第104話 一瞬
静寂。
誰も動かなかった。
ミカは立ったまま。
胸を貫かれたまま。
動かない。
ピクリとも。
「ミカ……?」
ヒロが呟く。
返事はない。
「ミカ」
もう一度。
返事はない。
ユナも動けなかった。
マキも。
言葉が出ない。
エバは何も言わない。
ただ。
ミカを見ていた。
モラクスがツノを引き抜く。
ドサリ。
ミカの身体が倒れた。
それでも。
動かない。
「……」
ヒロが俯く。
顔は見えない。
何も言わない。
モラクスが笑う。
「いい」
楽しそうに。
「もっとやりたかった」
一歩。
踏み出す。
その瞬間。
風が止んだ。
「……?」
モラクスの目が動く。
ヒロがいた。
モラクスの懐。
その目の前。
モラクスが息を呑む。
「なっ……!?」
間に合わない。
——ドシュッ。
鈍い音。
モラクスの身体が止まる。
一拍。
二拍。
そして。
大量の血が噴き出した。
「ガッ……!?」
モラクスの目が見開かれる。
そのまま。
巨体が吹き飛んだ。
——ドゴォォォォン!!
地面を削る。
木々を薙ぎ倒す。
それでも止まらない。
ようやく。
岩壁へ激突した。
轟音。
土煙。
静寂。
ヒロは振り返らない。
ただ。
倒れたミカを見ていた。
「……」
何も言わない。
その背中だけが。
今まで見たこともないほど冷たかった。




