第八話
「……どこだ、一体」
俯せていた顔をジンは起こすと、辺りを見回した。霧があたりを立ち込め、地面はごつごつとしたこげ茶色の平らな岩石ような物だった。見た事も無い様な草木が所々生えている様で、水たまりも所々あった。潮の香りはしないが水気の香りがする雨が降った後の様な感じだ。
「たしか、波にのま……れ?」
ジンはバッと起き上って周りを確認する。すると、すぐ後ろにライラたちが倒れていた。
「おい! おい!!」
「うっうぅ~~~ん。な~に?」
ライラの肩を揺さぶると、ゆっくりと目を開けた。ジンはそれを見て短くため息を一つつくと、その横にいたリオも声を掛けて揺さぶる。
「な~に?」「ピコ~」
とりあえず、無事なのを確認してジンはもう一つため息をつく。そして、もう一回周りを確認する。
「たしか、砂浜で波にさらわれたはずだよな? 俺たち」
「ええ、そうよ。そのはずよ」
「なら、ここはどこだ?」
「流れ着いた、先?」
「それにしては、潮の香りがしねぇ」
「そうね。それに……私たちも潮の香りがしないわ」
「!? ……マジか。
何か、また夢でも見てる感じだぜ……」
「それなら、早く覚めて欲しいけれど……」
ため息をつきながらジンとライラは言う。
たしかに、波にさらわれて着いたにしては、ここはおかしかった。さっきの浜辺みたいな場所ならまだいい。それでも、あんな高波さらわれて生きているのは奇跡に近いが。着ている服からも潮の香りがしないのはもっとおかしい。
ゆっくり辺りを見回しても、海や砂浜の気配すらしなかった。少し不気味な感じの霧が音も無く薄く広がっていた。
「まっこうしていても始まらねぇ。
向こうの方はまだ霧が薄い。あっちにでも行って見るか」
「そうね。何かないか探しましょう」
そう言って、何やら変な形の植物が珍しいのかアオと一緒にしゃがんで見ていたリオに声を掛けて、ジンの言う右手の方角へジンたちは歩き出した。何かないか若干の期待をして。
しかし、期待を裏切るかのように同じような風景が続いているだけだった。たしかに、霧は段々と薄くはなってはきていたが。
「何もかわらねぇな」
「見た事も無い変な植物は生えているけど……」
「変だよね~~」「ピコ~~」
大きな壺みたいな物を掲げた物。平べったいとらばさみの様な物。それらが大きな石畳上の岩石の間に生えていた。その岩石たちは平べったく並んでおり、平坦な地形を生んでいた。ので、余計にずっとこの風景が続いて行くような感じを受ける。
「場所も見た目も違うが、さっきの浜辺と同じ感じを受けるぜ」
「ああ、それは私も感じるわ。この何とも言えない感じ」
見渡せば広く見えるのに、やれることが少なくて閉鎖感が漂う。そんな雰囲気にジンとライラはどこか倦怠感を感じていた。
「ライラ!!」
そんな気だるげな中、それに気づけたのは何とは気なしに横を向いた時だった。ジンの斜め後ろを少し離れて歩いていたライラを、頭から食べようとしている大きな咢をジンが見たのは。
「!?」
そしてその大きな咢を開けたまま、その魔物は止まっていた。ピクリとも動かず、時間が止まったかのように微動だにしなかった。
「今の内に離れろ!!」
その声が引き金になったように大きな咢を魔物は閉じる。魔物は暫し口の中に獲物がいないのを不思議そうにしながら、獲物が逃げた事に気付くと唸り声を上げなら睨みつけてきた。
「何で助かったの!?」
「詮索は後だ!!」
『グゥゥゥルルル』
ジンは両手に剣を構えると、隙無く構える。相手は首が蛇の様に長い四足の魔物だった。その頭は不格好なほど大きい咢を備えており、そこから低いうなり声が聞こえてきた。
魔物は牽制なのか、素早く首を伸ばして攻撃してくる。が、急にまたもやピタッと止まった。
その無防備な状態にジンは走りよると伸びた首を下から切り上げる。魔物は突然の斬撃にのた打ち回りながら、ライラの炎で焼かれるとあっけなく魔核石を残して消えた。
「何だったんだ、今のは?」
「魔物だけ時間が止まったみたいだったわね」
「また、何か変な事が起こったのか?」
「今の~?
