70話 告白
金曜日。
朝から川田さんに化粧水という名の賄賂を渡した。娘さんは他県に住んでいるらしいのでフォローできないのだ。
初ちゃんがついに仕事を辞めた。普通のバイトなら引き継ぎがあるものだけれど、私達がやっていたパートは果物ごとの申込制だ。8月後半、初ちゃんは柿の袋かけをしていたらしいが、それが終わり、ちょうど今は次の仕事が始まる前の休みに入ったところだった。10月になれば柿の出荷にキウイにはっさくと繁忙期が続き、初ちゃんはメンバーの中でも若くて体力があり視力もよく手先が器用でギフト用の梱包などもできる貴重な人材だから申し込まなくても向こうから要請が来たりして断りづらくなる。だから今の時期は本当にちょうど良かったらしい。もう所長にもちゃんと話をしてきたとか。ちょっと引き止められたそうだけれど。
もともとドールのためのパートだったから、辞めても生活に支障は無いという。私に人生を半分預けてくれているみたいでかなりのプレッシャーを感じる。
私はリビングのテーブルにハーブティーを置いて初ちゃんの正面に座り、意を決して口を開いた。
「初ちゃん。どうか驚かないでほしい……。」
唯花が隠密と認識阻害を解いてテーブルの下から出て深々とお辞儀をした。
「初めまして。ゴーレムの唯花です。マスターの動画制作をしています。」
「きゃわわ……」
そう言ったきり、初ちゃんは固まっている。初ちゃん帰ってきて〜。
「つまり寝ている時に異世界で能力やらアイテムやらをゲットしているって事?」
しばらくして復活した初ちゃんである。
「そう。アイテムボックスや魔法も使える」
私は指先に水魔法の玉を出して見せて、収納して消す。
「すごい!…そんなバレたら大変な事を私に話してくれてありがとう。信用してくれて本当に嬉しい。」
初ちゃんがちょっと涙ぐむ。
「それに唯花ちゃん!こんな可愛い動くドールが居たら、そりゃ動かない普通のドールを買う訳が無いよね。こんな凄いゴーレムドールを作っちゃうぐらい唯芽さんにはドール愛があったんだね!全然にわかなんかじゃ無かった!何も知らないのに怒ったりしてごめんね。」
初ちゃんがものすごい尊敬の眼差しで私を見ている…
せっかく撮影機材を持って来てくれたというのに、この日は何も撮影する時間がないくらい、初ちゃんと異世界の話をいっぱいした。
初ちゃんは私を嫌わなかったし、むしろ距離が近付いた気さえする。ずっと隠していた事を吐き出せて、私の心も相当楽になったのだ。
夕方息子が帰って来て、初ちゃんは時刻を見て慌てて帰って行った。
「母さん友達とか居たんだ……」
息子の私に対する認識が何気に酷い。
異世界。
ココがダンジョンを見つけたらしいと知らせて来た。1人で潜らずに報告してくれて偉いね。南へずっとずっと行った場所でちょっと遠く、ココに乗って唯花が偵察に行く事になった。帰りは念話でイメージを送ってもらって、それを通じて転移で迎えに行くつもりだ。
ココの思念がもっとハッキリ見えればなあ……。
ココを見てそう思ったら、ココが何度もぼんやりした風景を思念に乗せて一生懸命送って来た。
「ココちゃんを責めたわけじゃないのよ。」
ココには何故か常に気持ちが筒抜けになってしまう。地球の猫達もそうだけれど、動物には思念が伝わりやすいのだろうか。
唯花にはスキルで念話を送ろうとした時しか伝わってないみたいなのに。とにかく念話には気をつけないと。
良い魔石をゲットできたら、唯花をパワーアップできるかも知れないけれど、親鶏の魔石を違うものに変えたらココとの信頼関係がどうなるかがとても不安だ。
「マスターが聖域を活動拠点にしたい意思は尊重したいので、私が中に入って確かめてきます!」
「ごめんね、頼りないマスターで。もし転移したのが和樹なら、神様の意思通り動けたのかな……。」
でもあの子を危ない目に遭わせなくて済んで良かったと心から思う。神様、私を選んでくれてありがとうございます。
「いえ!和樹さんが転移してたら私は生まれていませんから、ここに来たのがマスターで良かったです!」
私は待っている間、出店に向けてドール服の制作をした。




