第19話 謁見
王城の中は、静かだった。
重厚な扉をくぐり、長い廊下を進む。
足音だけが、やけに響く。
「……なんか、場違い感すごいな」
ヒロは小さく呟いた。
「静かネ」
ミカはいつも通りだった。
その横で。
「……」
ユナは、少しだけ表情を硬くしていた。
「ユナ?」
「……なんでもない」
短く答える。
やがて。
大きな扉の前で、足が止まる。
「こちらです」
案内の兵士が扉を開く。
——玉座の間。
広い。
高い天井。
一直線に伸びる赤い絨毯。
その先。
玉座に——
王がいた。
「……」
ヒロは、言葉を失った。
動いていない。
ただ座っているだけ。
それなのに——
視線だけで、場が支配されている。
「……来たか」
低く、静かな声。
それだけで、空気が重くなる。
「面白いネ」
ミカが小さく呟く。
ヒロは一歩、前に出る。
「……呼ばれたって聞いたけど」
「うむ」
王は短く頷く。
「まずは確認させてもらおう」
「お主ら——異界の者だな」
「……まあ、そうなるな」
ヒロは軽く答えた。
「ならば話は早い」
王の視線が、三人に向けられる。
「この世界に召喚された者には、それぞれ恩恵が与えられる」
「いわゆるスキルだ」
「戦う力、生きる力——様々だが」
「例外はない」
静かに言い切る。
「……じゃあ」
ヒロは軽く肩をすくめた。
「俺にもあるってことか?」
「そのはずだ」
王の目が、わずかに細くなる。
「確認してみよ」
その言葉と同時に——
ユナが、視線を落とした。
「……」
一瞬。
「……え?」
声が漏れる。
「どうした?」
ヒロが振り返る。
「……なに、それ……」
ユナの視線は、王に向いていた。
「見えない……」
「は?」
「数値が……」
言葉を探すように、続ける。
「……壊れてる」
王のステータス。
そこに表示されていたのは——
読み取れない数値。
崩れたような文字列。
桁が、意味をなしていない。
「……」
ユナが、わずかに息を呑む。
「そんなにすごいデスか?」
「じゃあ——」
軽く、言った。
「魔王もオウサマがナントカできるネ?」
場が、一瞬だけ静まる。
「それは出来ん」
王は、静かに答えた。
「皆、よくやってくれておる」
「だが——」
「ワシがここを離れるわけにはいかんのだ」
短い言葉。
それ以上の説明は、ない。
けれど——
誰も、それ以上聞けなかった。
「……」
ヒロは王を見る。
(……なんだ、この人)
(強いとか、そういう話じゃない)
(……なのに、動けない?)
違和感が、残る。
だが。
「……で?」
ヒロは軽く言う。
「結局、俺のスキルは?」
王の視線が、ヒロに向く。
一瞬。
ほんのわずかに。
「……」
沈黙。
「……ないな」
はっきりと、そう言った。
「は?」
「お主には——スキルが存在しない」
空気が止まる。
「……マジで?」
ヒロは、少しだけ笑った。
「いや……それ、ちょっとキツくないか?」
「周りみんな持ってんだろ?」
「本来なら、あり得ん」
王は静かに言う。
「だが——事実だ」
「……」
ユナの手が、強くヒロの袖を掴む。
「……ヒロ」
その声は、小さく震えていた。
ミカは、少しだけ目を細める。
「……面白いネ」
王の視線が、ヒロに留まる。
ほんの一瞬。
値踏みするように。
「……」
ヒロは気づかない。
この瞬間。
自分が——
例外として見られたことに。
暫しの沈黙の後。
「……ならば」
アデムは静かに続ける。
「ひとつ、依頼がある」
「依頼?」
「魔王討伐に関するものだ」
空気が、わずかに張り詰める。
「といっても、急ぐ必要はない」
「期限も設けん」
「他の依頼をこなしながら、お主らのペースで進めればよい」
「……ずいぶん緩いな」
ヒロは眉をひそめる。
「構わん」
アデムは短く答える。
「これは命令ではない」
「ワシからの——クエスト依頼だ」
「クエストって言い方するんだな……」
「ただし」
アデムの声が、わずかに低くなる。
「実戦は必要だ」
「この先の街が、魔族の襲撃を受けておる」
「お主らに向かってもらう」
「いきなり魔族かよ……」
「初めてだろう」
「ゆえに——」
わずかな間。
「護衛を一人、付ける」
「護衛?」
「選りすぐりだ」
その言葉には、わずかな重みがあった。
「……分かった」
ヒロは短く答える。
「どうせ避けられないなら」
「ちゃんと見てくる」
軽く言ったが——
その目は、少しだけ真剣だった。




