第20話 不死
街に着いた時点で、異様だった。
静かすぎる。
人の気配が、ない。
「……これ、本当に街か?」
ヒロは周囲を見回す。
「気配、薄いネ」
ミカも珍しく警戒していた。
そのとき。
「止まれ」
短い声。
前に出たのは——ジン。
王から付けられた護衛。
「ここから先は、俺がやる」
「え?」
「……露払いだ」
一歩、踏み出す。
次の瞬間。
影が動いた。
魔族。
複数。
だが——
「遅い」
ジンの姿が、消える。
斬撃。
気づいたときには、終わっていた。
魔族が、まとめて崩れ落ちる。
「……え?」
ヒロは思わず声を漏らした。
「いや強すぎだろ……」
「問題ナイネ」
ミカが軽く笑う。
「この程度か」
ジンは淡々としていた。
——安心しかけた、その瞬間。
空気が、変わる。
ユナの表情が凍る。
「ヒロ」
「え?」
「下がって」
声が、明らかに違った。
いた。
あの女。
深い青の肌。
感情のない目。
「……またかよ」
ヒロは、前回の死が脳裏をよぎってわずかに震える。
空気が、違う。
ジンが一歩前に出る。
「下がっていろ」
次の瞬間。
一瞬にして、空が歪む。
(……バカな)
(あれを——)
(詠唱なしで——)
『……サンダーボルト』
光が落ちた。
ジンの姿が、焼き切れた。
「……は?」
ヒロの思考が止まる。
(……今の)
(さっきまで、そこにいたのに)
「……マジネ」
ミカの声が低くなる。
両手で二丁拳銃のように構える。
指先を揃え——
『バッキュン!!』
二条の閃光。
一直線に走る。
——直撃。
煙が晴れる。
「……消えた?」
違う。
いない。
次の瞬間。
背後。
光が、落ちた。
「——っ」
ミカの体が弾かれる。
膝が崩れる。
「……効いて、ないネ……」
わずかに息を吐く。
「……逃げるネ」
その一言を残して——
ミカは、動かなくなった。
「……ヒロ」
ユナの声が遅れる。
理解が追いつかない。
「……っ」
ハッとする。
もう遅い。
『——テラフィールド!!』
ユナが、反射的に叫ぶ。
光が爆発するように広がる。
地面を這い、空へ伸び——
街を、覆う。
「……なにそれ」
低い声。
時を同じくして結界の外。
遠く。
木々の奥。
——影が、揺れる。
「……へえ」
小さな声。
わずかに、興味を持ったように。
だが、それ以上でもない。
ユナが展開した結界は、街を覆うほどだった。
——だが。
その内側に、それはいた。
「……ユ、ユナさん?これは一体……」
「……一番すごそうなの、使ったのに」
次の瞬間。
距離が、消える。
目の前。
腕が、伸びる。
(見える)
前は——見えなかった動き。
(来る)
心臓。
狙いが、分かる。
腕が動く。
間に合う。
——軌道をずらす。
心臓は、外した。
だが——
腹を、貫かれた。
「……あ」
声が出ない。
熱が抜ける。
力が抜ける。
「ヒロ!!」
ユナの叫び。
遠い。
視界が暗くなる。
(……またか)
意識が、沈む。
——そして。
戻る。
呼吸が戻る。
心臓が、動く。
(……今の)
(死んだ、よな……?)
確信に近い感覚。
なのに——
生きている。
(……これが)
(俺の恩恵……?)
理解が、追いつく。
遅れて。
背筋が、冷えた。




