。
「……まあ」
ヒロは軽く息を吐いた。
「死なないなら、それでいいんじゃね?」
「よくないよ」
即答だった。
その声は、震えていた。
「全然、よくない」
「……そうか?」
「そうだよ」
ユナは俯く。
「そんなの……」
小さく呟く。
「……おかしい」
その声は、ほとんど聞こえなかった。
──結界の光が、わずかに揺れる。
外の気配は、もう感じない。
──いや。
最初から、そこにいなかったかのように。
あの女の気配は、完全に消えていた。
(……本当に、消えたのか?)
けれど。
ヒロは、どこか違和感を覚えていた。
(……なんか)
胸の奥に、引っかかる。
(死んで、戻るって)
(普通に考えたら──)
そこまで考えて……
思考がまとまらない。
(……今は、考えても仕方ないか)
それより──
目の前の方が、問題だ。
「……ユナ」
「……なに」
「とりあえず」
軽く言う。
「今は、生きてる」
「それでいいだろ」
「……」
ユナは、何も答えなかった。
ただ。
ヒロの腕を、離さない。
──その感覚に。
ほんの少しだけ。
違和感を覚える。
ユナは昔から近かった。
それなのに──
今は少しだけ、違って見えた。