今のはアオがやったんだよ~」「ピコ~」
「「はぁあ~~!?」」
不思議な現象にジンとライラは首を傾げていると、隣で答えが上がった。表情なんて無いはずの案山子がどや顔しているのがわかった。なぜだか。
「アオ助がやったって、ってどうやって?」
「どうやって?」
「ピッコ」
「見て止めたんだって」
なぜリオには会話ができているか謎だが、アオが止めたらしかった。
「見て止めたって、何でも止める事が出来るの?」
「ピコ」
「なら、ジンは?」「ピコ」
「何で、そこでお……」
不自然に口を開けたまま、ジンの動きが止まる。
「……れなんだよ! 他の物にって、何だ?
!? まさか! 止まったのか、俺が?」 『ガラッ』
自分に指差して聞くジンにライラは頷く。
「マジか……。
じゃ、ライラは?」「ピコ」
「ちょっと、わ……」
「うっわ~~、マジで止まってやがる」 『ガラッ』
ジンはアオにライラを止めてもらうと、ライラの目の前で手を振って確かめる。
「……たしに、しないでくれるって、止まってた?」
「ああ、怖いくらいにな」
「……なんて能力。反則的ね」 『ガラッ』
「だな。
これ、どんくらいの間止めれる?」
「ピッコ」
「自分が止まっている間だけだって」 『ガラッ』
そう言って、アオは揺れている体をピタッと止めた。そして、しばらくしてゆれて動き出す。じっと立っているのは難しいのだろう。案山子なのに。
「それだけの間でも、すごいわ」
「ああ、アオ助と組んだら、止まっているうちにどうにかすればいいからな。
さっきみたいに」
「あ! そういえば波とかは無理だったの?」 『ガラッ』
「ピコ」
「ああいうのは、無理だって」
『ガラッ』
そう言って、リオとアオが指差す方の先、自分たちが歩いて来た先は……。崩れて何も無かった。
『ガラッガラッガラッ』
「走れ~~~!!」
ジンは叫ぶと一目散に崩壊の反対へと駆け出した。ライラたちもそれに続く。そして、これまた追いかける様に地面は崩壊していく。
「ねぇ~~?」
「何だ!?」
「どこまで走るのよ?」
「地の果てまでだよ!!」
そういって、ジンは走るが……。急に目の前の霧が晴れると、ジンたちの前に地の果てが見えた。
「「な!?」」
少し先からは崖らしくその先はだだっ広い空間が広がり、遠くに頂上部が真っ平らで広い山がいくつか見えた。そのどれもが雲がかかるくらいに高い山だった。
足を止めて眺めると、そもそもここは同じような真っ平らで広い高山の頂上部らしかった。
崖っぷちから下を眺めると、落ちるのにも時間がかかりそうなほど遠くに崖下の地面が見える。
「ねぇ~どうするのよ!?」
「どうって……どうする?」
「……それを聞いてるのよ!」
「崖に剣を突き刺して降りる? アオ助で止めてる間に? こう右足が落ちる前に左足を?」
「出来るわけないでしょう!!」
『ガラッガラッガラッ』
そんなジンたちの迷いも関係なしに足元から等しく崩れていく。
「「「うぁぁぁぁぁぁぁああああ~~~~」」」「ピコ~~~~~~」
そして……。
「「うぁぁぁぁぁぁぁああああ~~~~あぁあ!?」」
「氷~~~」「ピコ~~~」
いつの間にか、白く白いだけの氷原が目の前に広がっていた。何の脈絡もなく……。




