空の下
今日もフロアは混んでいた。
幾人もの人が掲示板を見て溜息をついて、検索画面をみて挫折していく。
そんな中、何やら鬼気迫る様子でパソコンにしがみついている男がいる。
サングラスをかけてはいるが、理想を偶像化したような端正な容貌の男である。ただ、すらりとした長身には真っ黒なコート、そしてあまり似合わない黒髪である。
「貴恵村数斗さん」
受付で名前を呼ばれているのだが、パソコンの検索画面に見入っているのか気がつかない。
「呼んでますよ」
パソコンの順番を待っていたフリーターらしい青年が呼びかけると、愛想笑いで場所を譲った。
そそくさと受付に顔を出した男を見遣って、受付嬢は男が書いたらしい書類を突きだした。
「既にご職業についておられる方に、斡旋はできません」
「そ、そこを何とか……」
「できません」
押し売りを断るかの如く、即答すると、受付嬢は次の名簿を呼び上げた。
男は居場所をあっけなく追い出されて、職業安定所の入ったビルを出る。
すると、その男の眼前に、一人の女が立った。
淡い茶色の長髪の女である。かっちりとしたスーツ姿で、仁王立ちしている。
「貴恵村さん」
女は怒りを押し殺すように男に呼びかける。
だが、男はそれには応えず、その場を逃げ出した。
はずだった。
手慣れた様子の大男に首根っこを掴まれたのだ。
女はそれを確かめずに、さっさと歩き出す。
「行くわよ。メネッセ」
「め、メネッセ。見逃してくれ」
男が拝むが、巨漢はすまなそうな顔をしながら男を引きずっていく。
「すみまない。貴恵村さん」
「貴恵村さん。毎回毎回、あなたのために労力をさくのは、やぶさかではないわ。でももうちょっと理解がほしいわね」
先を歩いている女は振り返りもせず言った。
男は最後まで望みは捨てない覚悟なのか、あきらめ悪く粘った。
「こういうことはだね。相互理解が必要だと思うんだ。瀬戸さん」
女は道路沿いに止めた車の後部座席側のドアを開く。
「仕事よ」
ビルの上にある雲は、地上をあざ笑うかのように蒼空に消えた。
それはとても、鮮やかに。