13話 目玉焼きとたまごせんべいは別物である
土曜日:地球
キッチンの椅子に座っていると夫が隣に座った。
「おはよう。唯芽。考え事かい?」
「おはよう」
私はすぐ立ち上がって朝食の用意をはじめる。
夫は私が調理する邪魔にならない様に3人分のコーヒーを淹れた。長年一緒に居るから、夫はこういうさり気ないサポートが完璧なのである。
「おはよう。ねえ、母さんどうした?」
「今日は考え事の日みたいだよ」
夫が苦笑しながらテーブルにコーヒーを置く。
「なあ父さん。言い忘れてたけど、この前母さん自転車で爆走してて……」
何と。あれを息子に見られていたとは。
「そうか。唯芽、あまり危ない事をしてはいけないよ?」
夫がとても珍しい事に私を叱る。この人は本当にダメな事をした時しか私を叱らない。
「ごめんなさい。これからは気を付けます」
怒られてしまったが、私も確かにあれは危なかったと思うので反省だ。
最近出費が増えている。理由は異世界の為だ。油断していたらパートをしていた頃にためた自分個人の貯金がだいぶ目減りしていた。
自分の名義の貯金はへそくりのようで罪悪感があり、パートを辞めてから全然増えていないのだ。
世間一般常識的には、貯金に遠慮をするのはナンセンスだと分かってはいる。だがやはり気を遣ってしまう。自分は人として足りない物が多すぎるから、あまり夫を頼ってはいけない気がするのだ。
夫婦とは支え合うものらしいのに、私は支えられっぱなしだ。せめて何でもできる様になってからなら、対等に向き合える気がする。
ちなみに家計のお金も、食費が浮いているつもりで特にそんな事はなかった。色々買いだめだのストックだのしすぎた。
フリマで何か売って稼ぐか。
だが土魔法で作ったものは異質すぎる。
服、アクセサリー類が無難か?
今後の為に服飾関係や金属加工のスキル習得を目指して家にある要らないものをアイテムボックスにぶちこんであっちで修行しなくてはと決意する。
今日のご飯は肉じゃが。でも牛肉じゃない。
猪じゃがである。食べても食べてもまだまだあるのだ。
「唯芽。いつもありがとうね。美味しいよ」
夫はいつもの顔で柔らかに微笑むが、息子のテンションが明らかに上がっている。やはり異世界食材は美味しい。
「おう。最近ますます飯がうまいわ。更に腕に磨きがかかってんな」
「喜んで貰えて良かった」
今日の私は少しだけ捻くれていて褒められても斜に構えてしまう。
それは私の腕じゃなくて、お肉が良いのだ。
そういえば昔何かのインタビューで、どこかの会社の社長が歓迎会で新社員に肉じゃがと卵焼きを作って持って来させ、各家庭の食の違いを話題に親睦を深めるなんて得意顔で語っていたのを思い出した。一体それの何が面白いのだろうか。
私も夫も実家の肉じゃがは牛薄切りだったけれど、私が作る時はだいたい豚薄切りだから家庭は全く関係ない。安いからだ。信念も思い入れも全くない。そこを突っ込まれても大きなお世話である。
そもそも一般的でない事がコンプレックスだと感じる人も居る。人と違うと指摘されることに恐怖を感じる人もいるのだ。
ちなみに母は店ではだし巻きを作る事が多いけれど、醤油辛い卵焼きも甘い卵焼きも作る。私がそれを好きだからだ。つまり何を言いたいかというと、何かを好きということと他を否定することは違うのだ。
これはかの、目玉焼き何かける論争と同じではないのか?
目玉焼き何派?全くもって不毛。
別に何かけようが何もかけまいが自由としか言いようが無い。
例えばたまごせんべい(たこせんともいう)を神の食べ物などとあいつ《・・・》は語っていたが、確かに天かす、マヨネーズ、そして卵とソースのマリアージュは客観的に旨いと評価せざるを得ない。ちなみに私はソース派ではない。あえて言うなら目玉焼きは何もかけない派だ。
だが、例えばモーニングセットを頼んだ時にベーコンエッグにケチャップがかかっていたとして、この店は分かってない、これは私への挑戦なのか?!などとは別に思わない。
卵は何にでも合う。皆はおそらくそれを知った上で、このどうでもいい論争を楽しんでいる。
だけど私にとっては何も楽しくない上に、そういう話題に私を加えようとする輩に限って、私の価値観を話すと『空気読めね〜』などと思われるので非常に面倒くさいことこの上ない。
結局最後にはどうせ和解するのである。
熱く語ってしまったが自分は、目玉焼きが別段好きという訳ではない。
毎朝の朝食にはなってはいるが。オムレツだと卵3個を必要とするのに対し、目玉焼きは卵1個で済むからという理由に他ならない。
これからも息子が先入観を持たない様に色んな味付けでご飯を作ろうと心に誓う。
——
異世界。
「できた!」
昨日仕上げた革を木で作った骨組みに張ってローチェアを作った。
まだまだ余ってるからレザークラフトでバッグとか作りたい。アイテムボックスがあるからバッグ要らないんだけどね。
ピザ窯の時に大量に作って積んであったレンガをふと鑑定すると聖域のレンガになっていることに気付いた。
作った時はただのレンガだったのに
薬草畑を囲んでいる柵も、聖域の柵に変わってる。
猪事件から怖くてしばらく拠点から出てなかったけど……。
「これ使えば安全に拠点を広げていけるじゃん」
1日かけて大量に柵を量産した。
問題は設置する為に外に出る必要があること……。




